タイ海軍およびプラユット政権が潜水艦隊建設ならびに中国からの潜水艦調達を決定した2015年当時(本コラム2015年7月2日発行)においても、タイ海軍が潜水艦を保有する必要性に対する疑義は提示されていた。しかし、COVID-19パンデミックに見舞われている現在は、「タイ海軍には活動海域や対象とする仮想敵などから判断すると莫大な予算が必要となる潜水艦戦力保有など必要ない」との声がますます強まっている。

タイのCOVID-19新規感染状況

 実際、タイ海軍が中国潜水艦調達費9億バーツを取り下げたのに引き続いて、タイ議会では極めて高額な潜水艦隊構築関連予算(潜水艦関連コントロールシステム3億バーツ、潜水艦工廠9億バーツ、メンテナンスセンター9億6000万バーツ、潜水艦関連要員の生活施設3億バーツなど)に関する削減作業に着手している。

 したがって、アメリカや日本が中国に対抗する形でタイ海軍に潜水艦を売り込むというアイデアは、民主派を中心とするタイ世論にとっては望ましい動きとは言えないと考えられる。

潜水艦ではなく「哨戒用艦艇」供与の交渉を

 とはいっても、すでに中国は1隻の潜水艦をタイ海軍からの発注を受けて建造を開始している。また、タイ陸軍は新型戦車や装甲車両を中国から調達し始めており、中国の軍用車両メーカーはタイ国内にメンテナンスセンターを開設することになっている。

 したがって、このような状況が続くならば、第二次世界大戦中には数少ない日本の同盟国(日泰攻守同盟条約1941年12月21日~1945年9月2日)であり、第二次世界大戦後には1954年からアメリカとの軍事同盟関係(SEATO)も締結していたことのあるタイが、軍事的に、そして政治的にも中国側に取り込まれてしまう可能性が大きい。

 そこで日本としては、潜水艦ではなく、タイの民主勢力も「タイ海軍にとって必要」としている哨戒用艦艇(高性能かつ低価格のコルベットや小型フリゲート、あるいは巡視船)をタイ海軍に供与する交渉を開始し、古くからの親日国であるタイとの友好関係を維持する努力を開始しなければならない。