シネマ報知

健さん「感無量です」３５年ぶり主演賞…第３７回報知映画賞・主演男優賞

（2012年11月27日11時19分 シネマ報知）

６年ぶりの出演作でつかんだ主演男優賞の高倉健

拡大

　◆第３７回報知映画賞▽主演男優賞・高倉健「あなたへ」今年の映画賞レースのトップを飾る「第３７回報知映画賞」の受賞者が２６日、決定した。主演男優賞を獲得したのは、「あなたへ」（降旗康男監督）で６年ぶりに映画出演を果たした高倉健（８１）。亡き妻への思いを胸に日本縦断の旅に出る寡黙な男を演じ切り、実に３５年ぶりの受賞となった。主演女優賞は「北のカナリアたち」（阪本順治監督）の吉永小百合（６７）が受賞と、日本映画界を代表する俳優がそろい踏みした。表彰式は１２月１８日に行われる。

　高倉の報知映画賞は、１９７７年に「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」で主演男優賞を獲得して以来となる。

　「その時のブロンズ像を見ていると、当時個人事務所を立ち上げたばかりで、辛抱と不安の日々だったことを思い出しました。３５年目に、同じ賞をいただけることになり感無量です」

　前回は前年に東映を退社。「任侠（にんきょう）映画の健さん」から脱却した時期の受賞だった。今回の受賞の報に、当時の記憶が鮮やかによみがえったという。

　自らの職業を「映画俳優」と名乗る高倉が６年間、貫いてきた沈黙を破った「あなたへ」。異例ともいえる公開前のバラエティー番組出演など、「注目してもらいたい」という気持ちが少なからずあったように思えるが、本人はそれを否定した。

　「僕は（映画が）当たる、当たらないとかじゃない。あの時期に、この監督と仕事をしたかったということ。それだけです」。今回で２０作目となる盟友・降旗監督がメガホンを執ったからこその出演。「今でも『ずいぶん地味な話だなあ』と思うけど、それが魅力。そして『なるほど』という仕上がり」。その言葉通り、公開から３か月が経過した現在もロングラン上映中で、動員２２１・３万人、興行収入は２３・５億円に達している。

　今作は数々の作品で共演した大滝秀治さん（１０月２日死去、享年８７歳）との「別れの場」になった。

　「大滝さんからは『一つの仕事は、いつも一つの事件です』と手紙をいただきました。自分の持ち時間を考えると、その言葉の重みが増します」

　自らも円熟期を迎えたことを認識した上で、今回は若いスタッフと仕事をしたい、と進言。「日本には素晴らしい俳優、監督がいることを知ってもらいたい」と言い、降旗組に若い顔がそろった。

　その思いは後輩のキャストにも受け継がれた。物語の後半が撮影された長崎・平戸市でのこと。高倉は三浦貴大（２７）に「大滝さんが監督に質問しているところを、ずっと見ていなさい」と言った。「だって、すぐ近くに学べる場所がある。これは、すごいチャンスですよ」。自身については「俳優としての何かを渡す？僕はそこまでいってないよ」と謙遜したが、共演者は高倉の背中から、多くを学び取ったはずだ。

　今回の作品を通じて、自らが担う責任感を感じた。

　「日本映画界が魅力ある産業であり続けることに、少しでも貢献できるように、微力ながら精進を続けて参りたい」

　「映画俳優」は自らにこう言い聞かせた。

　◆高倉健（たかくら・けん）本名・小田剛一。１９３１年２月１６日、福岡・中間市生まれ。８１歳。５６年、映画「電光空手打ち」で主演デビュー。東映時代の「網走番外地」「日本侠客伝」「昭和残侠伝」はいずれもシリーズ化されて大ヒット。江利チエミさんと５９年に結婚し、７１年離婚。７７年、「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」で報知映画賞主演男優賞を受賞。代表作に「南極物語」「鉄道員（ぽっぽや）」など。０６年、映画俳優として初めて文化功労者に選ばれた。

　◆「あなたへ」富山の刑務所で指導技官として働く寡黙な男・英二（高倉）は、１５年連れ添った妻・洋子（田中裕子）を病気で失う。妻の故郷・九州で散骨をするため、自家製のキャンピングカーで出発する英二。旅先では妻との思い出を振り返る中、どこか影を持つ様々な人物と出会い、人の絆を確かめ合う。「夜叉」（８５年）「あ・うん」（８９年）などのプロデューサーで、０８年に死去した市古聖智さんが高倉のために書き下ろした脚本を基に、降旗康男監督がアレンジを加えた。