47NEWS >  エンタメ >  エンタメスポーツ >  優勝が遠い「赤ヘル軍団」 孤軍奮闘する老舗地方球団広島
優勝が遠い「赤ヘル軍団」 孤軍奮闘する老舗地方球団広島

2012年04月17日

ミスター赤ヘル、山本浩二外野手
ミスター赤ヘル、山本浩二外野手

プロ野球巨人の新人選手に対する破格の契約金が波紋を広げたが、「申し合わせを守っているのは広島ぐらい」の一部の声に、複雑な気持ちになった。「当たらずとも遠からず」とでも言ったらいいのか、ぎりぎりのところで球団経営を続けている広島には、巨人のように7億円や10億円といった契約金を払える財力はないからだ。

もちろん巨人の金満ぶりは突出していて、広島に限らず多くの球団は指をくわえて見ているしかない。2008年以降は新人の契約金上限が設けられたが、こうした不公平な体質を持ち続けているのが日本のプロ野球で、すべては「球団の経営努力」で片付けられている。ドラフト制度が効果を発揮しているのは確かだが、一方であの手この手でこの制度をねじ曲げてきた事実もあるわけで、球団間の格差はある。弱小球団は「優勝争いができないから観客が増えず、有力選手を補強できないから勝てない」といった、負のスパイラルに陥ることになる。こうしたことはプロ野球全体から見れば、大きく価値を損ねる由々しき事態だと認識すべきだろう。

▽14年連続Bクラス

セ、パ両リーグで優勝から一番遠ざかっているのが広島である。リーグ優勝6度、日本一3度と、かつては常勝を誇った「赤ヘル軍団」も、1991年を最後に優勝はなく、98年から昨季まで14年連続してBクラス(4位以下)の成績である。阪神の大阪と同じように熱狂的なファンが多い土地柄だけに、勝てないとファンの足は遠のくことになる。

広島球団の歴史はそのまま経営危機との戦いといえる。球団創設2年目の1951年には他球団との合併話があり、この危機を救ったのが、球場前におかれた酒樽による市民の「樽募金」だった。以来「市民球団」のイメージが定着したが、実態は自動車のマツダの創業者である松田家による個人経営が主として今日まで続いている。

▽FA宣言選手の流失

ただ、苦しい台所事情は知恵と工夫を生む。ドミニカ共和国に野球学校「カープアカデミー」をつくり、日米球界に選手を供給したこともあった。また、野球どころの広島出身者を軸にする一方、スカウトの手腕による選手発掘などもある。山本一義、山本浩二、衣笠祥雄、外木場義郎、安仁屋宗八、達川光男、北別府学、津田恒実といった個性的な選手を生み出してきた。

半面、フリーエージェント(FA)宣言した選手は基本的に引き留めない方針であるため、金本智憲と新井貴浩の両選手が阪神入りし、黒田博樹投手(今季はヤンキース)は大リーグへ去るなど、主軸が次々と抜けていった。

Aクラス(3位以内)を目指す今季は、昨年の福井優也(早大)に続いて野村祐輔(広島・広陵―明大)と即戦力投手を獲得。エース前田健太にクローザーのサファテら投手陣はまずまずだ。今季は巨人に3連勝するなど出足は悪くない。昨季も前半戦は上位に位置していたが、終盤に息切れしたのはやはり戦力不足だったからだ。もし金本や新井がいたら、と思うファンは多いに違いない。チームの軸となる選手がいないのは、ペナント争いの勝負どころでは苦しい。

▽地域の役割担う球団

2009年から新本拠地となったマツダスタジアムは米国のボールパークをモデルにした野球専用球場である。平和記念公園・原爆ドームの前にある旧広島市民球場は、原爆の廃虚からの復興のシンボルとしてつくられた球団の本拠地として半世紀にわたってその役割を果たした。昔は球場近くの本川沿いにバラックがひしめき、球場のある紙屋町は夜になるとほとんど人通りがなかった。そこに球場のナイターのまぶしい光があふれ、繁華街へと変ぼうしていった。単なる1球団、1球場の話ではなかった。現在のマツダスタジアムはJR広島駅から歩いて15~20分ぐらいの所にあるが、土地を提供した広島市の狙いの一つは駅前再開発かもしれない。地域での役割を担っているといえる。

▽市民球団として再出発しては

スポーツの多様化でプロ野球人気もかつてのようなものではないが、日本ハムの札幌、楽天の仙台という新フランチャイズが成功を収め、ソフトバンクの福岡を含めた地方球団は一つの方向性を示している。ただ、孤軍奮闘してきた老舗地方球団の広島もそうだが、やはり優勝争いをするチームであり、人気選手を持つ球団でないと、安定した球団経営は望めない。

広島は個人経営から脱却し、真の市民球団として再出発してはどうだろうか。現在の松田元(はじめ)オーナーの父、故松田耕平オーナー時代にそう助言したのが広島で監督を務めた故根本陸夫氏だった。

親会社の宣伝媒体でない独立採算が可能な球団経営を他球団に呼び掛け、目指したらどうだろうか。12球団は運命共同体であり、根底でプロ野球人気を支えるのは均衡した戦力で戦う拮抗したペナントレースであると主張してもらいたい。難しいことだが、それを言えるのは苦労してきた広島だと思っている。

田坂貢二[たさか・こうじ]のプロフィル

1945年広島県生まれ。共同通信では東京、大阪を中心に長年プロ野球を取材。編集委員、広島支局長を務める。現在は大学野球を取材。ノンフィクション「球界地図を変えた男 根本陸男」(共著)等を執筆。