テレビ時代劇に「新しい酒」を
放送評論家・鈴木 嘉一
昨年末、TBSテレビの長寿時代劇「水戸黄門」が42年の歴史に幕を下ろした。今年の1〜3月はテレビ東京が青山
そんな中、TBSの新番組「大奥〜誕生」が10月12日から始まった。「金曜ドラマ」の枠では初めての時代劇となる。TBS宣伝部は「『水戸黄門』の終了とは全く関係ない。その前から動いていた続編プロジェクトですから」と説明する。
原作は、よしながふみが今も少女漫画誌に連載中の「大奥」。単行本は8巻まで刊行され、累計部数は300万部を突破している。男子だけがかかる
TBSなどがこの漫画を二宮和也主演で映画化した「大奥」は2010年に公開され、興行収入23億円のヒットを飛ばした。徳川幕府の八代将軍・吉宗の時代を舞台にして、柴咲コウが吉宗を演じた。続編に当たる今回の連続ドラマは三代将軍・家光の治世にさかのぼり、大奥で男女が逆転したいきさつを明らかにする。
拡大版の初回は、僧侶となった公家の
しかし、連続ドラマと連動して、放送終了後の12月22日から公開される映画「大奥〜永遠〜」になると、大奥総取締の
時代劇ファンというより、原作漫画の読者層と重なる若い世代や女性層に向けて企画されたのは明白だろう。テレビ時代劇が存亡の危機に立たされている今、小説であれ漫画であれ、良質の原作をドラマ化し、時代劇の視聴者層を広げる試みは歓迎できる。
というのは、同じTBSで2009年10〜12月に放送された大ヒット作「JIN―仁―」も、村上もとかの人気漫画をドラマ化した時代劇だったからだ。大沢たかおが演じる現代の脳外科医が幕末にタイムスリップする物語は、放送文化基金賞など国内外で多くの賞をさらい、韓国やタイ、香港、台湾などの地上波テレビやケーブルテレビでも流された。昨年4〜6月には、その完結編としてパート2が放送された。
「JIN」の成功は、現代にも通じる企画や作り方によっては時代劇に縁遠い若者だけではなく、海外の視聴者も引きつけることを実証した。今回の「大奥〜誕生」も、台湾の大手ケーブルテレビの日本語チャンネルが1日遅れで放送している。
そういえば、フジテレビはこの年末、直木賞作家・佐藤賢一原作のドラマスペシャル「女信長」を2夜連続で放送する。これも「織田信長は女だった」という大胆な仮説による男女逆転の歴史絵巻で、天海祐希が信長にふんする。西田敏行、佐藤浩市、内野聖陽、伊勢谷友介、玉山鉄二、小雪、長澤まさみらの共演陣もなかなか魅力的だ。
時代劇の退潮は、民放で若者向けのドラマやバラエティー番組が増えた1990年代後半から加速した。各局は次々に撤退し、時代劇を看板にしてきたテレビ朝日までが見切りをつけた。その理由としては、広告主の多くが若い世代をターゲットとし、中高年男性に偏りがちな時代劇を敬遠してきた事情が大きい。単純明快な勧善懲悪型時代劇のマンネリ化、新しい時代劇スターや若い作り手がなかなか育たない傾向も挙げられる。2010年には、「木枯し紋次郎」など上質の時代劇を作ってきた京都の制作会社「映像京都」が解散し、関係者に衝撃を与えた。
時代劇のレギュラー番組は現在、NHKの2枠だけだ。その一つは昨春、BSプレミアムに移動したため、地上波テレビの連続時代劇枠は大河ドラマだけになった。そのBSプレミアムでは10月12日から、忍者のヒーロー猿飛佐助の孫を伊藤淳史が演じる新番組「猿飛三世」がスタートした。山本耕史が主演した前作の「
時代劇を作るには、大道具や小道具から衣装、かつら、殺陣まで専門性の高い職人的なスタッフが欠かせない。「大奥」のテレビ版も映画版も、時代劇作りの伝統を守り続ける東映京都撮影所で作られている。撮影現場では、日常的に仕事が入らないとスタッフは散り散りになり、後継者の育成もおぼつかない。
テレビ時代劇の衰退は、映画も含め日本の伝統的な映像文化の危機的状況を意味する。テレビの歴史を彩ってきた時代劇がこのまま絶えてしまっていいのだろうか。時代劇という「古い皮袋」に「新しい酒」を盛るチャレンジングな企画を期待したい。
(「TVウオッチング」は隔週火曜日にアップします)
筆者プロフィル | |
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鈴木 嘉一 (すずき・よしかず)
1952年千葉県生まれ。放送評論家・ジャーナリスト。埼玉大教養学部非常勤講師(メディア論)。元読売新聞東京本社編集委員。文化庁芸術祭賞審査委員や放送文化基金賞専門委員、日本民間放送連盟賞審査員も務める。日本記者クラブ会員。放送批評懇談会理事。著書は『大河ドラマの50年』(中央公論新社)、『桜守三代 佐野藤右衛門口伝』(平凡社新書)など。
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