宇宙放射線Post to TwitterFacebook Share

宇宙放射線とは

宇宙放射線とは、地球外の宇宙空間を飛び交う高エネルギーの粒子の流れを指します。1912年にオーストリアの物理学者ヴィクトール・フランツ・ヘスの気球による観測で発見されました。

大きく分けると、太陽系外から超新星爆発などによって加速されて飛んできた「銀河宇宙線」と、太陽風太陽フレア粒子などの「太陽宇宙線」があります。また、これらの宇宙線が地球大気にぶつかって発生するミュー粒子などを「二次宇宙線」とよびます。

宇宙線がもたらす支障

宇宙線は、人体や機器に大きな支障をもたらします。こうしたトラブルには、人工衛星などに搭載されている半導体の集積回路に宇宙線の荷電粒子が1つ飛び込んだだけで動作エラーとなる「シングルイベント現象」や、放射線の累積により機器の恒久的な損傷をもたらす「トータルドーズ効果」などがあります。人体への影響は累積効果です。例えば、宇宙に長期滞在する宇宙飛行士には生涯で累積可能な数値目標が定められています。また、太陽紫外線が地球大気の酸素を分解することで生成される「原子状酸素」は、高度500km以下の低高度帯で多く見られ、宇宙機の表面を劣化させることが分かっています。通常人工衛星に使用されるサーマルブランケットは原子状酸素でボロボロに劣化させられます。従って、高度約350km前後を飛行する国際宇宙ステーションでは、ガラス繊維を織ったものにアルミを蒸着した通称「ベータクロス」という白色の素材を表面の断熱ブランケットとして使用しています。太陽宇宙線によるこういった宇宙機への悪影響の頻度は、11年周期で起こる太陽活動の強弱に左右されます。

宇宙線を遮る地球の磁場

宇宙放射線の粒子が地球の磁場に捉えられてたまっている一帯を「ヴァン・アレン帯」といいます。アメリカ初の人工衛星エクスプローラやパイオニアなどによって発見・観測されました。

ヴァン・アレン帯は2層の領域にわかれます。赤道上空で、1,000~5,000kmにある低い領域(内帯)は、太陽風や上層大気と宇宙線によって生じた電子と陽子からなり、15,000~25,000kmの高い領域(外帯)は、おもに太陽風起源の電子がとらえられています。これらの粒子は地球磁場に沿って南半球と北半球を行き来しています。また、内帯が高度約250km付近まで下がり、放射線が局地的に強くなっているブラジル沖上空の領域を「南大西洋異常域(SAA)」といいます。

銀河宇宙線は太陽宇宙線によっても遮られます。銀河宇宙線を多く浴びた樹木は炭素の放射線同位体である「炭素14」が多く含まれるので、年輪に含まれる「炭素14」の量から、その時代の銀河宇宙線の量、さらにどれだけ太陽が活発だったかを知る手がかりが得られます。

人体への影響

宇宙線は人体の細胞を破壊する非常に有害なものです。宇宙船の船壁や遮へい材によって、ある程度は遮ることができますが、宇宙滞在中の宇宙飛行士は、宇宙放射線による被曝をすべて避けることはできません。

わたしたちが地上で日常生活を送る中での被曝線量は、1年間で約2.4ミリシーベルトと言われています。一方、ISS滞在中の宇宙飛行士の被曝線量は1日当たり1ミリシーベルト程度のレベルで、ISS滞在中の1日当たりの放射線量は、地上での約半年分に相当することになります。

宇宙飛行士の被曝線量は常時監視され、可能なかぎり低く抑えるよう管理されています。また、太陽の活動状態を監視し、太陽フレアが起こった時などには、宇宙船内の船壁の厚い場所に待避するなどの処置を取ります。

2010年5月から、平均的な成人男性を模した人体模型を「きぼう」船内に長期間設置して臓器の被曝量を実測し、人体内の宇宙放射線被曝影響を正確に評価する実験が行われています。計測されたデータは、宇宙飛行士の長期滞在における宇宙放射線のリスク評価を行うために役立てられます。