CAMPセミナー@法政大学 「創らなければ何も始まらない」“はたらく”の根底にあるクリエイター意識

本格的な夏の到来を告げる暑さとなった2017年7月某日。東京の中心部に位置する法政大学・市ヶ谷キャンパスでCAMPサミットに先駆け、「CAMPセミナー@法政大学」が開催されました。講演会には、特別講師として1990年代にかけて音楽業界に“TKブーム”を巻き起こし、今もなお第一線で活躍する小室哲哉さんが登壇。同大学キャリアデザイン学部の田中 研之輔准教授、CAMPキャプテンで『はたらくクリエイティブディレクター』の佐藤裕も加わり、キャリアデザイン学部の学生ら約300人が真剣な眼差しで話に聞き入っていました。本レポートでは、熱くかつ濃いディスカッションの様子をお伝えします。

「自分で動いて、偶然の出会いを起こしていく」

田中研之輔准教授(以下、田中):今日は大学生に向けてお話しいただくわけですが、小室さん自身、大学時代はどのように過ごされていましたか。また、今の学生に対してこれはやっておくべきということはありますか。

小室哲哉さん(以下、小室):僕は1、2年生までは勉学に励んでいましたが、3年生の頃にはTM NETWORKを結成して、音楽活動に本格的に取り組みたいと考えていました。そんなわけで学生時代は、大学から渋谷方面へ行く都バスに乗っては、ビクターやワーナーなど大手のレコード会社が建ち並ぶ原宿方面に行き、それらの会社でアルバイトをしていました。そこで働いたことが直接、音楽活動につながることはなかったのですが、情報を得る機会はたくさんありました。業界で一番売れている曲をいち早く知り、音楽の流行やターゲット別の音楽の嗜好もそこから知ることができました。一見、自分の描く未来とはつながりがないようなことでも、自分の周りにあるものを使って、動き出してみたら偶然の出会いやつながりが生まれていきます。

田中:なるほど、自分でアクションすることで、偶然の出会いが生まれ、その出会いが、結果自分の未来につながっていったということですね。

「夢はミニマムでもいいから持つことが大事」

佐藤裕(以下、裕):情報社会のため、いまの学生の方は、なかなか夢の設定が難しいという話を聞きます。そのあたりのアドバイスはありますか。

小室:夢の設定はマックスでもミニマムでもいいと思うんですよね。要するに、自分が何に関わるのかが重要。エンターテイメントの世界だったら、その世界の端っこでもいい。大事なのは、その夢に対して自分がプライド(=誇り)を持てるか。僕は学生の時、“海外で活躍するアーティスト”というマックスな夢がありました。でも当時、ミニマムな夢で“音楽関係の仕事に携わる”というところで落ち着こうという自分もいました。その頃、僕はCMのインパクトも音楽業界のブランド力も圧倒的に強かった『ソニー』というブランドに憧れがありました。だから、実はミニマムな夢を果たそうと就職活動で『ソニーミュージック』の社員の面接を受けたことがあるんです。結果は、あっさり不採用。でも、その経験をきっかけに迷いなく次のステップに進むことができました。そして、何年後かにアーティストとして『ソニー』で一番の売上を出せる人間になれたのです。社員としてはダメだったけど、アーティストとして夢を果たすことができた。何かを成し遂げるための原動力としてミニマムでも夢を設定することは大事だと思っています。

田中:その思考が成功を引き寄せるんですね。

裕:生活の安定のためだけに大企業に行くのではなく、自分の夢を叶えるんだという自分の軸とプライドを持っていくことが大事だということでもありますね。

「いい意味での「世代交代」が話題の連鎖を呼ぶ」

田中:我々は授業を通して、これから社会の色々な分野に一人ひとりが受け身ではなく「創り手」になって飛び込んでいこうという話をよくします。クリエイティブな世界で小室さん自身、長きにわたって活躍されていますが、秘訣などはありますか。

小室:僕自身、音楽の世界で“はたらく”ということができているのは、根底に『創らなければ何も始まらない』という意識があるからだと思っています。そして、今の時代は創るだけでは、実はダメ。その創ったものが連鎖していかなければ最終的には多くの人の心には届かないんです。その連鎖を起こすひとつの方法に『トレンド入り』がありますよね。

裕:やはり口コミの力はすごくて、ブランドは後からついてくる時代だと思います。ちなみに、創作活動では、成功者ほど過去の経験に引っ張られてしまい、気づけば時代とズレているということになりかねないと思うのですが、小室さんは、過去と未来をどう使い分けてトレンドを創られているんですか。

小室:実は、もう僕の世代でトレンドを創るのは難しいんです。トレンドを創るにはいい意味での世代交代が必要。つまり、若い世代とリスペクトし合うこと。先日、新進気鋭の若手アーティストと音楽番組で即興をしたんですが、まさにその瞬間トレンド入りしました。そんな風に若い世代の人たちと共鳴し合えるものがあれば互いに手をとって活動すると話題の連鎖が引き起こせるんです。

「時代に合わせてフレキシブルに生きる」

田中:TM NETWORKや小室ファミリーに熱狂した僕らの世代のみならず、小室さんは抜群のピポットを効かせて下の世代の心にもどんどん入り込む活躍をされていますが、その原動力は「日本の文化を絶対に創っていくぞ!」という気持ちだったりするんですか。

小室:うーん、ないです(笑)。僕から積極的にアプローチすることはなくて、その時代、時代にフレキシブルに生きていくことが、結果として文化を生み出していると思います。最近では、ユーチューバー(YouTuber)のヒカキンくんとコラボして曲を創ったんですが、打ち合わせの時に、僕ではない他のアーティスト風にしてほしいという要望が出ました。そこで、大切なのは「僕の色はいらないのか!」と怒ることではなく、どれだけ相手のオーダーに近づけるかということ。最終的にできたものに対してヒカキンくんは、「最高です!」と言ってくれました。そして、聴いてみるとやっぱり、自分らしさがその曲にはあるんですよね。はたらく上では、一度、自分の色を全部消して別人になる必要に迫られることがあるかもしれません。でも、自分の願望やエゴを出さなくても実は自分の色はちゃんと出る。どんなに消したつもりでも確かに残る。だから、時には相手の要望を一度、わかりましたと受け止めてみることも大事なことだと思います。その結果、誰が見てもいいもの、評価されるものが生まれます。

裕:状況に応じたフレキシブルさはこれからの未来を創っていく学生さんたちにとって大切なことですね。なりたいものが見つかっていないという学生も、見つかった時のために、どんなことにも対応できる力を今回の講演会をヒントに身につけてほしいと思います。

 

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