(10)【インタビュー】コピーライター 糸井重里さん(上) 前向きな体験重ねて

「前向きな体験を積み上げて」と語る糸井さん
「前向きな体験を積み上げて」と語る糸井さん

 コピーライターの糸井重里さんは東日本大震災と東京電力福島第一原発事故発生後、放射線をテーマにした本を出版するなど福島に対する正しい情報を発信しようと、活動を続けてきた。本県と県産農林水産物などに対する風評を、どうすれば払拭(ふっしょく)できるのか。福島民報社の単独インタビューに対し、「前向きな体験や事業を一つずつ着実に積み上げるべき」と語った。


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 -東北地方の復興に向けた取り組みを続けている。きっかけは。

 「地震で自らも激しい揺れを感じたことで他人事と思えず、被災地を思った。可能な範囲で役に立ちたいと考え、宮城県気仙沼市を拠点に活動を始めた。福島は原発事故の影響で他の被災地と状況が異なり、当初はどのような支援ができるか悩んだ。放射線について何が本当かを伝える役なら果たせるかもしれないと思い、本を出した」

 -物理学者の早野龍五さんと出版した「知ろうとすること。」はデータに基づき放射線に関する知識を分かりやすく伝えている。

 「早野さんは常に客観的なデータを提示し『安全か危険かは自分の心で決めてください』とのスタンスを保っていた。科学者として誠実な姿勢だと感じ、出版に向けて打ち合わせを重ねた。放射線を完全に理解できている人、全く受け入れられない人は、それぞれ一定程度いる。その真ん中にいる普通の人たちが今後、どうしていきたいのかを考える際の道しるべになるよう意識した」

 -糸井さんは雑誌の取材などで、原爆で壊滅的な被害を受けた広島と福島の復興を重ねて話している。

 「広島にはお好み焼き、カキ、自動車メーカーのマツダ、プロ野球チームの広島カープなど有名な産物、企業がある。その復興は焼け野原から始まった。終戦後、(国には支援する力がない中で)生き延びた人々が長い年月を費やしながら、少しずつプラスのアイデアや事業を積み上げていった」

 -福島の復興に向けた取り組みはどうあるべきか。

 「福島の復興にこれ以上長い時間を要してはならない。広島では人々が前向きな体験や事業を積み上げながら、生き生きと活動してきた。自分がこうありたいというアイデアや事業をどう生み出すかがポイントになる」


 いとい・しげさと 群馬県出身。株式会社「ほぼ日」代表取締役。「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰。広告、作詞、文筆、ゲームなど多彩な分野で活躍している。著書に「知ろうとすること。」(早野龍五氏との共著)、「ボールのようなことば。」など多数。68歳。