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主任研究員 中村クンの解説

2013年5月26日(日)放送
超高層ビルはなぜ倒れないの?

超高層ビルとは

 超高層ビルとは、建築基準法では、高さ60メートルを超える建物のことです。60メートルを超える建物を建てる際には、耐震性や火災の安全性などについて国の特別な審査を受けなければなりません。高さ60メートルというと、15階から20階程度です。ただ、いまでは、これくらいの高さは珍しくないので、法律とは別に100メートル以上の建物を超高層ビルと呼んでいるケースもあります。
 高さ60メートルを超える超高層ビルは、国内には2500棟以上ある推定されています。

超高層ビルの歴史

 日本の高層建築の先駆けとして知られているのは「凌雲閣」という建物です。1890年(明治23年)に、東京の浅草に建てられました。12階建て、高さ52メートルで10階までレンガ造で、11階と12階が木造でした。凌雲閣は、1923年(大正12年)に関東大震災のときに崩れてしまいました。
 旧丸ビルは、関東大震災の年に完成しました。大震災の揺れによる被害はありましたが、建物が崩れることはありませんでした。旧丸ビルの高さは100尺、およそ31メートルでした。
 関東大震災より前、東京の市街地などでは建物の高さはおよそ31メートルまでという高さ制限がありました。大正9年に施行された制限です。この制限は、1963年(昭和38年)に法律が改正されるまで続きました。
 霞ヶ関ビルは、1968年(昭和43年)に完成しました。高さ147メートル、地上36階です。
 当時、これだけの高層ビルが実現したのは、どうしてでしょうか。
 ひとつは、地震に耐えるには、どのように建物を作ったらいいのかという理論が構築されてきたことがあります。比較的柔らかく、やや文学的に表現すると「しなやかな構造」にすることで、地震の力を受け流せるということがわかってきたのです。2つめは、当時の高層建築には欠かせない、大型の鉄骨を作る技術ができてきたことがあります。3つめは、コンクリートなど、軽量の建設資材の開発です。さらに、エレベーター技術の進歩などが積み重なった結果です。当時のハイテクが詰まったビルなのです。

ブレイク  国内初の超高層ビルは、霞ヶ関ビルではない?

 国内初の超高層ビルは、実は霞ヶ関ビルではありません。高さ72メートル、17階建ての東京にある「ホテルニューオータニ」が最初です。
 霞ヶ関ビルは当初、敷地いっぱいに高さ31メートル、9階建てのビルとして建てられる計画がありました。しかし、高くした方が、敷地に余裕を持たせ、窓に面した部屋を多くでき室内も明るくなります。様々な有利な点と、技術的な難題の克服があって実現しました。こうした検討で、完成までに時間がかかり、その間に60メートル超の建物が建設されたのです。
 霞ヶ関ビルは、100メートルを超える建物としては、国内初ということになります。

 その後、1970年代に新宿副都心に、179メートルの「京王プラザホテル」、上から見ると三角形というか六角形をしている210メートルの「新宿住友ビル」、1978年には240メートルの「サンシャイン60」が東京、池袋に建設され、日本一の高さになりました。その後、日本一は、243メートルの「東京都庁第一本庁舎」。1993年竣工の「横浜ランドマークタワー」(296メートル)と続きました。

 海外では、アメリカのシカゴで、大火の後、1800年代の終わりころから、9階建てや16階建ての高層建築が建設されるようになりました。
 その後、ニューヨークに高さを争うように超高層ビルが建設されました。1908年に186メートル、47階の「シンガービル」、1930年に319メートル、77階の「クライスラービル」が完成しました。1931年に完成した「エンパイアステートビル」は381メートル、102階です。このビルは、その後、長い間、世界一の座にありました。

 超高層ビル建設の背景には鉄骨構造の技術の発達やエレベーターの技術の向上などがありました。第二次世界大戦前のことです。
 さらに戦後、1973年にニューヨークに「ワールドトレードセンター」が完成しました。411メートル、110階で、のちに「9.11」のテロで崩壊しました。1974年に442メートル、108階の「シアーズタワー」、現在の「ウィリスタワー」が完成しました。
 2013年5月現在、高さ世界一は、ドバイの「ブルジュ・ハリファ」です。高さは、828メートルです。

超高層ビル概論
(図1)ビルに作用する水平力(地震力、風圧力) (図1)ビルに作用する水平力(地震力、風圧力)

 超高層ビルは、特別に、大臣認定を受ける審査が行われ、高度な設計なされています。

 高いだけに「倒れてしまわないか」と心配する人もいるかもしれません。建物に横方向に加わる力としては、地震や風の力があります。(図1)
 その力が作用した場合、例えば超高層ビルの左から右に押されたとき、右の足元の柱には、押しつぶそうという力が働きます。この力を計算して、柱が十分耐えられるようにしています。鉄骨を一般的な建物より強いものにするとか、柱を太くするどして、断面積を大きくします。反対側の足もとの柱には、場合によっては地面から引き抜くような力が働きます。それも計算して柱の鉄骨の強度や太さを決めます。

 こういう計算を最上階から1階、地下まですべての階の柱、それに柱と柱を横方向につないで床を支える梁などについても計算します。こうして途中の階で建物が折れるようなこともないよう設計しています。
 また、基礎についても地盤に加わる圧力に、土が耐えられるかどうか検討します。また杭を打っている場合は、杭の周りの地盤と杭の表面との間の摩擦力が建物の重さや地震などによる押す力や引き抜こうとする力に十分耐えられる必要があります。

 500年に一度発生するような地震があっても、建物が倒れたり折れたりしないように設計しています。最悪、少しゆがんでしまう程度におさめるようにして、中の人の安全を確保します。ただ、このとき、室内の棚などは、しっかり固定しておかないといけません。

阪神・淡路大震災以降の超高層建築
(図2ー①)通常のビルと制震構造のビルの違い
(図2ー②)通常のビルと制震構造のビルの違い (図2)通常のビルと制震構造のビルの違い
通常のビルは地震のエネルギーが入り、建物の振動のエネルギーになる。
 制震構造のビルはエネルギーの一部が熱などとして放出される。その分、振動エネルギーが小さくなる。振動の大きさも小さくなる。)
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 阪神・淡路大震災では、超高層の建物にも一部被害が出ました。もちろん倒れるような事態にはなっていませんが、その被害を受けて、大きな地震の揺れにも、うまく耐えるような工夫をすることの重要性、その認識がさらに高まりました。
 地震が起きると、地面が振動して、建物が揺れます。これは、エネルギーが地面から建物に入ってきたということになります。入ってきたエネルギーが建物内部で消費されたり、地盤に戻されたりして、なくなるまで、建物は揺れ続けます。
 そこで、エネルギーを地震で揺れている最中に、建物の中で別のエネルギーに変えて、揺れを弱めるという工夫が超高層ビルに取り入れられるようになって来ました。(図2)
 これが阪神・淡路大震災以降の超高層ビルの傾向です。

「あべのハルカス」の地震対策
(写真1)高さ300メートルの超高層ビル「あべのハルカス」 (写真1)高さ300メートルの超高層ビル「あべのハルカス」

(図3)建物に使用される柱 (図3)建物に使用される柱
あべのハルカスには一部にCFT柱が使用されている。鉄骨の中にコンクリートを充てんしたもので、鉄骨と鉄筋コンクリートの長所を併せもつ。)
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(図4)ブレースの効果 (図4)ブレースの効果
ブレースがないと、地震による水平の力で、平行四辺形に変形する。
 ブレースがあると、変形しにくい三角形をつくることができる。地震時の変形を抑えられる。)

 大阪、阿倍野で建設が進められている超高層ビル「あべのハルカス」は高さ300メートル、地上60階・地下5階建てです。横浜のランドマークタワーを抜いて、日本一の超高層ビルになります。(写真1)

 地震対策の検討では、単に高いということだけではなく、阪神・淡路大震災、さらには東日本大震災を経験し、指摘された超高層ビルの課題について対策が採られました。

 耐震対策のひとつとして、鉄骨とコンクリートを組み合わせた柱が採用されました。四角い鉄骨の中にコンクリートを詰めた柱です。(図3) 鉄骨だけですとやわらかく揺れやすい建物になってしまいます。鉄筋コンクリートですと大きな変形に対応しづらくなります。鉄骨の中にコンクリートを詰めた柱は、両者の長所を兼ね備えていると考えられています。

 さらに、建物が変形しにくくなるような工夫があります。柱と梁で作られる長方形は、角の接合部が変形すると、長方形の4つの角の角度が90°ではなくなります。柱や梁の長さ、つまり辺の長さは変わらないため、長方形が平行四辺形に変形してしまいます。このとき「ブレース」という斜めの部材を入れると、長方形は三角形で構成されるようになります。三角形は3つの辺の長さが変わらないとき、変形しません。(図4)
 こうしたブレースを各所に配置して変形しにくくしています。

制震構造
(図5)制震装置の原理 (図5)制震装置の原理
(地震時に変形する四角形と三角形を組み合わせて、大きな変位があらわれるようにする。が大きくずれるようにする。の間を変形すると熱エネルギーを放出する「ダンパー」などの装置でつなぐ。)
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(図6)あべのハルカスに採用された制震装置 (図6)あべのハルカスに採用された制震装置
(3つの層に別々のダンパーを用いた制震装置を取りつけて、地震エネルギーを効率的に熱エネルギーに変換できるようにしている。)

 他にも違った発想で行う地震対策として特徴的なものがあります。「制震装置」です。図2の発想です。

 制震装置は、地震によって建物が揺れるエネルギーを吸収するというものです。吸収した分揺れは小さくなり、早くおさまります。それだけ建物の損傷は小さく抑えられます。
 制震装置には、様々なタイプがありますが、まずは基本的な考え方を見てみましょう。制震装置は、地震のとき建物に大きく変形する部分を作って、その部分に加わる変形のエネルギーを他のエネルギーに変える装置を取り付けています。
 例えば柱と梁の長方形の中に、三角形をつくります。長方形は力が加わると90°の角度になっている接合部が変形して平行四辺形のようにゆがみます。一方、三角形は、3つの辺の長さが決まると接合部の角度は変わらず、そのままの形を維持し続けます。長方形と三角形の変形の仕方に大きな差ができます。そこで長方形と三角形をつなぐと、その部分に大きな変形が生じます。ここに変形のエネルギーを他のエネルギー、例えば熱に振り変える装置を取り付ければいいのです。(図5)

 あべのハルカスで見てみます。このビルは、どの階も同じ広さではなく、下3分の1、真ん中3分の1、上部3分の1と、高くなるにしたがって、3段階に床面積が小さくなります。3つの層ごとに、異なる「制震装置」がついています。(図6)
 下3分の1の取り付けられているのは、「回転摩擦ダンパー」という制震装置です。変形が集中する部分に、板を大きなネジのようなもので締め付けた装置を取り付けています。ネジを中心として、板の角度が変わるとき、板同士が擦れ合うため摩擦熱が生じます。この装置が199台設置され、揺れのエネルギーが熱エネルギーに変えているのです。
 その上の真ん中の3分の1は同じように「オイルダンパー」という制震装置が108台取り付けてあります。これも変形するとオイルによって動きにくくなっているピストンが無理やり伸び縮みさせられ、このとき、熱を持ちます。熱エネルギーへの変換です。
 建物の上部には、少し違った「心棒ダンパー」という制震装置があります。長方形と三角形の組み合わせではなく、建物の中に屋上近くから心棒を吊り下げます。その心棒と周りの建物部分との間に生じる変形の違いを利用します。この間をオイルダンパーでつなぐと、変形が熱エネルギーに変換されます。この装置で高層部の変形を10%抑えられるということです。
 他にも、柱と梁で作られた長方形の部分に、一部は鋼板の壁を取り付けています。長方形が平行四辺形になるとき、壁の鋼板が変形します。225か所に設置されています。この鋼板の壁の変形もエネルギーを吸収してくれます。

 このように、工夫した柱やブレース、制震装置の組み合わせで、想定される南海トラフを震源とする巨大地震にも耐えられる高い耐震性能を得たということです。

ブレイク 「あべのハルカス」は世界では何位?

 300メートルという「あべのハルカス」の高さは、どの程度の位置にあるのでしょうか。高さは、ビルでは日本一ですが、電波塔も入れると、東京スカイツリー、東京タワーについで日本の第3位になります。
 世界では、300メートルは完成しているビルの70位前後の高さになります。海外では400メートル以上も次第に珍しくなくなってきています。

建物の揺れ方と周期
(図7)振り子の振動と共振 (図7)振り子の振動と共振
振り子の振動と手の揺らし方を合わせると、大きく揺れるようになる。「共振」という。
 振り子の揺れ方より速く手を動かすと、揺れは小さい。共振していないため。)


(図8)共振現象とビルの揺れ方 (図8)共振現象とビルの揺れ方
(手の揺らし方を振り子と合わせると共振して大きく揺れる。同じように地震動とビルが共振するとビルが大きく振動してしまう。)

 建物には、それぞれ揺れやすい周期というものがあります。
 周期とは、どういったものでしょうか。
 揺れるものには周期があって、例えばブランコでいうと、前に振り上げたところから下がるように中央に向かって速くなり、後ろでまた高い位置になり一瞬止まります。そして、再び同じ前のところに戻ります。この繰り返しをします。このとき前の振り上げたところから同じ前に戻るまでに時間が周期になります。「ユラユラ」とゆっくり揺れるものは、同じところに戻るのに時間がかかり、「周期が長い」と表現します。逆に、「カタカタ」と速く揺れる場合は「周期が短い」となります。

 建物は、一般に高さが高いほど周期が長くなります。つまり、超高層ビルは揺れる周期が長い建物ということになります。

 振り子を手で持っていることを考えてみてください。振り子の揺れ方にあわせて、手を動かすと振り子は、だんだんの大きく揺れてきます。手の動きは少しでも、タイミングが合っていると大きな揺れになります。これは振り子の周期と手を動かす周期が一致しているためです。これを「共振」といいます。
 一方、振り子の揺れ方よりも、速く、あるいは遅く手を揺らしてみると、振り子のおもりはほとんど揺れません。振り子の周期と揺らす手の周期が異なると、手の揺れがあまり伝わらないのです。(図7)
 建物と地面も同じような関係にあります。振り子と手を、上下さかさまにしてみます。(図8) 手の上で振り子が揺れる状況になりますが、このとき、先ほどの手が地面、振り子が建物になったと考えてみてください。
 ビルには揺れやすい周期があります。これと同じ周期で地面が揺れると、ビルの揺れは大きくなっていきます。ビルの周期とは異なる周期で地面が揺れたとき、地面の揺れの強さの割には、ビルは揺れないということがおこります。

 地震の時、地面はいろいろな周期が混ざって、複雑な揺れ方をしています。
 かつては、地震の時の地面の揺れ方は、周期が短い揺れが多く含まれていて、長い周期の揺れはあまり含まれていないとして設計されてきました。
 このため、超高層ビルを設計するとき、周期が長くなるようにすれば、地震の時の地面の揺れの周期とは一致せずに、揺れがあまり伝わらないはずだとされていました。
 こうした考え方の建物の構造のことを、「しなやかな」構造で「柔構造」といいます。高さ100メートルの鉄骨のビルですと、周期はおおむね3秒です。地震の時、3秒の周期の揺れがあまり含まれていなければ、建物の揺れも大きくならないことになります。

超高層ビルと長周期地震動

 ところが、超高層ビルが、「共振」しやすい長い周期の揺れについての考え方が変わってきました。
 東日本大震災では、地面の揺れに周期の長いが多く含まれていました。実は、太平洋のプレートとプレートの境目で起きるような巨大地震では、周期の長い揺れが多く含まれることが指摘されています。
 東日本大震災では、超高層ビルが大きく揺れました。新宿副都心のビルも大きく揺れました。一部のビルでは、揺れ幅が往復で1メートル70センチを超えたという報告があります。東北から離れた大阪の超高層ビルの中には、往復2メートル70センチあまりも揺れたものがありました。いずれも、建物に構造上の損傷はなかったということですが、地面が長い周期の揺れ方をすることを十分考慮して設計することの必要性が指摘されています。

 地面が長い周期で揺れる、その振動を「長周期地震動」といいます。2003年の十勝沖地震などで明らかになってきました。こうしたことをきっかけに、長周期に対する対策が積極的にとられるようになってきています。
 その対策というのが、揺れのエネルギーを別のエネルギーに変えて揺れを抑えるという「制震」です。あべのハルカスには、対策がいくつもしてありました。

ブレイク  長周期地震動

 長周期地震動について、もっと早く対策はとれなかったのでしょうか。地震は、いつどこで起こるかわからないため、世界的にも特に大きな地震の揺れを記録した観測データは多くありませんでした。観測された地震も、プレートの境界で起こる地震とは違うタイプのものだったことなどから、長い周期があまり含まれていませんでした。このため、長周期地震動については耐震構造を考える上で重視されてきませんでした。
 観測データとして注目されたのは、2003年の十勝沖地震です。この地震の波には、ゆっくりした揺れ、長周期地震動が多く含まれていました。
 長周期地震動は、超高層ビルもこの揺れが苦手ですが、石油タンクも苦手としています。タンクの石油がゆっくり波打ちます。このため、周期の長い地震の揺れが来ると、タンク内の石油の振動と地震の揺れが共振します。するとタンクの中で石油にかぶせるように浮かせている「ふた」が波打つ石油にあわせて大きく動いてしまいます。ふたとタンクが衝突するなどして、火災が発生しました。
 こうして、長周期地震動対策の重要性が注目されてきました。

 超高層ビルは、高さが高いため、どうしても周期が長くなります。長周期地震動に対しては共振しやすくなってしまいます。それだけに制震構造は、有効な対策になっています。

制震は壊れるところを決める
(図9)制震構造と建物の継続使用 (図9)制震構造と建物の継続使用
制震装置がないと、巨大地震の際、柱や梁など重要部分が損傷を受け、建物が使用できなくなることもある。制震構造では損傷は制震装置に集中するので、これを交換すれば、建物は地震後も使用できる。)
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 話を制震構造に戻します。
 この構造が注目されているのは、エネルギーを吸収してくれる点だけではありません。

 大きな揺れが建物を襲うと、建物の一部が損傷します。損傷することで地震のエネルギーを吸収しているわけです。制震構造でない場合、損傷は、柱と梁の接合部分などに集中します。これは接合部に大きな力が加わるため、そこが変形してしまうのです。
 ただ、柱と梁の接合部分は建物の強度を確保する上で重要な箇所なので、ここが損傷すると、その建物は使用できなくなる可能性が高くなります。
 これに対して、制震構造にすると、大きな地震で損傷、変形するのはダンパーなどのエネルギーを吸収する部分です。仮にこの部分が壊れた場合、地震後その部分を取り換えれば、建物はまた使えます。(図9)
 制震構造は、建物の壊れる部分を決める構造だということができます。

既存の建物の対策は?

 新宿の高層ビルの中には、建てた後に改修をして、制震構造に変える工夫をした建物もあります。2009年に改修工事を終え、東日本大震災の揺れに襲われました。制震構造の導入により、揺れ幅を20%低減したということです。
 東日本大震災は地震の規模、マグニチュードが9.0、南海トラフで将来、発生すると考えられる巨大地震もマグニチュード9クラスになることが想定されています。設計した当時よりは想定すべき地震動が大きくなっている建物もあります。すでに建設されている超高層ビルでは、長い周期の揺れの対策を新たに組み込もうと、改修を計画しているところもでてきています。

ブレイク 制震構造は霞ヶ関ビルにも?

 制震構造は、阪神・淡路大震災以降、多くの超高層ビルに取り入れられるようになってきています。実は、日本の超高層ビルのさきがけとしての存在である霞ヶ関ビルにも、制震構造と同様の機能をする工夫が取り入れられています。
 霞ヶ関ビルの階段を囲むように配置している壁が特殊な壁になっています。壁に「スリット」、つまり切れ目が何本か入っています。地震で大きく揺れると、切れ目部分をきっかけに、徐々に壁にひびが入っていきます。このときエネルギーを吸収します。
 高さ31メートルの規制の時代から、100メートルを超える超高層ビルを建てるということで、地震対策としていろいろ考えられた工夫が、今日の視点で見ると制震の役割もしているということになります。

超高層ビルの風対策

 建物は、低い場合、外から加わる力として最も考えなければならないのは地震ですが、特に200~300メートルを超えてくると、風の影響が地震と並んで大きくなってきます。
 日本は、地震対策も重要ですが、台風が発生するだけに風対策も重要です。
 風は、地上近くより、高いところほど強くなります。地上で風速30メートル程度のとき、上空では数十メートルの風が吹いていると考えられます。

 あべのハルカスで見てみます。
 風が吹くと建物は、風の吹く方向と直角の方向に揺れます。北から南に風が吹くと建物は東西に揺れるといった具合です。風が建物にあたると、建物の後ろの方で渦ができます。風上から建物を見て、建物の右側に渦ができると、しばらくして渦が建物から離れて今度は反対の左側に渦ができます。このように交互に渦ができるため、風の流れる方向に直角に建物が揺れるのです。
 この渦がどれくらいの時間間隔で反対側に移るのかは、建物の幅などによって決まってきます。あべのハルカスは、下の方の階は幅がありますが、上に行くほど建物の幅が細くなっています。すると、建物の上の方と下の方では、渦のでき方のタイミングがズレてくれます。
 建物の形を単純な直方体ではなく、高さによって変えると風の力を一部相殺させることが可能になります。世界第1位の高さ828メートルのドバイにあるブルジュ・ハリファなど超高層ビルの中でも特に高さの高い建物では、高さ方向で形状を変えるビルが多いのです。

 強い風でなくても、日常的に風は吹いています。超高層ビルはこうした風などにより建物が、ゆっくりと揺れてしまうことがあります。
 あべのハルカスでは建物上部で、重りを動かしています。建物と同じような周期で建物とは逆向きに揺れる重りが設置されているのです。逆向きに動かすことで揺れを相殺し、抑えることができるということです。この考え方は、横浜のランドマークタワーなどにも採用されています。

今後の超高層ビル

 阪神・淡路大震災、東日本大震災と経験した日本では、超高層ビルの耐震対策の見直しや既存のビルの安全性の再検証、改修計画が進められています。
 超高層ビルには、行政や様々な機関が入っています。巨大地震の発生ということで機能が止まってしまっては、ますます混乱が拡大してしまいます。
 より安全で、地震を受けても機能喪失を最小限に抑えられるよう対策の検討が求められます。







ラボラジ検定 ミッション023

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