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20世紀の代表的なくすりとは?

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 20世紀のくすりの研究開発は、病原菌との対決から始まったといわれます。前世紀の後半に、パスツールやコッホらによって次々と伝染病の病原菌が発見されましたが(Q73参照)、それをいかに克服するかが大きなテーマとなったのです。
  ここでは、病原菌の克服に始まり、現代へとつながる代表的なくすりを、開発手法の変遷をたどりながら、いくつか紹介しておきましょう。

<化学療法の幕開け>
◎サルバルサン
 1910年(明治43)、ポール・エールリヒと秦佐八郎の共同研究によって、梅毒の治療薬サルバルサンが誕生しました。当時、梅毒は世界中に蔓延し、いまわしい病気として恐れられていましたが、水銀軟膏を塗る程度の治療法しかありませんでした。
 エールリヒと秦は新しい砒素化合物を次々につくって忍耐強い実験を重ね、ついに606番目の物質(サルバルサン)によって梅毒菌スピロヘータ・バリダの征服に成功しました。サルバルサンは単に梅毒治療薬というだけでなく、化学療法という新しい分野を開拓した先駆的なくすりとなったのです。
◎サルファ剤
 1930年代当時、熱病マラリアの治療薬にはキナ皮から採れるキニーネが利用されていました。
 ドイツのゲルハルト・ドーマクは、染料に使われる化学物質を次々と試した結果、1935年(昭和10)にようやくマラリア原虫を殺す赤い色素プロントジルを発見しました。と同時に、この色素がほかの病原菌にも有効であることに気づいたのです。たまたま自分の娘がケガをして敗血症となり生命が危うくなったとき、ドーマクはすがる思いでこの未知の物質を試したところ、驚くほどの効き目を発揮しました。
 プロントジルは世界中の研究者の注目を集め、その成分を基に数千ものくすりがつくられました。それがサルファ剤で、さまざまな細菌による感染症の治療薬として現在もなお利用されています。

<抗生物質の誕生>
◎ペニシリン
 最初の抗生物質ペニシリンは、1928年(昭和3)にイギリスのアレクサンダー・フレミングによって発見されました。フレミングは天然の産物の持つ殺菌作用に注目し、ぶどう球菌を培養してさまざまな物質を使った実験を行っていました。
 ある日彼は、培養皿のなかのぶどう球菌が溶け、そこに青カビが生えていることに気づきました。開いていた窓から偶然にも、カビの胞子が飛び込んだらしいのです。通常なら実験をやり直すところですが、フレミングは青カビの殺菌作用に注目し、研究を始めました。そしてついに青カビから、ぶどう球菌ばかりか肺炎菌や梅毒菌まで殺す強力な物質ペニシリンを見つけ出したのです。
 この発見は当初あまり注目されず、くすりが開発されるまで10年もの歳月がかかりました。しかし、ペニシリンは、抗生物質というまったく新しい発想のくすりとして、20世紀のもっとも偉大な発見の一つといわれています。
 また、ペニシリンの発見によって、その後、結核の特効薬ストレプトマイシンなどの抗生物質が次々に発見され、画期的な成果をもたらしたことも忘れることはできません(「くすりの常識Q&A50」→Q5参照)。

<病気の発症メカニズムに基づく創薬>
◎β(ベータ)ブロッカー
 20世紀になって、病気が発症する仕組みの研究が進み、そこから新しい分野のくすりが次々とつくられました。その先駆けとなったものが、降圧薬のβブロッカー(遮断薬)です。交換神経の二種の受容体αとβには、それぞれ血圧の上昇と下降にかかわる働きがあります。
 イギリスのJ・W・ブラックは、そのうちのβ受容体を遮断するという独自の発想で狭心症の治療薬の開発を計画し、遮断薬の開発に取り組んだ結果、1965年(昭和40)にプロプラノロールの開発に成功しました。病態発現のメカニズムに基づく、最初のくすりの誕生です。このくすりはのちに降圧薬としても脚光を浴び、高血圧の治療に使われています。
◎H 2 拮抗薬
 ヒスタミンは従来、アレルギー反応などにかかわる生理活性物質として知られていましたが、1960年代に2番目の働き(H 2 )として胃酸分泌作用が発見されました。
 このH 2 の受容体を遮断することで胃酸分泌を抑え、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの治療に画期的な効果を発揮したのが、1976年(昭和51)にイギリスで発売されたH 2 拮抗薬シメチジンです。
 このくすりは単に治療薬として優れていたばかりでなく、消化性潰瘍の手術を激減させ、夢の新薬ともいわれました。その後、日本などで次々と改良され、現在では薬局でも買えるほどに普及しています(Q86Q90参照)。

図76-1
創薬の歴史


Q76-2-1
20世紀の主な発見と開発 (1)


図76-2-2
20世紀の主な発見と開発 (2)

◆関連頁
[73][86][90]
・くすりの常識Q&A50
[Q1][Q5]

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