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リビア:カダフィ大佐 故郷のシルトで最後を迎える

リビア北中部シルトを制圧し、喜び合う反カダフィ派の兵士たち=2011年10月20日、ロイター
リビア北中部シルトを制圧し、喜び合う反カダフィ派の兵士たち=2011年10月20日、ロイター

 【エルサレム花岡洋二、サヌア和田浩明】首都トリポリ脱出を8月24日に宣言してから約2カ月、リビアの最高指導者だったカダフィ大佐が20日、死亡した。「アフリカの王の中の王」と呼ばれた独裁者は生まれ故郷のシルトで最後を迎えた。今後、反カダフィ派で構成する「国民評議会(NTC)」は民主化移行を加速させる方針だが、これまで「反カダフィ」で結束してきた評議会内部での主導権争いも激化、その船出は容易ではない。

 現地からの報道を総合すると、反カダフィ派のシルト攻撃は午前8時ごろに始まり、最後の攻防は約90分間続いた。北大西洋条約機構(NATO)の軍機は、シルト付近を走行中のカダフィ派の軍用車を空襲。車両100台がシルトから離れようとし、カダフィ大佐はその中の1台にいたとの情報もある。

 カダフィ大佐は排水溝トンネルに潜んでいたところを反カダフィ派の戦闘員が発見、拘束した。その後、銃殺されたとみられる。

 中東の衛星テレビのアルジャジーラは、カダフィ大佐が拘束された際に現場にいたという反カダフィ派の戦闘員の話を伝えた。大佐は「何をする」と話したという。またシリアのメディアも、大佐が「撃つな、撃つな」と懇願した後、降伏したという戦闘員の話を報じた。

 カダフィ大佐とみられる男が地面で複数の男に蹴られている様子を撮影した携帯電話の動画も出回っている。画像では、大佐は耳や鼻、口から血を流し、カーキ色の衣服は引きちぎられていた。また黄金の銃を持っていたり、上半身裸の状態で道路を引き回されたとの情報もある。

 また国民評議会の情報筋は、カダフィ大佐の遺体が非公開の場所に搬送されたと明かした。支持派が遺体を奪還する試みを防ぎ、遺体の安置場所が「聖地」とされることを避ける狙いとみられる。

 一方、「カダフィ大佐拘束」の情報が流れると、シルトやトリポリでは、反カダフィ派兵士が「神は偉大なり」と連呼したり、車のホーンも響き渡り、祝賀ムード一色となった。電柱によじ登ってリビアの新国旗を掲げる人もいた。

 「リビアは真に自由だ」。カダフィ大佐拘束・死亡の報を受け、トリポリ在住のジャーナリスト、モファタ・ベンイードさんは毎日新聞の電話取材に喜びを語った。背後では「祝砲」の自動小銃の発射音が響いた。

 ◇国民評議会、国家運営への課題は多く

 カダフィ大佐の死亡により、反体制派で作る国民評議会は名実ともに新生リビアの代表として国作りに取り組む環境を得た。だが、根深い内部対立や権力闘争に加え、過去に経験のない民主政治の確立や国家運営への課題は多く、国家再建に向けた道のりは険しいと言わざるをえない。当面は、国際社会の支援継続が不可欠な状況が続きそうだ。

 反カダフィ派はシルト陥落を受け「国土解放」を宣言、民主体制に向けた移行政府の樹立準備を本格化させ、制憲議会選挙などを行う計画だ。しかし、カダフィ時代は憲法も議会も存在しなかった。選挙で選ばれた国民の代表が話し合いや交渉、妥協を重ねながら政治運営を担う民主制が早急に確立できるかは疑問だ。

 反カダフィ派内部も一枚岩ではない。7月にはカダフィ政権から離反していた反体制派の軍事最高司令官が射殺され、翌月、評議会のアブドルジャリル議長は内閣に当たる幹部らを更迭するなど対立が続いた。

 評議会は9月中にも暫定政府を発足させる意向を示していたが、内部で新政権の人事を巡る対立が激化。閣僚ポストが決まらず、それぞれの部族の武装解除も遅れた。

 特にジブリル暫定首相ら欧米受けのよい「テクノクラート」と、戦闘を主導した「トリポリ旅団」のアブドルハキム・ベルハジ司令官らイスラム保守派の対立は深刻で、新政権発足に大きな影を落としている。

 また、国民評議会が数十にも及ぶ民兵組織を取りまとめられるかも疑問だ。部族間対立の懸念もある。

 戦闘中、反カダフィ派兵士がカダフィ派兵士やアフリカ移民らに対し虐待などの非人道的行為を繰り返した疑いも浮上。国際人権団体が徹底調査を求めている。

 こうした中、クリントン米国務長官は18日にトリポリを電撃訪問、反カダフィ派への医療・教育支援を発表するなど、影響力確保に乗り出した。

 アラブ政治に詳しいカイロ・アメリカン大学のエズ・チョウクリ教授は「リビアが新時代に入ったのは確かだが、政党も政治経験もない状態で、当面は混乱が続くのではないか」と見ている。

毎日新聞 2011年10月21日 0時51分(最終更新 10月21日 1時41分)

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