藤津亮太のテレビとアニメの時代 第24回 00年代 テレビアニメ放映過去最高へ

藤津亮太のテレビとアニメの時代
第24回 2000年代 テレビアニメ放映過去最高へ 生じた「制作」と「編成」のズレ

藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。
編集者などを経て、2000年よりフリーに。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)。編著に『ガンダムの現場から』(キネマ旬報社)など。アニメ雑誌、そのほか各種媒体で執筆中。
ブログ:藤津亮太の 「只今徐行運転中」 http://blog.livedoor.jp/personap21/

 
■ 2000年から2006年までのテレビアニメ放映本数の変化

 今回取り上げるのは’01年から’06年までの深夜アニメの変遷だ。’06年は年間放送本数が306本(日本動画協会調べ)と過去最高となる年。それに合わせて深夜アニメも増加していく6年間である。
 この増加局面は、さまざまな齟齬を生むことになった。

 たとえば2003年のフジテレビ作品に注目してみよう。
 たとえば『GAD GUARD』で、第7話の納品が遅れたため、第6話を再放送するという事態が起きている。また『WOLF’S RAIN』では途中に、実質的に総集編といえる内容のエピソード4話が入ることになった。
 これはどちらも制作本数の急増による制作事情の悪化が背景にあると思われる。
 またフジテレビは『R.O.D -THE TV-』『GAD GUARD』『WOLF’S RAIN』の3作品を最終回まで放送しなかった。
 これは11話を1クールとするフジテレビの編成上の考え方と、持ち込まれた企画である各アニメの放送本数が合わなかったための措置といわれている。

 ここから明らかになるのは「制作」と「編成」のズレだ。
 制作というのは時にお金を出資して、番組を作ること。編成は、番組をどのような時間帯に配置して放送するかを決定する部署。
 旧来のTVアニメであれば、局製作と呼ばれテレビ局がアニメに主体的にかかわっており、制作と編成は部署こそちがえど、「どんな内容のものを制作するか」と「どの時間に放送するか」は一体のものだった。
 ところが’90年代半ばより、ビデオメーカーが主体となってアニメ企画を動かし、DVD販売で予算をリクープする方式が増えてくると状況が変わった。深夜枠は一種の試写会場となり、テレビ局はチェックはするものの、局製作の企画よりは関与が薄まった。この結果、「どんな内容のものを制作するか」と「どの時間に放送するか」がバラバラの論理で動くことになった。それが放送枠優先で、最終回を放送しないという編成の論理優先の事態につながった。

 逆の場合もある。
 たとえば『英國戀物語エマ』は、製作にTBSが入っているが、TBSでは放送されず(TBS系列のBS局、CS局では放送)、全国のU局などで放送された。ここでは「どんな内容のものを制作するか」という制作の論理はあるが、編成の論理とは別次元で動いている。
 つまり2000年代前半の放送本数増加局面というのは、制作と編成の論理がもはや一体ではないというのが明らかになる過程でもあった。
 それは「TVアニメ」の終わりの始まりの光景といってもいいだろう。
 ソフト販売が前提となった以上、TVというのは流通チャネルの一つでしかない。TVとアニメの関係が変化したことが、制作と編成の齟齬というかたちで明らかになったのだ。
 U局での放送本数が増加していくのも、同じく「TVアニメ」の終わりの始まりの光景だ。

 規模の小さなU局では、人手も予算も足りない。だから制作段階でTV局が積極的にかかわることはない。TV局は、引き受けた企画が放送上問題がないかどうかチェックするのが主な役割となる。
 深夜アニメのビジネスモデルは、通信販売番組と同じだ。ビデオメーカーや広告代理手が放送枠を丸ごと買い上げ、その中でDVDの宣伝としてアニメを(無料で)放送する。U局がそれでもアニメを放送するのは、深夜が通信販売番組ばかりというよりは、「番組」に見えるものを放送したほうが、放送局としても体がいいという事情もあるようだ。
 ここではTV局の「制作」の論理は弱く、編成(というよりさらにいえば営業の)論理が前面に出ている。

 ’90年代前半からアニメはその放送本数をゆるやかに増やし、’00年に深夜アニメの本数が一旦減るものの、’06年までずっと右肩上がりで推移してきた。
 その中には『美少女戦士セーラームーン』や『新世紀エヴァンゲリオン』といった大ヒット作を含んでいる。
 そういう意味ではこの時期を、’77年~’85年までの第1次アニメブームに続く、第2次アニメブームと呼んでもいいだろう。
 だが、その“第二次アニメブーム”の中で、TVアニメが大きく変質してしまった。
 その変化が。DVD中心のビジネスモデルで成立している深夜アニメにははっきりと記されているといえる。

[資料]
2001年~2006年 深夜テレビアニメ放映番組一覧
(いずれもクリックで拡大)

2001年
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2002年
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2003年
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2004年
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2005年
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2006年
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