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【正論】
森林太郎はいかなる科学実験者だったのか 「鴎外」像を一新する西澤論文 東京大学名誉教授・平川祐弘
戦後の岩波書店がイデオロギー的な旗振りをしたのは岩波茂雄の創業の精神に悖(もと)ると思うが、雑誌休刊は惜しい。それでも『文学』17巻2号には掉尾(とうび)を飾る一文が出た。西澤光義「鴎外森林太郎の三科学論文総評」がそれで、鴎外像を一新する何年に一度しか出ない定型化打破の研究である。格別の起爆力を秘めた論文で、必ずや一冊の鴎外研究にまとまるだろう。
西澤は独米の医学部実験室へ留学した人で、森の「ビールの利尿作用」の実験の実態を吟味した。初めての検証である。というのは従来の鴎外論では若き日のドイツにおける鴎外の仕事を手放しで「本格的な業績」「今日でも通用する内容」と褒めることがパターン化し、肝心の実験の真実が見えなくなっていたからである。
森林太郎はいかなる科学実験者だったか。森は「ビールの利尿作用成分は何か。その利尿効果はどのような生理作用として説明できるか」実験するよう指示された。
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