愛され30年 御前崎の「紀行茶屋」閉店 刺し身定食と絶景評判、名物おかみ万感

 御前崎市の岬に立つ食堂「紀行茶屋」が8月末で閉店した。御前埼灯台の間近にあり、海抜35メートルから遠州灘を一望できる絶景が特徴で、約30年間にわたり地元住民や県内外の観光客に親しまれてきた。店主の山中みさ江さん(71)=同市=は「惜しまれて終わることができて本当に幸せ」と万感をにじませた。

常連客と談笑する山中さん(右)。窓の向こうに海が広がる=8月31日、御前崎市の紀行茶屋
常連客と談笑する山中さん(右)。窓の向こうに海が広がる=8月31日、御前崎市の紀行茶屋

 1992年に空き店舗を改修して開業した。店の西側に灯台がそびえ、20畳の座敷からは水平線を見渡せる。御前崎港で水揚げされる魚の刺し身定食は「身が分厚い」と評判で、シラス丼、サザエのつぼ焼きも人気。御前崎の魅力を満喫できる場所とあって、休日はツーリング客などでにぎわった。
 山中さんの明るい人柄も人気の秘密だった。飾り気のない漁師町独特の言葉で客と交流。遠方から1人で来た観光客に世話を焼き、車に乗せて市内の名所を案内したことも少なくなかった。台風で店舗が被災した時は常連客が修理の手伝いに駆け付けた。
 2011年の東日本大震災以降は観光客が減少した。昨年からは新型コロナウイルス禍でさらに急減し、山中さんは自身の年齢も考慮して閉店を決めた。
 7月に閉店を告知すると、別れを惜しむなじみの客が次々と来店し、店先には花束がずらりと並んだ。最終日の8月31日に訪れた牧之原市の農業村田利夫さん(49)は「おかみの気さくな人柄に引かれた。最後の日に食べに来られて良かった」と、名物の刺し身を感慨深げに味わった。

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