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【芸能・社会】

藤井七段、最年少連覇 朝日杯将棋オープン戦

2019年2月17日 紙面から

2連覇を達成し優勝トロフィーを手にする藤井聡太七段=東京都千代田区で(芹沢純生撮影)

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 将棋の最年少プロ・藤井聡太七段(16)は16日午後、東京・有楽町で行われた「第12回朝日杯将棋オープン戦」の決勝に進み、棋界屈指の実力者で今季絶好調の渡辺明棋王(34)と激突。これを128手で破り、2連覇を達成した。朝日杯の連覇は7〜9回に3連覇した羽生善治九段(48)に続く偉業。16歳6カ月での棋戦連覇は最年少記録。これまでの記録は1987、88年の第3回、第4回天王戦を連覇した羽生九段で18歳2カ月だった。同日午前の準決勝では行方尚史八段(45)に120手で勝利した。

 公開対局を見守った710人のファンから午後4時20分、大きな拍手が起こった。ともに中学生プロデビューの天才対決は、後輩の藤井七段に軍配が上がった。渡辺棋王は129手目を指すことなく投了を告げた。

 藤井七段は「昨年に続いてこの舞台で勝負できることを楽しみにしていました。多くの方に見ていただくなか、落ち着いて自分の将棋を指すことができました。連覇はうれしいです」と喜びをかみしめた。

 予感はあった。5日の順位戦C級1組で自力昇級を消す手痛い敗戦を喫し、12日の王将戦1次予選も結果的に相手の落手で逆転したものの内容的には散々だった。この2戦は明らかに変調だった藤井七段。ところが、午前の行方八段戦の指し回しはきっちり修正され、相手を引きつけてスパッと切る好調時の間合いが戻っていた。それは「自分の将棋」という言葉に凝縮されていた。

 決勝は見事な戦いだった。先手の相雁木(がんぎ)の注文に乗った後手番の藤井七段。棒銀からの先攻を見せられるも、うまく切り返し、さらにそこで相手が出てくるところを今度は「やってこい」と、天下の渡辺棋王に対して堂々と受けて立つ展開に。59手目に両者1分将棋に突入すると以後、攻防は延々70手続いたが、藤井七段は的確に指し続けた。

 これには渡辺棋王も完敗を認めざるを得なかった。「中盤に勝負手を逃す場面もありましたが、そこからは一方的。お客さんには申し訳なく思っています」。歴代5位となる通算20期のタイトルを獲得し、2日に開幕した棋王戦五番勝負では6連覇中のトップ棋士をして、こう言わしめた自信は大きい。

 「この1年はタイトルに挑戦できませんでしたが、この優勝を機にさらに力をつけ、タイトルに一歩近づけたら」。藤井七段のコメントはいつも以上に力強かった。

◆一問一答

 −今の気持ちは

 「一手一手、しっかり考えて指せたのがいい結果につながった」

 −決勝で戦った渡辺明棋王の印象は

 「練習将棋も含め初めての対局。(2018年度は)充実されている。うまく対応され、こちらが苦しい場面もあったと思う」

 −この1年で成長したところは

 「簡単には分からないが、いろいろな経験を通して(対局中の)形勢判断が磨かれた」

 −初のタイトル獲得に向けて

 「敗れてしまった対局は(指し手の)精度の差が出た。もっと地力をつけないといけない」

<番記者メモ>高校進学が最善手 適度な「遊び」で成長

 「高校に進学して本当に良かったと思っています」。そうニッコリ話してくださったのは藤井七段の母・裕子さん。「本当に」という言葉に力がこもっていた。

 1月20日、名古屋・ポートメッセで行われた朝日杯本戦。会場の入口で朝、裕子さんとばったり会った。実はお目にかかる機会があったら、ぜひ聞いてみたいことがあった。それは高校のこと。返ってきた答えは予期した通り。進学は、ご両親や師匠・杉本昌隆七段の良き助言のたまものでもあった。

 昨年の朝日杯で史上初の中学生棋戦Vを飾ったあの歓喜から1年。その間、新人王戦最年少V、史上最速100勝と記録を次々打ち立て、そして朝日杯連覇。とどまるところを知らない成長が、進学が最善手だったことを物語っている。

 藤井七段も「学校生活と将棋はいいバランスでやれています」と納得の表情を浮かべる。クラスメートとは大好きな鉄道の話をし、教科は数学が「楽しい」と言う。将棋の研究だけでは煮詰まってしまう懸念がある。適度な「遊び」がさらなる成長を促している。

 思い起こすのは宮本武蔵の故事。吉岡一門からの報復を警戒し、神経を極度に張り詰めていた武蔵に対し、吉野太夫が楽器の琵琶をナタで割って見せたあの話。琵琶は4本の弦でなぜあのような音色を出せるのか。それは弦が強弱をつけて張られ、中の空洞の「遊び」が音を増幅させるから。吉野太夫が伝えたかったことだ。ハンドルも余裕がなければ危ない。張り詰めているだけでは本当の妙味はないのだ。

 昨年の朝日杯準決勝で敗れた羽生九段は「10代は成長期。これからますます伸びるでしょう」と、藤井七段にエールを送っていた。今後もどんな上昇カーブを描いていくか楽しみだ。 (海老原秀夫)

<朝日杯将棋オープン戦> 全棋士に加え、アマチュア10人、女流棋士3人が参加するトーナメント。1次予選から本戦まで全てトーナメントで、決勝も1番勝負。持ち時間は40分、使い切ると1手60秒。8大タイトルに次ぐ一般棋戦で、優勝者が獲得する賞金は750万円。

 

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