ゲーム世代へのメッセージも込めて=「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」の山崎貴総監督
2019年08月04日10時00分
1986年の第1作以来、80以上のタイトルが発売され、全世界での累計出荷・ダウンロード販売数が7800万超を数える人気ゲームシリーズが「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」(八木竜一、花房真監督)として3DCGアニメーション映画化された。総監督は「アルキメデスの大戦」が公開されたばかりの山崎貴。単なるゲームの映像化から脱却した物語の世界に引き込む。
行方不明となった母親を探すために、父のパパス(声・山田孝之)と共に旅に出たリュカ(同・佐藤健)の冒険を描く。1992年に発売された「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」のゲーム展開がベースだ。
脚本は山崎総監督が自ら執筆した。ゲームの要素を過不足なく盛り込んだ内容は前後編、あるいは3部作でも展開可能なボリュームだが、「分けて作る気はなかった。ドラクエだけに関わっているわけにもいかないので」とジョーク交じりに話す。
以前から映像化のオファーを受けていたものの、固辞していた。「映画として戦えることが見つからなければ、作る意味がない。単に物語をなぞったり、ゲームの副読本になったりするだけなら、映画にする必要はないと思っていた」
そこで生まれたのが、クライマックスで起きる驚くべき『どんでん返し』。おきて破りとも取れる趣向は、山崎監督からゲーム世代に向けたメッセージにも受け取れる。
ドラクエの熱烈なファンではなかったが、映画作りの過程でその世界に接し、「これは人生を疑似体験させるゲーム」と感じたという。
「例えば、奥さんを選ぶ。こういう選択を子供にさせるゲームはすごいし、そうした(人生を疑似体験する)要素は映画でも大事にしたかった。今回加えた『オチ』がなくても見られる映画にしなければとの思いは強かったが、原作のパワーにはすでに十分面白いものがある。そこをちゃんと描けば大丈夫だと思いました」
◇声優に俳優迎え、声音に合わせ映像製作
主要登場人物の声優には主人公を演じる佐藤健をはじめ、山田孝之、有村架純、波瑠、坂口健太郎、井浦新、安田顕、吉田鋼太郎らの人気俳優をキャスティングした。通常は映像が完成してから声を吹き込むが、今作ではまず、声を録音してからそのトーンに合わせて映像を製作した。
「役者が絵を決めていく。役者が持つスキルをもらって映像を作ろうと思った。声優ではなく、俳優をキャスティングしたのはそのため」。演じ手と作り手が一体となって作品を作り上げた。
山崎総監督が長編3DCGアニメを手掛けるのは、「フレンズ もののけ島のナキ」(2011年)、「STAND BY ME ドラえもん」(14年)に続き3作目。今年12月には「ルパン三世 THE FIRST」の公開も控える。
過去2作は日本的なテイストが濃厚だったが、今回はヨーロッパ調。「作風は題材によって変わっていく」と言い、日本的なムードにこだわるつもりはないと強調する。
3DCGアニメの強みは「海外に出て行きやすいこと」だという。「2D(の手書きアニメ)はすでに巨大なシステムが出来上がっており、僕らが新たなジャンルを切り開くには3DCGしかない」
「ルパン三世」後の構想は未定。「個人的にはピクサーのようなカートゥーニー(漫画的)なものでなければヒットしない気もするが、そうなると、作品の幅が狭まる。3DCGアニメを作ろうとすると、簡単に3、4年は吹っ飛んでしまうので、安易には題材を選べない」と悩ましい心情を吐露した。
「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」は8月2日公開。
(時事通信編集委員・小菅昭彦)
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山崎貴(やまざき・たかし) 1964年6月12日生まれ、長野県出身。制作会社「白組」でミニチュア製作や合成作業のスタッフとして多数の作品に関わり、2000年に「ジュブナイル」で長編映画監督デビュー。代表作に大ヒットした「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「永遠の0」など。2020年に開催される東京オリンピックのエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターも務める。