【元番記者が語る北の湖理事長】(9)抜群の記憶力「現役時代の相撲は、全部覚えている」

2015年12月1日11時0分  スポーツ報知

 北の湖理事長の天才的な相撲頭脳で忘れられないのが「現役時代の相撲は、全部、覚えている」だった。

 相撲を取材する前まではひとつの都市伝説かと思っていたが、正真正銘の本当だった。本場所中に現役時代の話になると、対戦相手はもちろん、すぐに年と場所、さらには何日目かを即答。例えば、土俵で珍しい決まり手があると「オレもあったな。あれは」といった感じで、すぐに出てくるのだ。

 中でも忘れられないのが2012年九州場所9日目、日馬富士と豪栄道の一番だ。日馬富士の足が俵から出たと勘違いした湊川審判(元小結・大徹)が「勝負あり」と手を上げて、立行司の式守伊之助が2人の動きを止めてしまうハプニングが起こった。審判団は協議の結果、「やり直し」と発表。勝負を立ち合いからやり直す前代未聞の一番となった。

 この時、理事長室で北の湖理事長は「審判は四つに組んだまま、相撲を止めて確認しても良かった」などと見解を明かした。そして、こう明かしたのだ。「オレも高見山とこういうのあったからね」。記憶になかった私は「いつですか」と問うと「昭和50年の名古屋、初日だったな」とすぐに返ってきたのだ。

 この高見山との一番は当時も確かに「誤審騒動」として話題になった。はたかれた北の湖が手を付いたとして行司が軍配を上げ、高見山が力を抜いてしまう。しかし、北の湖はそのまま寄り切り物言いが付いた。11分もの長い協議の末、取り直しとなり北の湖が寄り切りで勝つという内容だった。

 「あの時は、協議が長くてな」と苦笑いを浮かべたが、聞いている私は、すぐに自分の相撲を明かした理事長の記憶力のすごさに驚いた。自らの相撲をすべて覚えているということは、対戦相手別の勝因も敗因も完全にインプットされていることを意味する。天才的な記憶力を生かして、相手との作戦を立てていたのだろう。理事長から聞く現役時代の話を聞くたびに優勝24回の偉業の秘密を垣間見たような気がしていた。

 抜群の記憶力という意味でスポーツ報知の先輩相撲記者から聞いたエピソードも忘れられない。理事長は、携帯電話の電話帳登録は0件。着信画面出た下4ケタを見ただけで、相手が誰か分かったというのだ。天才的な記憶力。すべてにおいて別格な横綱であり理事長だった。

さよなら北の湖さん
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