インフレ目標で役人もマスコミも“変節” 極論唱える御用学者も…

2012.12.28

 日銀がこれまで否定してきたインフレ目標を一転して採用する方向となった。このように政策の方向性が大きく変わることをレジーム・チェンジ(政策体制大転換)という。官僚組織で方向転換することは無理なので、政治の力で行われるわけだ。今回は安倍晋三首相が総選挙の争点としてインフレ目標を掲げて戦い、圧勝することによって、レジーム・チェンジが実現されようとしている。

 レジーム・チェンジはその方向が確実になると、役人、マスコミ、御用学者は素早く変わる。変わり身の早さの順番は役人(日銀官僚を含む)、マスコミ、御用学者だ。

 20日の日銀政策決定会合で、来年1月21、22日の会合でインフレ目標を検討すると予告したのは、変わるための準備期間の確保である。これから1カ月の変化に注目したい。そういえば、某新聞で安倍氏を執拗に攻撃する人が新年早々に退社するという話も伝わっている。

 ただし、すぐに変われない人もいる。特に転換期ではそれが目立つ。最近の新聞やテレビのニュース、ワイドショーでは、理解していなかったり、曲解と思えるような反応もある。

 その特徴は極端な話をすることだ。例えば「インフレ目標するとハイパーインフレになる」というものだ。ハイパーインフレとは経済学的には年率1万3000%以上を指す。ここまではないとしても、どのような定義でも年率30%以上のインフレのことだ。

 しかし、インフレ目標は2%だ。現状マイナス1%のインフレ率を2%にしようとすると、30%のインフレになるとは誰が考えてもおかしい。2%のインフレ目標は先進国で採用されているが、もちろんハイパーインフレになった国はない。

 「インフレ目標にすると日銀が無制限に国債を買うので財政規律が崩れる」というのもある。これは「無制限」の意味を曲解している。インフレ目標2%の達成まで無制限という意味(これは海外でよく使われる表現)なので、国債の購入量には自ずと限界がある。インフレ目標2%というのは財政規律にもなっているのだ。ちなみに、インフレ目標2%は先進国で採用されているが、財政規律が失われたという話は聞かない。

 「インフレ目標にすると際限のない通貨安戦争になる」というのもある。確かに通貨安は相手国にとって脅威になるので海外から「近隣窮乏化」と批判されることはある。

 しかし、通貨高による「自国窮乏化」よりはましだろう。しかも、最近の研究では、インフレ目標を設定すると通貨安にも限界があるので、各国ともインフレ目標の下で金融政策を運営すると自国にも世界経済にもプラスといわれている。

 実際にインフレ目標を設定している先進国で、際限のない通貨安戦争は起きていない。むしろインフレ目標なしで金融政策による通貨安政策を行った方が、際限がなくなるとして海外から強烈な批判を受けるだろう。

 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)