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「矛盾」あえて解消しない…豊原功補

  • 撮影・工藤菜穂

 こわもての表情でシリアスな役に挑んでいたかと思うと、偏屈な男をコミカルに演じたり、主役を食う多彩な演技を見せる。

 昨年、文化庁芸術祭賞のテレビ・ドラマ部門で大賞に選ばれたNHK「ラジオ」では、東日本大震災で心に傷を負った女子高生を見守る父親役として、視聴者の涙を誘う好演を見せた。

 「若い頃は、演じる役柄や出演作品を自分で狭めていたけど、今はだいぶ広がりましたね。許せるというか、怖さがなくなってきた」。落ち着いた口調で淡々と語る。「本数を重ねたというより、年齢を重ねて、食わず嫌いがなくなってきたってことでしょう」

 東京都出身。少年時代はいじめられっ子だったといい、けんかに強くなりたい一心で、小学4年生からボクシングジムに通った。幼心にプロも目指したが、中学3年の時には、既に役者になろうと決めていた。「勉強も好きでなかったし、サラリーマンには興味がなかった。それよりも自分の身一つで立っていける仕事に就きたかった」

 ロバート・デ・ニーロやジャック・ニコルソンのようになりたいと、小劇場などを経て、10代後半でドラマにも少しずつ出演するようになった。だが、思うような役や作品は舞い込んで来ず、23歳の時に3か月間、豪州シドニーに渡り、見聞を広めたりもした。

  • 30日のBSプレミアム「おそろし~三島屋変調百物語」では、これまでの時代劇ではあまり経験のない町人役にふんする(右)

 転機となったのは、Vシネマ作品への出演が増えてきたこと。なんとか食べていけるようになり、さらにそれがきっかけとなって20代後半、連ドラ出演の声がかかるようになった。

 どちらかというとキツイほうを選ぶ人生だね――。出演作の「カメレオン」「亡国のイージス」などを監督した阪本順治からかつてそう評された時、なるほどと思った。「遠回りするタイプ。素直じゃないんですよね」

 それは作品に対する深い思いの表れでもある。「分かりやすく伝えることがすべてではない。そもそも分からないことが多いのが人間なんだから」ときっぱり。若い世代が理解しやすいように作るのではなく、「見る努力を要する作品のほうが面白い。大人っぽいものを作ったほうが、若い人たちも楽しめる」と力説する。

 キツイ道ばかり選んでいたら、さぞ生きにくいかと思いきや、それなりの生きるすべも語ってくれた。「『矛盾』という言葉が好きなんですよ。世の中も人間関係も矛盾だらけ。無理にそれを解消しようとしない方がいいし、解消しようとすると危ないし、面白みがなくなってしまう。白黒はっきりさせないのが、結構大事なのかもしれない」

 来年は50歳。体力にはまだまだ自信があるというベテランは、答えの出ない問いをのみ下しながら、自由にもの作りにまい進する。

 ◇とよはら・こうすけ

 1965年生まれ。フジテレビ系「電車男」、テレビ朝日系「時効警察」、NHK「ラジオ」などのドラマのほか、映画、舞台で活躍。2008年の映画「受験のシンデレラ」では、モナコ国際映画祭最優秀主演男優賞を受賞した。30日からのBSプレミアム「おそろし~三島屋変調百物語」(土曜後8.00)では初回に登場する。

 (旗本浩二)

2014年08月27日 08時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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