2004.03.30
【ピックアップ】子どもたちへ、健康に悪いからテレビばかり見ないで
「いつまでもテレビなど見ていないで勉強しなさい」
私も子供の頃よく言われたものだが、今自ら親となって気がつくと同じような言葉を口にしている自分がいる。私が子供の頃からすでにテレビは日常の一部となっていたし、今でもそうだ。ただ、ちょっと違ってきているのはテレビと健康というテーマがクローズアップされてきたことだ。
米国で小児は1日当たり平均3時間テレビを見ており、これを積算すると高校卒業までに3年間もテレビ視聴に時間を費やしたことになるという(1)。これは、ビデオ視聴やテレビゲームを含んでいない数字だから小児がテレビの前に座っている時間はもっと長時間になるだろう。日本でもそれほど変わらないのではなかろうか。もしかすると日本の小児はテレビゲームに費やす時間のほうが長いかもしれないが・・・。
その一方で問題となっているのが、生活習慣病の低年齢化である。今まで、小児に発症する糖尿病といえば、ほとんどがI型糖尿病であった。I型糖尿病は以前若年型糖尿病とも呼ばれていた。しかし、最近では小児でもII型糖尿病が増加してきているという。
その一因は小児肥満の増加である。米国では小児肥満者の25%、思春期肥満者の21%に耐糖能異常がみられ、思春期肥満者の4%はすでに糖尿病であった(2)。日本でも、ある医療機関に受診した10歳台のII型糖尿病はすでにI型糖尿病患者数の8割程度までに増えている。その他、肥満児の約30%に耐糖能異常あるいは糖尿病がみられたという報告もある。
もちろん小児肥満の原因は成人肥満と同様、カロリーや脂肪の過剰摂取、運動不足である。ただし、小児ではこれらの原因にテレビが深く関わっている。米国ではいくつかの調査にてテレビの視聴時間が長い小児ほど肥満の率が高いことがわかっている。テレビを長時間みていれば体を動かす時間が少なくなり、それが肥満につながるということはだれにでも想像がつく。
しかし、テレビの問題は運動時間の減少だけではないのだ。最近の研究によれば、テレビを長く見る小児ほど野菜や果物の摂取量が少なかったという(3)。その他にも、テレビを長時間見るとともにソフトドリンクを多く飲む小児に肥満が多いとの報告もある(4)。テレビでは毎日毎日嬉しそうにハンバーガーにかぶりつく子供の姿やおいしそうなスナック菓子、ソフトドリンクを飲む芸能人の姿が映し出される。それに比べて小児を惹きつけるような野菜や果物を食べる姿をテレビで見ることはできない。テレビは小児の食習慣に大きな影を落としているのである。
それは、食品業界にとって小児が大きなターゲットとなっているからに他ならない。「家族の車を買うときに鍵を握るのは親かもしれないが、家族の食費の鍵を握るのは子供である。」(5)のだ。しかも、小児にはまだ基本的な栄養学的な知識もなく、テレビを批判的に見る目が育っていない。小児は広告効果の最もあがりやすい格好の対象でもある。テレビで見たものを子供達はほしがる。しかし、子供の要望にひとつひとつ応えていては、かえって栄養バランスを損ねるかも知れない。子供の要求に正面から対峙し、子供のために食品を選択するのは親の役目なのだ。
これからは親として子供たちに「健康に悪いからいつまでもテレビばかりみているな」と言うべきかもしれない(やっぱり勉強もして欲しいけれど)。
■参考文献■
(1) Arch Dis Child 83:289-292, 2000
(2) N Engl J Med 346:802-810, 2002
(3) Pediatrics 112:1321-1326, 2003
(4) Arch Pediatr Adolesc Med 157:882-886, 2003
(5) エレン・ラペル・シェル著、栗木さつき訳「太りゆく人類 肥満遺伝子と過食社会」早川書房、2003年
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