開業70年の西武園ゆうえんち 老朽化生かした「レトロ」な演出

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目玉アトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」が入った映画館「夕陽館」=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影
目玉アトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」が入った映画館「夕陽館」=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影

 埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちが19日、リニューアルオープンする。全盛期の1980~90年代を知るファンなら、リニューアルをさみしく思うかもしれない。子供のころに同園をよく訪れた埼玉県出身の記者も、「西武園は変わってしまうのか」と不安があった。オープン前日に報道陣に公開されると聞いて駆けつけると、そこには昔からの設備を生かした懐かしい空間が広がっていた。【中嶋真希/デジタル報道センター】

 同園は50年に開業。大観覧車などの乗り物だけでなく、夏のプール、冬のスケートリンクなどもあり、おもに周辺住民に愛されている。88年度に年間194万人が来場してピークを迎え、91年にはSMAPが園内のイベントステージ「アイドル共和国」で、デビュー発表コンサートを開催した。

 しかし、レジャーの多様化や施設の老朽化で徐々に入場者数が減り、07年度以降は年間60万人を割るように。19年度は年間約38万人まで落ち込んだ。開業70周年の節目に向けてリニューアルが決まり、総事業費100億円を費やし、3年かけて準備を進めたという。

 リニューアルのコンセプトは、「心あたたまる幸福感」。昭和の世界に「おせっかいな住人」が暮らしており、彼らとのふれあいを通じて幸せを感じられるのだという。一体、どんな遊園地に生まれ変わるのか。

広がるリアルな「昭和」の世界

 オープン前の18日、リニューアルの全貌が報道陣に公開された。同園の目の前にある西武山口線「西武園ゆうえんち駅」を降りると、すでに昭和の世界が広がっていた。メインエントランスは鉄橋のようなデザインになっており、入園するとすぐに「夕日の丘商店街」と名付けられた商店街がある。植木等さんや水前寺清子さんの曲が流れ、当時の建物を忠実に再現した写真館や薬局、喫茶店などが並ぶ。「カステラ1番、電話は2番……」と文明堂のコマーシャルソングまで聞こえてきた。

「夕日の丘商店街」で音楽隊としてパフォーマンスを繰り広げるキャストら=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影
「夕日の丘商店街」で音楽隊としてパフォーマンスを繰り広げるキャストら=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影

 商店街を行き交う住人たちもにぎやかだ。高く積んだせいろを手に、器用に自転車に乗るそば屋、来場者に「泥棒はどっちに行きましたか」と聞きながら泥棒を追いかける警察官、流しのミュージシャン――。彼らがパフォーマーであることを忘れてしまうほど、徹底した昭和の雰囲気作りがされている。喫茶店に入れば、出てくるメニューはクリームソーダにナポリタンと、食べ物も昭和メニューにこだわっている。

 商店街の脇にある丘の上には、住人にとって憩いの場所だという映画館「夕陽館」が建っている。実は、これが同園の目玉アトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」。映画を見に来たはずが、キングギドラとゴジラの激闘に巻き込まれてしまうという設定だ。

 映像に合わせて座席が動くアトラクションだが、リアルな映像に記者は悲鳴が止まらなかった。それもそのはず、映像技術VFX(視覚効果)を担当したのは、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」で昭和の町並みをVFXで表現した映画監督の山崎貴さん。映像だとわかっているのに、地面にぶつかりそうになって足を上げてしまったり、キングギドラが追いかけてくるのが怖くて目を閉じたりしてしまう。圧倒的な映像に、終了後、報道陣から拍手がわいたほどだった。

古いアトラクション、あえて残す

 リニューアルは、新たに作られた「レトロな世界」だけではない。同園は、80年代に作った古いアトラクションをあえて残す選択をした。すべてを一新するのではなく、懐かしさを感じてもらうことが狙いだという。

1985年製のタコ型の乗り物「オクトパス・アドベンチャー」の座席。年季が入る分、人々に愛されてきた歴史も感じる=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影
1985年製のタコ型の乗り物「オクトパス・アドベンチャー」の座席。年季が入る分、人々に愛されてきた歴史も感じる=埼玉県所沢市の西武園ゆうえんちで2021年5月18日、北山夏帆撮影

 大きく揺れる海賊船をテーマにしたアトラクション「バイキング」は、81年製。乗り物の横に立つ海賊の人形は、塗装がはがれて壊れかけていた。すぐ隣にあるタコ型の乗り物「オクトパス・アドベンチャー」も85年製と年季が入っているが、運行中に流れるBGMを刷新したのみで、古い姿のままだ。そのほかにも、大観覧車や富士見天望塔、回転空中ブランコなど、いずれも80年代に作られたアトラクションが、昔のままの姿で来場者を迎えてくれる。

 同じ西武鉄道沿線にある東京都練馬区の「としまえん」は昨夏に閉園し、「ハリー・ポッター」の世界を体験できる施設に生まれ変わる。一方、西武園ゆうえんちは、昔ながらの雰囲気を生かして、レトロな雰囲気を楽しめる空間になった。昔からのファンに懐かしさを感じてもらいつつ、新たな価値を提供することはできるか。19日午前9時のグランドオープンで、西武園の新たな幕が開く。

 1日レヂャー切符(入園、アトラクションフリー)中学生以上4400円、3歳~小学生3300円。園内での買い物は、昔のお金のようなデザインの園内通貨「西武園通貨」の購入が必要。営業時間は季節や曜日によって異なるため、詳しくは公式ウェブサイト(https://www.seibu-leisure.co.jp/amusementpark/index.html)で。

新型コロナウイルス対策は

 31日まで入場人数は1日5000人までに制限して営業する。その日の上限に達した時点で、入園券の販売は中止する。従業員はマスク着用や手指の消毒を徹底するほか、定期的にPCR検査も受ける。来場者にも、入園時の検温とマスク着用が求められ、体温が37.5度以上あると入園できない。

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