インタビュー

いま思えば毎日が崖っぷち。自分のすべてをささげました

いま思えば毎日が崖っぷち。自分のすべてをささげました

戦後まもなくの和歌山で、一家の大黒柱として弟たちを支え、やがて甲子園の近くに旅館を開業。“高校球児の母”と呼ばれた女性の奮闘を描いた第41作「純ちゃんの応援歌」(昭和63年度後期)。大の野球好きで快活なヒロイン・小野純子を演じたのは、今作がドラマ初出演となった山口智子さんでした。
山口さんは、4月から放送されている第100作「なつぞら」(2019年度前期)にも出演。31年ぶりに帰ってきた朝ドラの現場で、原点である「純ちゃんの応援歌」を語ってもらいました。

――「純ちゃんの応援歌」は、山口さんのデビュー作ですね。

この作品が人生の転機でした。当時は、祖母に「実家の旅館を継いで女将(おかみ)になれ」と言われながら、ほかに自分の道を見つけたくて東京に来ていた時期。短大に通いながらモデルの仕事をしていましたが、なかなか将来が見えず、悶々とする日々でした。
そんな時、たまたま受けた朝ドラのオーディションに合格することができました。「このチャンスを生かして、自分の道を切り開かなければ!」という気持ちで、全力で撮影に臨んでいましたね。

――くしくも、ヒロイン・純子は甲子園球場の近くに旅館を開業して女将になる役でした。

「旅館の女将」という道から、ずっと逃れたくて必死だったのに……不思議なえにしですよねぇ(笑)。でも、みんなの“お母ちゃん”として高校球児たちを応援する「女将」という仕事は、本当に楽しかったです。
次第に祖母も、演技の道を認めてくれるようになりました。大の朝ドラ好きだったので撮影現場を見学に来て、(純子の友人・興園寺正太夫役の笑福亭)鶴瓶さんたちと楽しそうに写真を撮っていましたね。大きく引き伸ばした写真を旅館に貼って、集客にもなったようです(笑)。

――撮影現場に入ってからは、どんなことが大変でしたか?

いま思えば毎日が崖っぷちに立たされている思いで、自分のすべてをささげていました。初めて大量の台詞を覚え、しかも初めての関西弁。主人公の人生の喜びや悲しみすべてを体験していくわけですから、ド素人だった私には毎日が新鮮な感動であると同時に、乗り越えなければならない大きな壁の連続でもありました。特に涙を流すシーンなどは、リハーサルを経て本番に向けて感情を高めていく、俳優の仕事としての感情のコントロールが全くできず、悔しい思いもたくさん経験しました。でも共演者のみなさんが、本当の家族のように支えてくださったおかげで、最後まで突き進むことができました。

――現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?

鶴瓶さんや、私の義弟役だった唐沢(寿明)さんが、みんなの笑いをとって盛り上げてくれて‥‥数年後、なぜか唐沢さんは私の夫になっちゃいましたけど(笑)。お父さん役の川津祐介さん、お母さん役の伊藤榮子さんにも、本当の娘のようにかわいがっていただきました……。兄弟そろって出演された、高嶋政宏さんと政伸さんも印象深いです。今ではお2人とも個性的で強烈なキャラクター!「当時からあの兄弟はただ者じゃなかったよね」と、夫と家で話してます(笑)。

――いま思えば、かなり濃いメンバーでしたね。

楽しかったですねぇ。私は大阪に長期滞在していたので、撮影が終わると、コンビニでおでんを買って、ビジネスホテルに歩いて帰るという寂しい私生活(笑)。でも、現場に “家族”がいたから最後まで頑張れました。みなさんに守っていただきながら、日々を過ごしていましたね。「なつぞら」で朝ドラに帰ってきた今、みんながヒロインにどれだけ愛情を持って集結しているか、改めて実感しました。

――朝ドラへの出演は31年ぶりです。「なつぞら」の現場に入ったときは、どんな気持ちでしたか?

めちゃくちゃうれしかったです。朝ドラは私の人生を育んでくれた、すべての始まり。31年ぶりに、お母さんのお腹の中に飛び込むような安心感。でも同時に今度は自分が、母のような愛でヒロインを応援していかなければ!という、身の引き締まる気持ちです。ついつい怠けてしまいがちな今の自分を反省し、あのころの新鮮な気持ちを、改めて思い出して頑張ろうと思います。

――山口さんから見て、“朝ドラ”の魅力はどんなところにあると思いますか?

朝ドラは、次の時代を担うスターが生まれる場所でもありますよね。ヒロインの成長を日々見守っていく、まるで“リアリティーショー”のような、ライブ感覚も大きな魅力かもしれません。ヒロインの前に立ちはだかる壁を、「乗り越えろ! 頑張れ!」と、国民みんなで応援する感じ。温かくもシビアな現場だからこそ、達成した時の喜びもひとしおであり、その後進んでいく人生の大きな自信となります。
今でも毎シーン、崖っぷちに立つ思いで臨んでいますよ(笑)。この初心を大切に、今度は、大きな壁に立ち向かうヒロインを、全力で応援したいと思います。

第100作「なつぞら」
<総合> [月~土]午前8時~8時15分ほか
公式ホームページはコチラ ≫

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