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YouTubeのウォジスキCEO退任へ、相次ぐトップ交代劇

日経ビジネス電子版
米グーグル傘下で動画共有サービスを運営するユーチューブのスーザン・ウォジスキ最高経営責任者(CEO)が退任を表明した。自ら退任メッセージを社員に送り、公式ブログでも同内容を公開。ユーチューブの広告収入は足元で2四半期連続で減収となっている。5人の子供を育てながら、創業期から四半世紀にわたってグーグルに関わり続けた彼女の退任は、急成長を遂げた米巨大IT(情報技術)企業時代の地殻変動を象徴する出来事ともいえる。

「25年前、私はスタンフォード大学の大学院生たちがつくる新しい検索エンジンのチームに参加する決断をしました。彼らの名はラリーとセルゲイ。ユーザーも少なく収益もない会社でしたが、彼らがつくっているものは非常にエキサイティングで可能性を感じました。それは私の人生で最高の決断の1つになるでしょう」

ユーチューブのスーザン・ウォジスキCEOが社員向けに送った退任メッセージは、まるで自分史を振り返る日記のようだった。それも当然だろう。ウォジスキ氏のキャリアはグーグルと切っても切れない関係にある。

ウォジスキ氏がグーグルに入社したのは設立直後の1999年。米シリコンバレーにある同氏の実家のガレージをグーグル共同創設者のラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏に貸し出したのがきっかけだ。実妹のアン・ウォジスキ氏がブリン氏と結婚するなど個人的なつながりも深い。

入社後はマーケティングマネジャーとして消費者向け製品の初期開発を主導。2002年からはグーグルの広告製品に携わり「グーグルアドセンス」などを手掛けていた。06年のユーチューブ買収に貢献し、14年から同社CEOを務めていた。

退任の理由としてウォジスキ氏は「家族、健康、そして私が情熱を注いでいる個人的なプロジェクトに焦点を当てるため」としている。同氏は5人の子供を持つ母としても知られ、家族を大切にしたいとの気持ちも透ける。

22年、日経ビジネスの編集長インタビュー「YouTubeのウォジスキCEO『人は自分の物語を共有したい』」では、「5人の子供を育てながら仕事をするのは、親としても母としても非常に難しい」と子育てをしながらのかじ取りの苦労を語りつつも、「でも、今は5人いてよかったなと思います。子供のインターネットの使い方を自分の目で見られますから。若い人たちがメディアをどう使っているかを間近で見られるのです」と話した。親でありつつ、製品やサービス改善につなげるヒントを探す経営者の視点も垣間見えた。

ウォジスキ氏は退任のメッセージの中で実質的な後継者として最高製品責任者(CPO)のニール・モーハン氏を指名した。モーハン氏はグーグルがネット広告配信のダブルクリックを07年に買収した際に入社した人物。両氏は15年近いキャリアを共に歩んできた盟友だ。「ニールはユーチューブの素晴らしいリーダーになるでしょう」とウォジスキ氏は期待を寄せる。

業績は曲がり角に

新しいリーダーを迎えるユーチューブだが、足元の業績は曲がり角を迎えている。米グーグルの持ち株会社である米アルファベットが2月2日に発表した22年10〜12月期の決算において、ユーチューブ広告事業の売上高は前年同期比7.8%減の79億6300万ドル(約1兆700億円)にとどまり、2四半期連続の減収となった。

新型コロナウイルス禍による「巣ごもり需要」の波に乗り、世界中で動画を視聴する人が増えて収益を押し上げていた。だが、景気減速により広告収入への逆風が強まり、この半年で風向きは変わりつつある。アルファベットのスンダー・ピチャイCEOは決算説明会で「コロナの流行に伴いデジタル分野への投資が急増した後、経済環境が厳しさを増している」と危機感をのぞかせた。

動画配信サービスでは競合も過渡期を迎えている。米ネットフリックスは22年10〜12月期決算で売上高が2%増の約78億5000万ドル(約1兆円)にとどまった。02年の上場以来、最も低い成長率だ。決算発表と合わせて創業者のリード・ヘイスティングス氏がCEOを退任する人事も発表した。

業界内では米ウォルト・ディズニーの「ディズニー+(プラス)」や米アマゾン・ドット・コムの「プライム・ビデオ」などが会員数を獲得するため多額のマーケティング投資を重ねる。新規の動画視聴者が伸び悩む中、既存ユーザーの「可処分時間」の奪い合いが国境を越えて勃発。消耗戦に突入するリスクもある。

ウォジスキ氏は退任のメッセージでこうも語っている。「今、グーグルは非常に重要な時期にあります。創業当初を思い出します。驚くべき製品やイノベーション、非常に多くの機会があり、そして不可能を無視したあの時代を」

25年もの間公私ともにグーグルと関わってきたウォジスキ氏の退任は、一時代を築いた動画配信ビジネスの地殻変動を象徴する出来事になるかもしれない。

(日経ビジネス 朝香湧)

[日経ビジネス電子版 2023年2月17日の記事を再構成]

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