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【経済】

<ザ・闘諭>社会保障と税一体改革 受け入れる?

賛成派の西沢和彦さん(左)と反対派の鈴木亘さん=東京都千代田区内幸町で(平野皓士朗撮影)

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◇鈴木 亘学習院大教授 医療ばらまきへ道

◇西沢 和彦日本総研上席主任研究員 消費増税は必要悪

 安倍晋三首相は十月一日にも来年四月の消費税増税を正式発表する。増税は本来なら社会保障制度改革国民会議で決める社会保障改革策と一体で議論され、国民の将来不安を解消するはずだった。「一体改革」は受け入れられる内容か。学習院大の鈴木亘(すずきわたる)教授と、会議に委員として参加した日本総合研究所の西沢和彦上席主任研究員が徹底討論した。(石川智規、須藤恵里)

 鈴木 消費税増税に反対です。不安解消どころか、消費税増税が仇(あだ)となって社会保障費ばらまきの道を開いてしまうからです。

 国民会議報告では、大病院に来る患者を減らすために、病院間の連携や「地域の家庭医」の普及を打ち出し、そのために増収分を使うと明言しています。家庭医に反対する医師会に配慮したためで、ばらまきにつながる心配が濃厚です。増収のたびに支出を追加するなら消費税は将来30%を超えてしまう。

 西沢 病院連携は本来、医療機械の共同使用など経費削減できる話。私も事務局原案に「柔軟に財政支援する」とあったのを「厳格に」に変えるよう二度指摘しましたが、採用されませんでした。社会保障改革に問題は残っています。

 しかし、消費税増税は民主党時代からの議論を考えれば、この過程をご破算にすれば、新たなコストが発生してしまいます。必要悪として受け入れ、次に進むしかないでしょう。

 鈴木 仮に増税するにしても相続税の方がよい。今は相続対象者百人のうち四人の割合でしか払っていないのを、もっと多くの人に払ってもらうと。高齢者は残さず使おうと考えるため、景気への影響は少ない。今の年金は高齢者たちが支払った分よりも高い金額を戻し、コストは若い世代が負担していますが、この世代間不公平も解決します。

 西沢 私は全国一律にあらゆる世代から集められる消費税でまかなうのは妥当と思います。ただ、国民会議で財源まで根本から話し合うべきだったのに、「時間がない」と議論されなかったのは問題と思います。

◆一体改革決定システムに問題

◇反対 鈴木亘さん 財政状況情報公開を

◇賛成 西沢和彦さん 首相無関心官僚任せ

 鈴木 無駄遣いにつながるのは医療だけじゃないですよ。二〇一四年度予算の概算要求で、七万人の待機児童を解消するためとして五千億円を厚労省が要求してますが、一人の子どもを保育園に行かせるために七百万円も使う計算になります。親の負担に加えて、ですよ。子育て対策は必要ですが、もっと効率的な賢い使い方を考えないと。

 介護制度も国民会議報告では、介護を受ける度合いが低い「要支援」の人向けのサービスを国の介護保険から切り離し、市町村事業に移すことが盛り込まれました。だけど、「財源はどうするのか」とわーっと批判が出たとたん田村厚労相は「介護保険からちゃんとお金は出します」と言っちゃった。意味のないことをやっちゃってる。

 年金も会議の会長が支給開始年齢引き上げに言及したのに、結局「大丈夫」ということで議論も封印した。

 西沢 年金は、来年が積立金が十分か検証する「財政再検証」の年です。私はこれを一年前倒しして、財政状況を把握した上で、改革策を作らないと意味ないと会議で主張しましたが、受け入れられませんでした。自民党と公明党政権は二〇〇四年に年金改革した時、「これで百年安心」と言っちゃったものだから、これを崩したくなかった。厚労省も政治に配慮して先送りしてしまった。

 鈴木 本来、国民会議では、専門家による公正中立な議論が期待されていたはずですが。

 西沢 実際はそうなりませんでした。委員として参加してみて、議論の中身の95%は官僚がコントロールしており、有識者は事務局が用意した原案に修正を申し入れる程度。変えられるのは全体の5%程度にすぎない。参加者にも利害関係を背負った覆面レスラーのような人が多い。役所が書いたと思われる「ご発言いただきたい事項」というメモを見て発言している人までいた。

 安倍首相も社会保障に関心なかった。国民会議では、政権交代後の初回冒頭の十分だけ出て、以来姿を見せなかった。高齢化時代に社会保障はいい話がないので避けて通ろうというのが政治家の知恵なのでしょう。

 安倍首相は消費税を人質に、財務省から法人税減税を引き出そうと駆け引きをしているようですが、本来は、「こういう社会保障改革に伴い、これだけ必要なので、増税が必要です」と国民に正面から訴えるべきです。

 鈴木 そういうことが国民の不安を生んでいるんです。国民は負担が増すことに不安を持っているのでなく、どこまで将来、負担が増えるのか、どこまで給付が削減されるのかが分からないのが最大の不安なのです。偉い人は「大丈夫」と言ってるが本当か、と。まずは情報をオープンにして、財政状況を正直に話して分かってもらった上で、負担を求めるのが筋です。財政の本当の姿を知れば、国民の目も厳しくなるので、ばらまき的な使い方もできなくなり、本当の財政再建ができます。

 西沢 税と社会保障の一体改革は官僚主導で進んでしまった。「おれたちがうまくやってやるから」と、官僚が政治家や医師会などと、調整して作った文書が国民会議の報告書。次回からはそういう意思決定システムを変え民主的な意思決定にしない限りだめ。消費税増収分も真に必要なところにあてられるかは国民の監視にかかっています。

 すずき・わたる 1994年上智大経済学部卒後、日銀入行。約4年で退職後に大阪大で博士取得。現在は学習院大経済学部教授。専門は社会保障論、医療経済学。70年生まれ。

 にしざわ・かずひこ 1989年一橋大社会学部卒後、三井銀行(現三井住友銀行)入行。現在は日本総合研究所上席主任研究員。専門は社会保障制度と税制。65年生まれ。

 

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