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成人式は名古屋が発祥? 定説の埼玉・蕨に先駆け

名古屋市の「成年式」を報じた1934(昭和9)年の日本青年新聞の記事

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 八日の成人の日にあわせ全国で開かれている成人式は、これまで埼玉県蕨(わらび)市(旧蕨町)が一九四六(昭和二十一)年に開催した「成年式」が始まりとされてきたが、名古屋市ではこれより十年以上前の三三(同八)年に成年式が開かれていたことが、民俗学者らの研究で明らかになった。新たに見つかった史料では両市の式典の共通点が多いことも分かり、実は「名古屋発祥」の可能性が出てきた。

 民俗学者の室井康成さん(41)=東京都大田区=が青年団の歴史を調べるため機関紙「日本青年新聞」を閲覧していたところ、三四年十二月の記事「元服精神の復活 名古屋市連合青年団主催の青年団成年式」に、その前年から名古屋で成年式が開かれているという内容を見つけた。

 記事では十一月二十二日を「青年記念日」と説明し、「成年の自覚を促す」といった趣旨や、代表者の宣誓や来賓の祝辞などの式次第などを紹介。「今のところ青年団が成年式を挙げるということは実に珍しい」「今後全国の青年団にもこの種の式がぐんぐんと普及するだろう」と書かれている。

 実際、中日新聞の前身である「新愛知新聞」にも三三年十一月二十三日の朝刊に、前日の成年式の様子が報道されていたことが確認された。ただ、名古屋市市政資料館によると、成年式に関する公文書はなく、担当者も、名古屋が発祥とは聞いたことがないという。

 蕨市では四六年十一月二十二日、青年団が戦後復興期の青年を激励しようと第一回の成年式を開催。二年後の四八年に国民祝日法が制定され、四九年に初の成人の日を迎えた。七九(同五十四)年には市内の蕨城址(じょうし)公園に「成年式発祥の地記念像」が建立され、今も成人式でなく、成年式と呼んでいる。

 名古屋と蕨の式典を比べると、「成年式」の呼称、十一月二十二日の開催日、主催者が青年団であることなどが共通する。名古屋は徴兵検査を終えた人が対象で、来賓に軍幹部を招くなどの違いもあるが、室井さんは「戦時期特有の色合いを差し引けば式典の流れは蕨町と酷似。蕨町の関係者が青年新聞を見た可能性もあり、導入したと考えるのが自然では」と話す。

 蕨市の頼高英雄市長は本紙の取材に、「成人式はその発祥についてもさまざまな見解があるかと思う。本市としては、全国それぞれの土地、あるいは地域に住む人々の思いがあり、それぞれの魅力を高め合っていければと考えている」と書面でコメントを寄せた。

 成人式を巡っては宮崎県諸塚村も「発祥の地」を名乗っている。

 室井さんの論文は三月に刊行される専修大人間科学部の紀要に掲載される予定。

 (井本拓志)

 <青年団> 地域の祭りやボランティア活動などを通した若者の交流団体。江戸時代には「若衆組」などと呼ばれ、明治時代に青年の修養機関として各地に設立された。昭和に入ると、若者を戦場に駆り立てる役割も担った。戦後は「青年が二度と銃をとることがない」平和な社会を目指して活動。現在も各地にあり、全国組織として日本青年団協議会がある。

 

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