「天皇ご即位」から20年
日本人が忘れつつある「仁」と「義」の心を変わらず体現されている今上陛下=津川雅彦
(SAPIO 2009年8月19・26日号掲載) 2009年9月10日(木)配信
「何もせず、ただ存在する」ことの素晴らしさ
その意味で、戦後、個人主義が蝕む民間から皇室に入られた美智子皇后のご苦労は並大抵のものではなかったと想像する。
今年5月2日に放映された『天皇皇后両陛下ご成婚50周年スペシャル』(テレビ朝日系)で、私はナレーターを務めた。ご成婚以来の美智子皇后のご苦労を中心に描いたものだが、最も感動したのは、1992年の山形国体開会式での出来事だ。
お言葉を述べられる天皇陛下に、突如暴漢が発煙筒を投げつけた。その時、皇后陛下が咄嗟に身を挺して夫の天皇陛下を庇おうとなさった。愛だけでは不可能な行動だ。常日頃から、家族を大切にし公の範となる「覚悟」の証だ。これこそ大和撫子なのだと、ナレーションの最中に不覚にも声が震えた。
磨き抜かれた人柄に他の為に尽くす心を重ね、厳かで優雅な光り輝く「徳」にまで高めるには、気の遠くなる寡黙な我慢が必要なのだ。
一方、雅子妃が皇室の伝統に馴染めないでいらっしゃると報道されている。外務省出身の雅子妃は、ご自分なりの皇室外交を期待されていたのであろうが、ままならず、希望を見失われてしまったのではないだろうか。
また卑近な例になるが、私も若い頃、監督や先輩から「芝居をするな」と注意され、「芝居をしないで、何が役者だ」と反発した。だが、経験を積むにつれ、芝居をしたいと思う「気」が見えてしまう程芸に品がなくなる事に気付いた。
伝統を誇る能楽は、削ぎ落とした芸を更に内深くに秘める修業を積む。故に能面を付けても、その「気配」は鋭く観客を魅了する。
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