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特集 ポップカルチャーは世界をめぐる
指先で色彩を奏でる ロッカクアヤコ
オランダ・クンストハル美術館『Colours in My Hand』展
[2011.10.03]

指先に直接絵の具を付け、下描きなしのキャンバスに色彩豊かな世界を描き出す気鋭のアーティスト・ロッカクアヤコ。国籍、老若男女問わず誰からも愛される作品の数々——その魅力に迫る。

ポップさと生々しさの共存

最近では、350×700cmの巨大なキャンバスに描くこともある。世界中から注目されるようになり、大きな変化があったのだろうか。
「描いてるときの気持ちは変わっていないです。10年前とまったく同じ」

描きたい、楽しい、生きている——その思いのままに夢中で絵を描き続けている。彼女の絵はすべてが無題だ。余計な飾りつけや意味づけもない。創作への欲求に対するひたむきさが見る人に強く訴える。

少女の大きな目に宿る好奇心、長く伸びた手の独特の表情、曲げられた口、裸足で歩き、宇宙船のようなものに乗って雲の上を探検する。そして、花や動物や怪獣たち——これらがロッカクアヤコのモチーフだ。子どものイノセントなタッチを思わせるドローイング、段ボールで作られた大きな家、巨大な少女やうさぎの幽霊の塑像などもある。手がけたアニメーション『about us』の上映も行われた。

そのかわいらしく色彩あふれる作品から、生まれ故郷の日本のアニメーションや漫画の影響を指摘する人も多いが、彼女自身は意識していないという。

「日本で育ったので、自然と影響をもらっていると思います。それでも『ジャパニーズ・アニメーションの絵だね』と言われると、そうじゃないんだけど……と思う。それよりは、絵本からの影響が強いと思います。ストーリーの一部のような印象、動いてる途中の瞬間みたいな絵が多いですね」

ストーリーとは、彼女の人生だととらえることもできる。実際、作品からはポップさだけでなく、何か生々しい部分も感じられる。

「ハッピーなだけでは生きていけない。いい悪いではなく、そういったものが自分の中にあります。両方を1枚の絵に収めたい。かわいいものも好きですが、絵には生々しさもないといけないと思っています」

「前に踏み出す」気持ちを演出

ライブペインティングを行うのも彼女の大きな特徴だ。段ボールやキャンバスに下書きなしで素早く描き進めて観客を魅了する。クンストハル美術館内にも、彼女のアトリエを再現した「AYAKO’s STUDIO」と呼ばれる一角を作り、そこで3週間毎日絵を描き続け、インターネットでもライブ中継された。

オランダの子どもたちとのワークショップでも、同じ目線で一緒に絵を描き笑い合う。

会場では彼女に絵のイメージについて尋ねる人、画集にサインを求める人、一緒に記念写真をリクエストする人たちが絶えない。観客がこれほどまでに心から楽しめる参加型の展覧会も珍しい。

「『描きたい』という最初の衝動を伝えたい。大人から子どもまで自由な気持ちになれるライブペインティングを目指しています。だから、筆を使って技術を見せるより、手を使って描くのが合っていると思う。“自分にもできるんじゃないか”と見た人に感じてもらえたらうれしいです。絵そのものの印象ではなく、絵を見たときの感覚が残ることで、その人が“ちょっと前に踏み出す”きっかけになれば」

10年前、ロッカクアヤコは絵を描くことで自身のアイデンティティーを確立した。今、絵を描く行為のすべてをさらけ出すことによって、見る人の背中も押してあげたい——それが、精力的な芸術活動の源になっている。

「一人の中だけで完結しているのではなく、作品を通して、たくさんの人の心の中に何かが残っていくのがアートだと思います」

優しい笑顔の彼女の言葉は力強い。

日本の東京や東北地方などで、子どもたちとのワークショップも計画中だ。

「それから、また自分一人で絵を描いて、展示をやりたいと思います。今、描きたいものを描きとめていく、それを続けていけたらいいなと。これからもずっと自分の絵をつきつめていきたい」

その指先が紡ぎだす色と線。ロッカクアヤコの未来から目が離せない。

 

 

▼展示会場の詳しい模様はこちら

360°パノラマ「ロッカクアヤコ『Colours in My Hand』展」

撮影・インタビュー=染瀬 直人
撮影協力=オランダ・ロッテルダム クンストハル美術館

ロッカクアヤコ Rokkaku Ayako
現代美術家。1982年1月24日。千葉県生まれ。 2002年から公園でペイントを始め、2004年のGEISAI #4でスカウト賞を受賞して注目される。現在はドイツのアトリエを拠点に、世界各国で個展を行い、展示会に作品を出展するなど精力的に活動中。 http://www.rokkakuayako.com

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