ちょっとここで白倉氏の携わった作品を整理してみよう。
1990年24歳で東映に入社した彼のデビュー作は『真・仮面ライダー〜序章〜』('92年リリース)。このクランクインを境に今度は『鳥人戦隊ジェットマン』('91)に。そして『恐竜戦隊ジュウレンジャー』('92)『五星戦隊ダイレンジャー』('93)と戦隊シリーズに携わる。もちろん『人造人間ハカイダー』('95公開)も手掛けている。更にはアメリカから声がかかり『パワーレンジャー』も。そして最も白倉氏の色が濃くでている『超光戦士シャンゼリオン』('96)と続く。
「あれは、セガ(セガ・エンタープライゼス)さんから「何かやりたい」って申し出を受けて、俺も何かやりたいと思って大鳥居のセガの本社に通い詰めた。セガの人達をなんとか味方に引き込んで信頼関係を築けたというのが、すごく『シャンゼリオン』的に大きかったですね」
 社会的にも冷遇されていたという『シャンゼリオン』だが、作品中では数々の新しい試みがなされていたことに読者の皆さんはお気づきだったろうか?
「ひとつはビデオ、ひとつはステレオ。一応ステレオは初めてだったんですね、主張していないから解ってないかも知れないけど。あれは面白かったな」
そう、意外にも『仮面ライダークウガ』よりも4年も前に既にビデオでの挑戦がこの『シャンゼリオン』でなされていたのだ。
「『シャンゼリオン』的にみると、『クウガ』っていうのはリメイクに見える訳ですよ。人間関係もかなり酷似しているんで。五代雄介と一条 薫の関係、脳天気なキャラと真面目なキャラという関係が『シャンゼリオン』では既にあったんです。事件捜査はその真面目系がやるんだけれども、怪人が出てきて倒すっていうのは脳天気キャラにお願いって言う。まあ、黄金の図式だけど」
笑いながら語ってはいるが、その細めた眼には確かな自信のようなものを感じた。『シャンゼリオン』はそのほかにもなかなかチャレンジャーな事をしていたようだ。
「かなりマニアに寛容な作品作りでしたよね! 箸袋コレクターとか登場して…」
C氏が食いつく。彼の頭の中にはこれまでの東映ヒーロー作品のデータがびっしり詰まっている。
「あの箸袋コレクターに行き着くまでにはすごい紆余曲折があって。すごいコレクターなんだけど世間的には全くバカにしてしまう、でも本人はすごく一生懸命集めてて、それは本人にとってはものすごく価値があって。そういうものは一体なんだろう? なんだろう? なんだろう? って。それもある程度リアリティがなくちゃいけないって延々考えて、井上(敏樹・脚本家)さんが「箸袋だ!」って言い出した訳です。実際に本物の箸袋コレクターと接触して本物のコレクション借りて来ちゃった」
これまたすっごい嬉しそう。マッコリもスムーズに彼の喉奥へ消えていく。それにしても徹底している。なにも本物を借りる必要どころが本物のコレクターと接触する必要すらないように思えるのに。作品のリアリティのために普通はそこまでしないだろう、でもやっちゃう。それが白倉氏なのだ。しかも逸話はそれだけじゃなかった。
「こんにゃくの正確な成分表が欲しくて”日本こんにゃく協会”ってとこへ電話しましたね。あれは、失踪した恋人を捜してくれっていう依頼の話で、部屋はがらんとしていて遺留品はこんにゃくだけ。こんにゃくに何か秘密があるんじゃないかって徹底分析するんだけど、ただのこんにゃくである。「なぜこんにゃくが?」っていうこんにゃく一色だった話があったんです。CTスキャンみたいのに通したりして「こんにゃくだな」って(笑)」
「サブタイトルもすごかったですよね!」
さらにC氏が突っ込む。
「第1話は「ヒーロー!俺!?」。第2話の「ノーテンキラキラ!」は無茶苦茶だよね。しかも初めての変身シーンがこれまた無茶苦茶。『クウガ』もそうですけど2話で初めてちゃんと変身する訳ですよ。『クウガ』的にいうと「見ててください、俺の変身!」っていうのが、『シャンゼリオン』では女装したまんま。しかも脳天気な暁(主人公・涼村 暁)は女装の速水(真面目系主人公・速水克彦)に惚れちゃってナンパしちゃうっていう展開があり! 今まで始めの頃は真面目だったなぁって思ってたけど、全然違ったなぁ(笑)」
マッコリを飲みながら懐かしむように語る。が別に悲哀があるわけじゃない。学生時代の無茶した自分を愛おしく、しかもちょっと誇らしげに語るかのようなのだ。
「でも、実はサブタイトルってすごい嫌いなんです。出てくるだけでも引いちゃう…。でも、出さないといけないからどうせならって言うんで凝ってみた。『シャンゼリオン』ではオープニングにサブタイトル出して、本編中には絶対出さないって決めて。そっちのほうがカッコイイなって思ったから。この話を代表する言葉みたいになっちゃうじゃないですか。ただ『シャンゼリオン』や『ダイレンジャー』みたいに1話完結だったらまだいいんですよね。でも『アギト』はそうじゃない、連続ドラマっていう形式を取っているからそこにサブタイトル付けちゃうって言うのはねぇ。でも、新聞用には5文字タイトル付けてます。第1話「戦士の覚醒」とか第2話「青の嵐」とか」
それは知らなかった! ちゃんと新聞もチェックしないと! 
 お待ちかね、ユッケジャンの登場。この辛そうなスープにご飯を入れる。韓国風おじやって感じかな。肉も野菜もたくさん入ってておいしい。でも、辛っ。
「この辛さは唐辛子? なんで複雑な味わいなんだろう?」
と白倉氏は小首を傾げる。そうまた分析だ。一口一口味わいながら彼の脳味噌がまた回転し始めた。その彼の肩越しの座敷から女の子の甲高い声が響いている。少し前に出ていった客と入れ替わりに入ってきた親子連れだ。その小学生くらいの女の子はしきりに携帯電話で話をしている。そうだ携帯電話ひとつ取ってみても、私が子供の頃にはそれこそテレビの中の出来事だった。ならば、今のテレビの中の出来事はいつか現実になるのだろうか? ”G3”が実用化されているとか…?


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