BS1 ワールドウオッチング - WORLD WATCHING -

2018年7月23日(月)

議論されるパーム油の是非

塩﨑
「特集・ワールドEYES(アイズ)。
けさは、食用や燃料として広く使われている『パーム油』をめぐる問題について考えます。」


藤田
「パーム油は、熱帯地方で栽培されるアブラヤシの実を絞ってつくられますが、現在、大豆油や菜種油よりも生産量が多く、世界で最も消費されている植物油です。
日本でも食品や洗剤、せっけん、化粧品などの多くの商品に『植物油脂』として使われていて、ヨーロッパでは、自動車などのバイオディーゼル燃料としての利用も広がっています。
その生産量全体のおよそ85%を東南アジアのインドネシアとマレーシアが占めており、この2か国が世界のパーム油輸出の9割を担っています。」



塩﨑
「実は身近な存在になっているこのパーム油ですが、生産量の拡大に伴って森林破壊についての議論も高まりを見せているようです。
まずは、フランス2のリポートをご覧ください。」

“パーム油問題” 議論の的に

油脂の中で最も安価なパーム油は、ケーキ、ポテトチップス、シリアルなど、多くの商品に使われています。
しかし、パーム油は森林破壊などの問題を引き起こし、健康にも悪いと唱える人もいます。
パーム油は禁止すべきなのか?
それが今、議論の的になっています。
90年代以降、大量に消費されてきたパーム油は、不可欠なものなのでしょうか?
ベルギーにあるこの工場は、クロワッサンやビスケットに使われるマーガリンを生産していますが、常温でも唯一固形の状態を保つパーム油は、主要な材料になっています。

工場責任者 フィリップ・テイリーさん
「このように滑らかにするために、パーム油は不可欠です。
ビスケットやケーキがしっとり仕上がります。
他の油脂ではこうはなりません。」

他の油脂より15%ほど安いのも魅力です。
パーム油は世界で最も消費される重宝な植物油ですが、その代償は大きいのでしょうか?

この実を絞り、パーム油を作ります。
そのために、インドネシアでは各地で森林の破壊が行われています。

仏 グリーンピース クレマン・セネシャルさん
「大規模なプランテーションのため、何ヘクタールもの広大な土地が必要です。
問題なのは、その熱帯雨林には、絶滅が危惧されるオランウータンをはじめ、地上に生息する8割以上の種類の生物がいるということです。」

一部のメーカーは、この事実を認め、厳しい規定の元に持続可能な形で生産されたパーム油のみの使用にこだわっています。

森林保全協会 ロール・グレグワールさん
「原生林の破壊はありません。
労働者の賃金もきちんと支払われ、児童労働などは行われていません。
野生動物たちは保護されており、殺虫剤の使用はなるべく避けています。」

もしパーム油の輸入を禁止したら、その代わりはあるのでしょうか?
最近の報告では、菜種油など他の油脂を代わりに生産することになれば、森林破壊の悪化につながりかねないというのです。

専門家 ヤン・ローランスさん
「パーム油には、栽培面積に対する生産量がとても多いというメリットがあります。
つまり、他の植物の栽培に転換することになれば、より多くの栽培面積が必要になります。」

フランスでは、輸入する油脂の80%以上がバイオ燃料として利用されているため、環境保全の支持者たちは、パーム油の利用を食用のみに制限すべきだとも訴えています。

パーム油をめぐる世界の現状は

塩﨑
「スタジオには、ゲストをお招きしています。」

藤田
「長年にわたってインドネシアの農園を調査され、パーム油をめぐる問題に詳しい、同志社大学人文科学研究所・准教授の林田秀樹(はやしだ・ひでき)さんです。」

塩﨑
「フランス2のリポートではパーム油を禁止しようとする動きが紹介されていましたけども、こういう議論は、実際に今、世界で盛んになっているのでしょうか?」

同志社大学 准教授 林田秀樹さん
「世界で一致して輸入を禁止しようという動きがあるわけではありません。
例えば、大きな市場であるアメリカでは近年輸入が伸びていますし、そもそもこのパーム油は、インド、中国あるいはパキスタンといったアジアの新興国・途上国で6割が輸入され、多量に消費されている油です。
こうした傾向に基本的に変わりはありません。
一方、EUでは、2031年以降、バイオディーゼル燃料としてのパーム油の輸入をやめようということが決められていまして、これが大きなひとつの流れといえます。
また、輸入を禁止するというわけではありませんけれども、一定の基準を設けようという制度がありまして、それは『RSPO認証』と呼ばれる制度です。
これはパーム油が極力自然を損なわずに、現地の住民の人権にも配慮して作られているかどうかを審査した上で、その条件を満たしていれば認証を与えるという制度で、こうした認証を得ている業者からしかパーム油を輸入しないという動きが、欧米、日本の業者に2000年代の半ば以降広がってきています。」

高まるパーム油需要 その要因は

藤田
「そもそも、なぜパーム油は世界でこれほどまでに消費されるようになったのでしょうか?」

林田秀樹さん
「こちらのグラフを見ていただきたいと思いますが、2000年以降、急激に輸出が伸びていることが分かります。
直近の2年間は減少しているんですけども、こうした輸出増大、世界各国での輸入増大の背景には4つの要因が大きく挙げられると思います。

まず1点目ですが、食用油としてパーム油は8割方用いられているわけですけれども、その食用油という用いられ方が非常に汎用性が高いという点が挙げられます。
いろんな食材と一緒に広範に使われるという点ですね。
2つ目には、価格が安いという点が挙げられます。
これは、一定量の油を作るのに必要な原材料の農地、これが少なくて済むということに加えて、インドネシア、マレーシアというパーム油、アブラヤシの2大生産国では、安く労働力が調達されるということで、こうした特長がもたらされています。
3つ目が、パーム油を用いて生産されたさまざまな食品の食感が良いという点です。
揚げ物であれば、非常にサクッとしていておいしいと。
あるいはチョコレートやアイスクリームといった加工食品であればパーム油の融点が高いという特長から、なかなか溶けにくい。
今年(2018年)のように暑い日本では、非常に重宝される油なのではないかと思います。
4つ目は、栄養面の特長です。
これは、例えばマーガリンを作る際に、液体の植物油に水素を添加して固めるという行程が、融点の高いパーム油では基本的に必要なくなると。
その過程で発生するトランス脂肪酸という有害な物質が、パーム油のマーガリンではさほど含まれていないという特長が挙げられます。
こうした傾向があって、近年輸出が伸びてきているということです。」

ヤシ農園 急拡大 影響の実態は

塩﨑
「一方で、パーム油の生産地では森林破壊が進んでいるという指摘もありますけども、実際には何が起きているのでしょうか?」

林田秀樹さん
「パーム油を主に生産しているのは、さきほど申しあげたインドネシア、マレーシアという2つの国ですけれども、これらの国では植民地時代以来、企業形態で大規模に換金作物を生産するという伝統が根付いていまして。
その近隣の農民も、おのずと栽培法を身につけて自ら生産に取り組んでいる。
そうした換金作物生産がひとつの基幹産業になっているんですね。
それでもって、近年、森林を広くひらいて、農園が作られてきているという傾向があります。

こうした森林消失による影響は、主に3つ挙げられると思います。
ひとつは、地域住民に与える影響です。
森林の産物を採取して、森林を利用して現在まで伝統的な生活を営んできた地域住民の生活が損なわれる点。
2つ目は、現地の動植物が姿を消して、生態系が後退してしまうという点。
3つ目が、特にインドネシアのスマトラ島で広範に広がっている泥炭湿地という湿地帯を排水して乾地化してアブラヤシ農園に変えていこうという動きが広範に起きていまして、その過程でいろんな要因で火災が発生して、大規模な煙害が生じたりなどしています。」

藤田
「農園開発=森林破壊ということになるのでしょうか?」

林田秀樹さん
「いえ、必ずしもそうではありません。
森林をひらくという形ではなく、別の作物の農地をアブラヤシ農地に転換するということも、アブラヤシ農園開設のひとつの方法になっていますから、必ず森林破壊に結びついているというわけではありません。」

パーム油問題 生産国の対応は

藤田
「こういった問題に対して、生産国ではどのように受け止められているのでしょうか?」

林田秀樹さん
「かつては欧米からの批判に対して、我々の国土で我々が行っていることなんだからということで、反発するむきも多かったように思いますけれども、近年はその批判に答えて、いろんな動きが生じてきています。
そのうちのひとつが、2015年に気候変動に関する『パリ協定』という協定が採択されて、それに呼応する形で現在のインドネシアの政権が取り組んでいる、アブラヤシ農園開設によって損なわれた泥炭湿地の回復という政策です。
2つ目が『ISPO』『MSPO』という、インドネシア、マレーシアで作られている企業や農民が守る義務のある認証制度ですね。
こうした動きがあります。
しかし、そうした動きがあるからといって、アブラヤシ農園の拡大の勢いが止まっているわけではないと。
現在ではおよそ2,000万ヘクタール、20万平方キロの広がりをインドネシア、マレーシアでもっていまして、これは日本の国土面積の53%ほどに相当する面積になっているということです。」

塩﨑
「パーム油をめぐる問題、日本ではどのような動きがあるんでしょうか?」

林田秀樹さん
「NGOさんの活動等がありまして、『RSPO認証』を得た油を輸入するように企業に働きかけている、それに答える企業も増えてきているという点と、どういう自然への影響があるのか、現地への影響があるのかということについての周知活動といいますか、セミナーでいろんな周知活動をしてという点も挙げられるかと思います。」

“パーム油問題” 今後の課題は

塩﨑
「生活に欠かせない一方で、問題も抱えているというパーム油ですが、今後、どのように向き合っていけばいいのでしょうか?」

林田秀樹さん
「生産国では、極力小さな土地で一定の油を作れるような、そういう生産性の向上という課題があると思いますけれども、日本のような消費国では、まずどういう食品にパーム油が用いられているのかということを知るということが第一歩なのではないかというふうに思います。
というのは、なかなか見えにくいですから、そうしたことを知るというのが必要になってくると思います。
今どきは非常に酷暑でアイスクリームなど食される方も多く、消費量も伸びていくと思いますけれども、ひとさじ、アブラヤシで作られたであろう、そのアイスクリームを口に含むときに、遠くインドネシアやマレーシアでどれだけ自然が変化しているか、どれだけ変化してその油が作られているか、どれだけ人出をかけて、その油が作られているかということに思いをはせていただくというのが、まず第一歩ではないかと思います。」

塩﨑
「日本企業による開発というのは、どういうものが進んでいるのでしょうか?」

林田秀樹さん
「日本企業、金融機関からは、農園開設のための投資・融資が非常に巨額に行われてきているということも聞きますし、向こうで結構、所得水準が、農園で働く人、農民の所得水準が高まってきているんですけれども、そうした高まった所得で何が購入されているかといえば、日本製のバイク、これが大量に買われているんですね。
そうした点でも、日本はこの現象にかかわりを持っているということを考えるのも大事なことかなと思います。」

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