Win10強制アップデート問題…マイクロソフトは「改善予定なし」
Windows10へのアップデートが「強制的に」行われる事態が問題になっている。これについてマイクロソフトが記者説明会を開いた。マイクロソフトは「強制的ではない。通知を直す予定は今のところない」と答えている。(ITジャーナリスト・三上洋)
「勝手にアップデート」のトラブルが発生…国会でも質問書
Windowsの最新版「Windows10」は、7月29日まで無償アップデート(アップグレード)が行われている。しかし「強制的にアップデートされた」「勝手にWindows10になった」という声が多数あって問題になっている。
具体的には「Windows10へのアップデートの通知画面で『×』を押したのにアップデートされてしまった」「勝手にアップデートされてしまい昔のフリーソフトが使えなくなった」といった問題だ。また、Windows10へのアップデート通知が
この問題は国会でも取り上げられた。民進党の藤末健三参議院議員から、国民生活センターが公表すべきではないか、法的な問題はないのかという趣旨の「パソコンの基本ソフトウェアの半強制的アップグレードに関する質問主意書」が提出された。
これに対して6月7日に総理大臣からの答弁書が出ている。「必要に応じて調査し注意喚起を行う」「指摘の意味が明らかではないが、消費者の利益を害する条項が含まれている場合は無効になる」との回答だ。Windows10の問題に直接言及するものではなく、政府としての動きはない模様だが、参議院で取り上げられたこともあり、Windows10のアップデート問題は広がりを見せている。
これに対してマイクロソフトは、6月10日にWindows10アップデートに関する記者説明会を開いた。マイクロソフト側の発表はWindows10の優れた点を紹介し、アップデートの通知の操作を説明するものだったが、記者からの質問は強制アップデート問題に集中した。
マイクロソフト「強制ではなく通知方法の変更も今のところ考えていない」
アップデート問題に関する質疑応答を紹介しよう。
――Windows10への強制アップデートが問題になっているが、どう考えているか?
「強制ではありません。キャンセルする手順があり、アップデートしても1か月間は元に戻す手段を提供しています」
――サポートへのトラブル報告の件数は?
「件数は非公開ですが、5月15日(アップデート通知が出されたタイミング)から問い合わせが増えていることは確かです。電話がつながりにくくなる場合もあるため、通常よりもサポート対応チームを増やしており、6月末からは通常の4倍のスタッフがサポートを行う予定です」
――アップデート後にソフトや周辺機器が使えなくなったなどの問い合わせはあるか?
「件数や割合は非公開ですが、ゼロではありません。ただし、私たちは日本で使われているアプリケーションがWindows10で使えるか1か月にわたって検証しており、かなりの割合でそのまま使えることを確認しています」
――強制的だと受け止めるユーザーが多い。改善する考えはあるか?
「アップデートの方法、通知の操作に関しては情報提供が足りなかったと感じております。そのためウェブサイトやメディア向けの発表を通じて、情報提供を行っていきます。ご意見はフィードバックとして受け止めておりますが、今のところ通知方法を変更する予定はありません」
――通知のしくみと日本語の表記がわかりにくい。改善するつもりはないか?
「通知のしくみは全世界統一で、日本だけ変更するのは難しい状況です。日本語の表記がわかりにくいことは社内でも把握しており、改善の検討は行っています。ただし、変更のお約束は今のところできません」
マイクロソフトの回答を一言でまとめるなら「強制的ではない。トラブルは承知しているが今すぐ改善する予定はない」ということだろう。一部の記者はトラブルについて食い下がったが、マイクロソフト側がトラブルについて改善を約束することはなく、ユーザーに対しての謝罪もなかった。
「×」はキャンセルではなく「閉じる」
なぜこんな事態になってしまったのか。理由はマイクロソフト側の通知の出し方、アップデートの方法にありそうだ。筆者が考える問題点をまとめる。
●アップデートが自動予約され、キャンセル表示がわかりにくい
Windows10へのアップデート通知では、いきなりアップデート時刻が決められて表示される。キャンセルするには複数回クリックしなければならない。
●日本語の表記がわかりにくい
キャンセルは可能であり、アップデートは強制ではない。しかしワンタッチでわかりやすいキャンセルボタンがなく、日本語表記がわかりにくい。
●リンクの作りなどが不自然
キャンセルする部分に「ここをクリックすると、アップグレードスケジュールを変更、またはアップグレードの予定をキャンセルできます」という表記があるが、クリックできるのは「ここ」という部分のみ。リンクの作りが不自然だ。
●「×」印に対する誤解
アップデート通知の画面で「×」を押してもキャンセルにはならず、アップデートは実行される。
特に最後の部分に大きな問題がある。多くのユーザーは、ウィンドーの右上にある「×」をクリックすれば、実行されずにキャンセルされると思っている。しかしマイクロソフトによれば「右上の『×』は、その画面を『閉じる』というだけの操作。キャンセルではありません」としている。ここに決定的な認識の違いがある。
このアップデートについて海外でも問題になっているが、特に日本で問題が大きくなっているようだ。マイクロソフトによれば「サポートへの問い合わせは全世界的に増えているが、日本では増える割合が他国に比べて大きくなっている」とのこと。これは日本語の表記がわかりにくいためだと言えるのではないだろうか。
もう一つの問題点は、日本のマイクロソフトだけでは対処できないことにある。今回の説明会でマイクロソフト側は問題の改善を約束していないが、これはアメリカ本社の決断が必要になるからだと思われる。
Windows10は優れた製品。ソフト対応を確かめアップデートを
アップデートをキャンセルしたり、延期したりする方法は以下にまとまっているので参考にしてほしい。
・通知の操作とキャンセル:Windows10へのアップグレード:スケジュールと通知の操作方法に関する情報(マイクロソフト)
アップデートの問題は起きているが、Windows10自体は優れた製品だ。Windows7と比べるとセキュリティーが高まり安全になっていること、スタートボタンが復活し使いやすくなっていること、動作も比較的軽いことなどから、Windows10にすることを推奨したい。
問題は今使っているソフトや周辺機器が、Windows10に対応しているかどうかだ。自分が使っているソフト・周辺機器のウェブサイトをチェックして、対応状況を確かめる必要がある。ネットバンキングでは以前は対応していないサイトが多かったが、現在では多くのサイトがWindows10(とそのブラウザー)に対応している。サポートや開発が終了したソフトや周辺機器を除けば、ほとんどの製品がやがてはWindows10に対応すると思われる。当初は手間がかかるかもしれないが、早めにアップデートしたほうがベターだろう。
無償アップデートできるのは7月29日までで、それ以降は有料の製品版を購入することになってしまう。今回はアップデート専用の安いパッケージは用意されておらず、フルのパッケージ版が必要だ。Windows 10 Homeは参考価格が17,600円、Proが25,800円するので、可能ならば7月29日より前に無償アップデートを行っておきたい。
今回の問題は、Windows10の製品にあるのではなく、マイクロソフトのアップデートの方法・通知のやり方にある。ユーザーにわかりやすい表示にし、「アップデートしない・する」ということをユーザーに明確に見せて判断させるしくみにしてもらいたい。