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あかつき 金星軌道投入に成功 JAXA発表
12月9日 18時06分

あかつき 金星軌道投入に成功 JAXA発表
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金星を回る軌道を目指し、7日、5年ぶりにエンジンの噴射に再挑戦した探査機「あかつき」について、JAXA=宇宙航空研究開発機構は記者会見を開き、「金星を回る軌道への投入に成功した」と発表しました。日本の探査機が地球以外の惑星を回る軌道に入ったのは初めてです。
5年前の平成22年5月に打ち上げられた日本の金星探査機「あかつき」は、当初、その年の12月に金星を回る軌道に入る予定でしたが、メインエンジンが噴射中に壊れ、当時の計画は失敗しました。
「あかつき」は、その後、本来の目的から外れて、太陽の周りを回っていましたが、7日、残された小型のエンジンを使って金星を回る軌道に入ることに再挑戦しました。
JAXAは、金星の上空に接近した「あかつき」の小型エンジン4基を20分28秒にわたって噴射させ、予定どおりに噴射したことを確認するとともに、金星を回る軌道に入ったかどうかデータの分析を進めていました。
この再挑戦の結果について、JAXAは9日午後6時から記者会見を開き、「金星を回る軌道への投入に成功した」と発表しました。
日本の探査機が地球以外の惑星を回る軌道に入ったのは初めてです。
また、一度深刻なトラブルを起こした日本の探査機が復活を遂げるのは、機体を損傷しながらも5年前に地球に帰還した小惑星探査機「はやぶさ」以来の快挙です。

金星観測 どのように進める

太陽系の惑星の中で地球のすぐ隣にある金星は、誕生した時期や大きさが地球とほぼ同じで、地球の「双子星」とも呼ばれていますが、地表の温度がおよそ470度と高温になっているほか、硫酸の厚い雲に覆われるなど、地球とは異なる点が多く、探査機「あかつき」は、地球上の生命はとても住めない金星の気象の謎に迫ろうとしています。
金星は、直径が地球の0.95倍、質量が地球の0.82倍とよく似ているほか、誕生したのも地球とほぼ同じおよそ46億年前とされています。
一方で、「金星の気象」は、二酸化炭素の影響で地表の温度がおよそ470度と高温になっているほか、硫酸の厚い雲に覆われ、その中では「スーパーローテーション」と呼ばれる秒速100メートルの猛烈な風が吹き荒れるなど、地球とは大きく異なっています。
JAXAは、「あかつき」による観測で、「双子星」と呼ばれる金星が、なぜ、地球上の生命はとても住めない全く異なる気象環境になったのか、本格的な解明を目指すことにしています。
具体的には、紫外線から赤外線までさまざまな種類の光を捉える5種類のカメラや、電波を使って、金星の大気の動きや温度を立体的に観測し、厚い雲に覆われる理由や猛烈な風が吹き荒れる原因の解明を目指すということです。
JAXAでは、今後、「あかつき」に搭載されたカメラの試験を進め、来年4月以降、すべての観測機器を使った本格的な観測に入りたいとしています。

「あかつき」に搭載されている赤外線カメラを作った、住友重機械工業の主任技師、吉田誠至さんは、「15年前から開発に入り、打ち上げまでに10年、失敗から5年がたち、非常に長い間待ちました。その後も太陽の近くを回り、温度が高くなっていたので、心配していましたが、性能が発揮できないほど厳しい状況にはならなかったので、ほっとしています。ある程度の機器の劣化は避けられませんが、やっとカメラが活躍する出番が来たので、耐えてほしい。そして世界が驚くような画像を期待しています」と話しています。

観測用カメラの開発チームの一員で、5年前に「あかつき」の軌道投入に失敗した際、管制室の中にいた、千葉工業大学惑星探査研究センターの山田学研究員は、「投入に失敗したときは、ものすごくショックだった。『あかつき』に搭載した機器への思い入れは強く、自分の子どものような存在だ。ぜひ、これからも健康に飛行を続け、金星のすばらしい画像を送ってきてほしい」と話していました。

観測へ 研究者の期待高まる

「あかつき」による金星観測の責任者を務める、JAXAの今村剛准教授は、「これまでの5年間は長く、悲壮感もあったが、軌道へ入ることができれば、新しい観測をして結果を出さなければならないという緊張感でいっぱいだ」と今の心境を語りました。
そのうえで、「地球のすぐ隣にある金星が一体どういう世界で、何が起きているのか調べたい。特に、太陽系の気象学における最大の謎となっている秒速100メートルの風『スーパーローテーション』のメカニズムを解明したい。地球の気象しか理解できていない現状から、知の地平線が広がり、遠い昔や将来の気候が分かる鍵となる」と、金星観測の意義を強調しました。
さらに、今村さんは「金星は地球に比べて太陽に近いが、厚い硫酸の雲に覆われて、太陽の熱をほとんど反射しているため、太陽からのエネルギーはむしろ地球より少ない。それだけを考えれば、金星は極寒のはずなのに、しゃく熱の世界となっている。金星は“究極の温暖化”を見せた天体であると言えるので、地球の温暖化を理解するうえでは非常に興味深い。“地球の鏡”である金星をより深く理解することで、地球そのものの気象がもっと分かる可能性がある」と述べ、金星の観測を通じて、地球の理解を深めることにもつながる可能性があると強調しました。

「あかつき」に搭載された赤外線カメラで金星の観測を行う、JAXAの佐藤毅彦教授は、「いよいよカメラを動かす日が来るので楽しみだ。金星の雲の上のほうはスーパーローテーションという猛烈な風が吹いているが、一方で地表近くの風は弱いことが分かっている。地球を基準に考えるととても理解不能な、金星の不思議な気象がどのような意味を持つのか調べていきたい」と意気込みを述べました。

同じく赤外線カメラで金星の気象を調べる、東京大学理学部の岩上直幹教授は、「身の引き締まる思いです。機器の損傷が少なく、万全に金星の画像が撮れれば、当初の目的をかなりの部分で達成できるのではないか」と期待を寄せました。

責任者「5年たってスタートに立てただけ」

「あかつき」の責任者を務めるJAXAの中村正人プロジェクトマネージャがNHKのインタビューに応じ、今回の再挑戦にあたっては、機器の故障に大きな不安を抱いていたことを明らかにするとともに、軌道への投入に成功しても、今後の観測に向けて懸念材料は多く、これから2年間、正しい軌道に載せ続ける努力が必要になるという考えを示しました。

中村プロジェクトマネージャは、今回の再挑戦で20分28秒にわたって噴射させた小型のエンジンについて、「本来、姿勢を整えるための小型エンジンなので、ふだんは1秒以下しか吹かない。しかも今回噴射した面はずっと太陽に向けていたため、許容できる温度を何回か超え、劣化している可能性もあった。リスクを承知のうえで使わざるをえないという判断をしたが、そこが本当にうまくいくか、いちばん気になっていた」と述べ、大きな不安を抱いていたことを明らかにしました。
また、軌道への投入に成功しても、今後の観測に向けて懸念材料があることも明らかにし、「金星を撮影した画像を地球に送るアンテナは何年も使っていないため、動くかどうかが心配で、仮にこれが使えないと、探査のうえで非常に痛い。また、機器の劣化は避けられず、突然どこかの機器が動かなくなったりすると、探査機全体の機能が失われる危険性もある」と述べました。
さらに、金星の観測を成功させるためには、「『あかつき』が金星に近づき過ぎたり、日陰に入る時間が長くなり過ぎたりしないよう、これから2年間、正しい軌道に載せ続ける努力が必要だ」と述べました。
そのうえで、中村プロジェクトマネージャは、「5年前に本当はやっているべきことであり、5年たって、もう一度スタートに立てただけだ。一度は失われたと思われたミッションが、人間の力以上のもので再びチャンスを与えられた。金星探査で得られる情報は、地球の将来やわれわれの子孫に必ず役に立つ知識になるので、しっかりと成功させたい」と意気込みを語りました。

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