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「食われる」絶望との戦い 「進撃の巨人」諫山創に聞く

2011年6月1日

写真:「進撃の巨人」の作者、諫山創拡大「進撃の巨人」の作者、諫山創

表紙画像著者:諫山 創  出版社:講談社 価格:¥ 440

 人間をむさぼり食う巨人との絶望的な戦いを描いたマンガ「進撃の巨人」が、単行本4巻で計450万部を超えるベストセラーになっている。連載デビュー作にして脚光を浴びる、作者の諫山創(いさやま・はじめ)に聞いた。

■現代の閉塞感 重ねる

 舞台は、巨人の大群によって人類のほとんどが食い尽くされた世界。生き残った人間たちは、高さ50メートルの壁に囲まれた城塞(じょうさい)都市を築き引きこもる。平穏は約100年間続いたが、壁を打ち破るほどの超大型の巨人が出現。若者らは命がけの戦いに飛び込んでいく。

 無表情に、人間をつまんで、ばりばり咀嚼(そしゃく)する巨人が不気味だ。念頭に、東京の繁華街の深夜のネットカフェでバイトをしていた時の記憶があった。「言葉なんか通じない酔っぱらいの客もいた。いちばん身近に接している動物であるはずの人間が、何を考えているか分からないのが怖い」

 巨人が襲撃する前、都市には、城塞内の安全を過信し、緩んだ気分が満ちていた。主人公のエレンはそんな雰囲気に危機感を抱く一方、壁の外の世界を見たいと強く願っていた。24歳の諫山からも「閉塞(へいそく)感」という言葉が何度も口をつく。

 「詳しくは分からないけど政治もそうでしょうし、九州の田舎では商店街はシャッターだらけで、すごいさみしいですよ」

 巨人という「想定外の危機」により、人々は「やらねばならない状況」に追い込まれる。エレンや、彼を何よりも大切に思うヒロインのミカサ、厳しい訓練を共にした仲間たちは、友情を育み、勇敢さを発揮していく。だがそれ以上に、恐怖に泣き叫ぶ姿が頻繁に描かれ、重苦しさが作品を支配する。「弱い部分を見せつつのヒーローを描いていきたい」と諫山は言う。

 絵は粗削りで、画力は決して高いとはいえない。「細部に気をつかえず、勢いでごまかしている部分もある。でも、ならば破綻(はたん)させてやろうと思っていて、結果的にそれが時代にあっていたのかもしれない」

■実験場「別冊」から話題作

 「進撃の巨人」は2009年、「別冊少年マガジン」の創刊と同時に連載が始まった。老舗の少年マンガ誌「週刊少年マガジン」の編集部が立ち上げた雑誌だ。「手堅いヒットを狙ってか、既存の少年誌に似通った作品が多くなり、新しい表現を発信する場を作りたかった」と編集長を務める朴鐘顕さんは言う。

 創刊時、執筆陣に「絶望を描いてくれ」と伝えたという。言葉どおりの「進撃の巨人」、同級生の体操着を盗んだ中学男子が主人公の「悪の華」など話題作を生んでいる。いずれも「週マガで始めるのは難しい作品でしょう」と朴さん。

 少子化の影響で既存のマンガ雑誌の部数は落ち込むが、単行本は堅調だ。新雑誌は、単行本のヒットを生む土壌として期待される。

 青年誌「モーニング」は06年、「モーニング・ツー」を創刊。ブッダとイエスが現代日本に暮らすというとっぴな設定のギャグ「聖(セイント)☆おにいさん」の大ヒットも生み、不定期刊から月刊化した。

 自由がきくのは、作品の中身だけでない。09年からはウェブでの無料公開に踏み切り、現在も発売から1カ月遅れで公開している。

 編集責任者の田渕浩司さんによると、ある掲載作の単行本のサイン会で、参加者にどこで作品を知ったかを聞くと、「書店の店頭」「ツイッターなどのウェブ」「雑誌」の割合が、5対3対2程度だったという。「大部数の雑誌に掲載するという王道以外の、ヒットの仕方が様々生まれている」と指摘する。(宮本茂頼)

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