• 背景色 
  • 文字サイズ 

出雲そばを極める

出雲そばを極めるロゴ画像

 

麺といえば、出雲には蕎麦(そば)が似合う。そこらへんに散らばる光すべてを吸い込んだような、あの濃い色の麺。
出雲地方特有の鈍色(にびいろ)の空と蕎麦生地の色彩が調和し、食べていても妙に落ち着いた気分になる。
これがラーメンやうどんだと、そうはいかない。ラーメンやうどんには気の毒だが、
あの艶やかで色白の色調は、もうひとつこの地方の風土になじまない。
気さくで、開放的。蕎麦以外の麺類には、そんな雰囲気がある。勢い、食べ方も大ざっぱ。味わうというよりは、むしろ食べる感覚になる。
ここで、うどんやラーメンの名誉のために言っておくが、味云々の問題ではない。
ただ気分の問題を言っているだけなのである。
西日本のうどん文化圏に囲まれながら、出雲が有名な蕎麦どころになったのはなぜだろうか。
 

 

出雲の風土と蕎麦

 

出雲の風土と蕎麦の写真ここからは先般亡くなった食通で郷土史家の荒木英之さんの「松江食べ物語」による。
蕎麦は寒さに強く、収穫までが短い。やせ地で栽培できる。
救荒穀物として有用だった。出雲は平安時代から災害が多く、年貢も苛烈(かれつ)を極めた。
小作農民が借りた田んぼの外で自由に作ってよい大切な作物だった。小作農の多い奥出雲で特に蕎麦食が発達した。
とまぁ、こんな説明がある。
要するに蕎麦は農民の露命(ろめい)をつなぐ大事な作物だったのだ。
それを食文化まで高めたのは、江戸後期の外食の流行と身分を超えた趣味人の集まりである「連」の力が大きかったという。
何に限らず風流と風流が合体すると、蘊蓄(うんちく)も作法も生まれる。「蕎麦道」だって、そうだったに違いない。
焼き鳥とおでん、うどんと蕎麦。物事には裏と表、光と影、それぞれ一対の物語がある。
陽光輝くばかりでは、いかにも覚束(おぼつか)ない。
薄明かりを伴う陰影があってこそ、物の輪郭は定まる。おでんと蕎麦にも、どこか訳ありげな陰影がある。
そんな彫りの深い食文化圏に住む幸せに、ふと気が付いた。

 

 

 

江戸そばと出雲そば旨さくらべ


江戸そばと出雲そば旨さくらべイメージ画像

 

 

江戸そばと出雲そば旨さくらべの写真「『出雲そば』とは何ですか」ー。
松江市内のそば屋の店主に素朴な質問をしてみました。
「殻のついたそばの実を製粉します。
殻の一部も、その内側にある緑がかった甘皮も一緒にひき、麺に両方が入っているため、色が濃いのが特徴です」。
まず、麺の解説をしてくれました。
では、江戸風、信州風といった東日本のそばはどうでしょう。
殻をむいてから製粉するため、色についていえば、白っぽいのが普通です。
色の違いは、そば粉の違い。香り、粘り、食べ方の違いにまでつながるのです。
同市内の別のそば屋のご主人が話してくれました。
「出雲そばは、素朴なそばの香りが楽しめるほか、腰が強いのも特徴です。繊維質が多いため、
『つなぎ』を使わないと、ぼそぼそになりやすいという面もあります」食べ方の違いは大きくいって二つあります。
出雲そばは、かんで素朴な香りと腰の強さを味わいます。
江戸そばや信州そばは、上品な香りと、のど越しを楽しみます。もう一つの違いは、「麺にだしをかけて食べるか」「麺をつゆにつけてすするか」です。
出雲そばの代表格は「割子そば」。器に盛られたそばに、だしをかけて口に運びます。
一方、江戸そばの「せいろ」、「ざるそば」は、麺を器のつゆにつけて食べます。まさに、食文化の違いを浮き立たせる話です。
出雲地方はなぜ、全国にその名を知られたそばどころになったのでしょうか。
そばは、収穫までの期間が短く、荒地でもよく育ちます。
この地方は古来、災害が多く、救荒作物として、広島県境に近い奥出雲地区を中心に広く栽培されるようになったようです。
江戸時代には松江藩がそば食を奨励。そば屋は人々の交流の場になったといわれています。
以前は、そばを手打ちする家が珍しくなく、いろいろな行事につきものでした。
出雲そばの店は、その名の通り、島根県では東部の出雲地方に数多くあります。
同じ和食の麺でも、うどんの老舗は、そばほどには多くない土地柄です。

 

 

 

 

 

 

出雲そばの伝統を守る

出雲そばの伝統を守るイメージ画像

新そばが出回る秋。そばの旬の季節を迎えました。「おいしいそばを食べてもらえるよう、今年も頑張ります」。
こう力を込めて話すのは、松江そば組合の事務局を担当している西村保則さん(50)。老舗そば店の店主でもあります。
そばは「粉のひきたて」「麺の打ちたて」「麺の茹(ゆ)でたて」の「三たて」がそろってこそ、うまいといわれています。
西村さんは「冷凍や保存技術が進化した現在でも、そばのインスタント麺はラーメンやうどんほど出回っていません。
そばは、やはり『三たて』に尽きます」と強調。冷蔵設備のなかった昔は夏場、そば原料が劣化し、味が悪くなります。
このため、そばの提供をやめ、代わりに、かき氷やそうめんを出していたそうです。それほど、そばは繊細な穀物です。
「三たてで、うまさを引き出すためには、いいそば原料の確保が大切」と西村さん。
いかに熟練したそば職人でも良質の原料が手に入らなければ、おいしいそばを出すことはできません。

出雲そばの伝統を守る

そばは、寒暖の差が大きい地域で取れたものがうまいとされます。奥出雲地方や島根県中央部の三瓶山、鳥取県の大山周辺・・・。
幸いこの出雲地方は周辺も含めてそばの名産地です。職人は地域で取れた良質のそばの実を使い、伝統の技でそばを打ちます。
一口に「出雲そば」といっても、店ごとに麺の色や太さ、味、だしが微妙に異なるのが面白いところです。一つ一つが店の伝統なのです。
食べる人それぞれに好みがあり、ひいきにしている店も違います。
職場などでは「あの店の麺の色は濃い、薄い」とか「だしが辛い、甘い」といったそば屋談議が繰り広げられます。
「色や味、食べ方は違っても、そばはそば。文化が違うということです。理屈ではありません。
地元の人はもちろん、よその地域から来た人が食べて『おいしい』と思っていただけるようなそばを作るため、
原料の保存方法、ひき方、打ち方などの勉強をさせていただいています」。
この道30年の西村さんに限らず、出雲そばの職人は伝統にあぐらをかくことなく、挑戦を続けています。

 

割子そば


筒割り形の三段重ね。冷たいそばが、それぞれの椀に盛られ、茹(ゆ)でたての麺がみずみずしく光っています。
この「割子そば」は「釜揚げそば」と並ぶ「出雲そば」の代名詞。他の地域でいう「もりそば」「ざるそば」に近く、そばの本来のおいしさを味わうことができます。
「わりご」は「破子」「破籠」とも書きますが、出雲地方では「割子」が一般的。
器は長方形、だ円形などを経て、現在は丸い平椀に盛り付けられるようになりました。
麺を1分前後ほど茹で、冷たい水で洗って表面のぬめりを取ります。よく水切りした後、椀に盛り付けます。
椀一個を「一枚」といい、割子一人前は三枚が基本。そば屋で「割子」を注文すると、
三段重ねの椀と一緒に、大根、ネギ、かつお節、のりの薬味を盛った小皿(そばと同じ椀の場合も)、だしつぎか土瓶が出てきます。
そばの上に、好みの量の薬味をのせ、だしをかけて口に運びます。だしをかけすぎると、そばの風味が失われる上、辛くなるのでご用心。
音を立ててすすり、のど越しを楽しむより、かんで、そばの香りを味わうのが出雲流です。


割子そばと釜揚げそば


釜揚げそば


「釜揚げそば」はまさに出雲そばにしかないそばの楽しみ方です。
「かけそば」では、茹でたそばを水洗いしてから温めますが、「釜揚げそば」はその名前の通り、釜で茹で上がったそばをそのまま器に入れ、そば湯を張って運ばれます。
店により、あらかじめだしが入っているか、自分で好みの量のだしをかけるか違いはありますが、とろりとしたアツアツのそば湯が麺に絡み、ふうふう言いながら
口に運べば、そばの香りが口いっぱいに広がります。そばの味を堪能するころには、間違いなく体がぽかぽかになっていることでしょう。
出雲そばの味を最も楽しめる一品です。薬味は「割子そば」と同様ですが、卵との相性も良く、「月見そば」も味わい深く食べられます。
地元の人は、この「釜揚げそば」に「割子そば」を一枚、二枚と注文し、たっぷりとそばを食べる姿を良く見かけます。


トップページに戻る

Copyright(C)2005ShimanePref.AllRightReserved


お問い合わせ先

広報室

島根県広報部広報室
〒690-8501
島根県松江市殿町1番地   
【電話】0852-22-5771
【FAX】0852-22-6025
【Eメール】kouhou@pref.shimane.lg.jp