大学時代に魚類の骨格を研究していたこともあり、2年前に部門展「骨格標本の世界」を開いた。「骨は動きの土台。生態や進化の歴史を知る手がかりになります」。

学芸員の仕事と並行して、淡水域に生息する魚類(淡水魚類)の研究も進めている。

徳島県立博物館
学芸員・脊椎動物担当 井藤大樹さん(34・香川県出身)

 生まれは香川県小豆島。父親の仕事の関係で、2歳から10歳までの幼少期を徳島で過ごした。「家の近所の園瀬川でよく遊んでいました。魚、ザリガニ、イモリなんかを捕まえて。あと、生き物について知りたくて徳島県立博物館にも頻繁に行ってましたよ」と井藤さん。それから別の地域へ移り住み、高校のときに再び徳島へ。「何年かぶりに園瀬川を見たら、“前より川が綺麗じゃなくなってる…?”と感じました。そこで自然環境のことも気になり始めたんです」。調べていくうちに、魚類学や保全生物学を専門とする細谷和海先生のことを知り、先生がいる近畿大学農学部へ進学した。後に井藤さんが師匠と慕う人物である。大学院時代を含む6年にわたって、細谷先生の元で主に淡水魚や自然の保護・保全等について学び、博士課程を修了した。大学時代から、「博物館の学芸員になれればいいなぁとふわっと考えていました。ただ、自分が専門としている分野で募集がかかるのも稀だし、かつ応募者が多くいるので狭き門なんです」。井藤さんが就職活動をしていた時期に、専門とする分野の学芸員の求人は出なかった。

 大学院卒業後は、環境省の吉野自然保護官事務所(奈良)で自然保護官補佐を務めた。吉野熊野国立公園(特に大台ケ原)内で利用者の指導や自然解説、施設等の運営・整備などを経験した。その中で、国立公園や野生生物に関係する法律や規制を学び、ボランティアや地元の人とともに仕事をしていくうちに、自然環境の保全と利用を両立するにはどうすればよいかについて興味を持ちはじめた。環境省で1年間働いた後、NPO法人日本国際湿地保全連合の研究員になった。北海道や東北地方、岡山、大分といった日本各地で現地の専門家と協力し、生物(魚や水草、干潟の動物など)のモニタリング調査をしていた。

 徳島県立博物館の学芸員の募集が出たのは2018年。採用試験を見事突破し、翌年4月に脊椎動物担当に着任した。井藤さんの初めての展示は「奇怪! 魚類の頭骨標本~河野コレクションより~」。海陽町・鞆浦漁協の組合長の河野さんが、海で獲れた魚の頭の骨格標本を作製しており、「もっと魚に興味を持ってくれたら嬉しい」と寄贈してくれたのがきっかけだ。「“子どもたちに見せてあげたい”と地元の方に協力いただけることが本当にありがたいです。展示する際は、河野さんの人柄が伝わるようにしたかったので、河野さんの意見を取り入れながら展示方法を模索しました」。

 現在、井藤さん主体で企画した「ネコ展」を開催している(~8/28(日)まで)。ネコの進化の歴史や人との関係を、実物資料だけでなくパネルなどを使ってわかりやすく解説し、イリオモテヤマネコやライオンといったネコ科動物の剥製も展示している。捨てネコの増加や不妊去勢手術等の社会問題も紹介しており、「表面的なかわいさだけでなく、こういった現実も含めてネコを好きになってほしいという意味を込めました。僕は毎回、自分の中で伝えたいことを直接的・間接的に展示に込めています。来館者の方々には、展示をとおして何かを感じ取ってもらえればいいなと思っています」と力を込める。

 徳島県立博物館では脊椎動物を担当しているが、専門である淡水魚類の研究も熱心に続けている。井藤さんが2年前に立ち上げた「阿波魚類研究会」は、魚好きなメンバーが集まって結成した会だ。園瀬川の上流から下流を辿り、各地点でどんな魚が棲むのか調べたり、鳴門のコウノトリの生息エリアで見られる魚類図鑑を制作したり。「生き物を調べていくと、その土地の自然環境が見えてきます。徳島にはまだまだ生息することすら知られていない生き物がたくさんいます。しかし、開発などで川や海からどんどん生き物がいなくなっています。それらを調査して、徳島の豊かな自然環境をもっと知りたいですし、みなさんに伝えたい。生き物と人との持続可能な関係も探っていきたいと思っています」。

徳島県立博物館
徳島市八万町向寺山
088-668-3636
営業時間=9:30~17:00
定休日=月曜休
入館料=一般400円、高校生・大学生200円、小中学生100円(高校生以下は土日祝・夏休みなどの長期休暇中は無料)