(15) 鶴丸百貨店閉店

閉店した鶴丸百貨店=10月
 「ありがとうございました…」
 10月31日午後7時、苫小牧の老舗デパート、鶴丸百貨店(小林正俊社長)が50年の歴史に幕を閉じた。しかし、まばらになった最後の客を送り出す従業員の中にも、小林社長の姿はなかった。常連客へ最後のあいさつもなく、あっけない幕切れ。「50年も続いたのに」。関係者から、残念がる声も漏れた。
 閉店1カ月半前から閉店セールを打ったものの、鶴丸百貨店をたたむかどうかを小林社長は最後まで「未定。31日まで営業し、それまで新たな道を模索したい」と、明言を避け続けた。中心市街地で物販業を営む厳しさを象徴した出来事。「苫小牧はとにかく消費を上回る店舗があるオーバーストア。激戦地なのでこういうことも起きてしまう」。中心商業者からはあきらめの声が上がる。
 これまでも関係者の間で何度も、「危ないのでは」とささやかれ、昨年は佐々木正明前社長から小林社長への突然の交代劇も。ビッグジョイのキーテナントでありながら、当事の管理会社だった北海道リーシングシステムへの家賃未払い、取り引き銀行からの借入金も数億円ともいわれた。
 鶴丸百貨店は、前身の呉服店を経て1952年、中嶋誠治氏を初代代表取締役社長に創立。丸井今井苫小牧店が出店するまで、市内唯一の百貨店として衣料品、洋品雑貨、雑貨など高級品も扱ってきた。
 シンボルストリートに面した、かつての四階建て売り場総面積6796平方メートルの鶴丸百貨店店舗を知る人は、「贈答品といえば鶴丸」「鶴丸の買い物帰りのお客さんが、うちにも寄ってくれて、おこぼれがあった」と口々に話す。苫小牧の中心市街地に活気があった「古き良き時代」の象徴ともいえるデパート。多くの良い思い出を持つ市民や商業者も少なくない。
 1973―78年にJR苫小牧駅周辺に大型店が相次いで出店し、中心市街地は打撃を受けた。この当時に、鶴丸百貨店にも駅周辺に移転してはという話が持ち上がったことがあった。
 しかし、「鶴丸までいなくなっては、商店街がひどくなる」との周辺の強い反対もあり断念。「今となっては、鶴丸さんのことを考えると、その時に移転していた方が良かったのかも」と振り返る商業者もいる。
 閉店から間もなく2カ月。鶴丸百貨店の従業員の一部は今、ビッグジョイ一階の「セラつるまる」で新たなスタートを切った。岡部洋服工業(岡部照一社長)がまとめるテナントで、以前同様、衣料品販売で長年の経験を生かしている。開店後、鶴丸百貨店からの常連客が久々に再会した従業員に、「心配してたのよ」と声を掛け、応援するほほえましい姿もあった。 しかし、不況や中心市街地を取り巻く情勢の厳しさに変わりはない。同じ過ちを繰り返さず、新たな魅力を発揮できるかどうか、これからの奮闘に期待が掛かっている。(おわり)

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苫小牧民報社