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【放送芸能】

動画サイトからお出まし「ピアニート公爵」

2011年5月9日 朝刊

 動画サイトから、またユニークなアーティストが誕生した。卓越した演奏技術を持つクラシックピアニスト「ピアニート公爵」。「ニコニコ動画」で話題になり、先月、デビューCD「Singularity−シンギュラリティ(特異点)−」をリリースした。有名芸大卒の自称ニートと、経歴もユニークな公爵に“拝謁(はいえつ)”した。 (宮崎美紀子)

 公爵がニコニコ動画(ニコ動)にデビューしたのは二〇〇七年十二月。ゲーム「アイドルマスター」(通称アイマス)の中の曲「蒼い鳥」を、「ロマン派のリストみたいな感覚」(公爵)で編曲して演奏してみた。

 投稿後、自分がニートだと告白したところ、演奏の素晴らしさと経歴のギャップから「高等遊民だ」と盛り上がり、ピアノとニートを合体させた「ピアニート伯爵」という名が付き、再生数が上がるたびに呼称も侯爵→公爵とランクアップ。一時は大公まで行き、結局、「公爵」で統一されたが、このネーミングセンスに「すごいですね。驚きました」と素直に喜んでいる。

 数少ない公開情報によると、筑波大学付属駒場中・高校を経て、東京芸大に進学、同大学院を修了。卒業後は「個人で教えたり、コンクールの伴奏や文筆の仕事をさせてもらっていますが、生活できるレベルではないのでニートというのは、あまり冗談じゃないんです」とのこと。

 素人から見るとクラシックの王道を歩む人が、なぜニコ動に投稿したのか。

 「『アイドルマスター』の動画が盛り上がっているのを見てて、楽しそうだなあ、僕にもできることがあれば輪に加わりたいなあと思ったんです。アイマスというだけで見に来てもらえる時代だったので、一万人くらい見てくれればと思ったんですが…」

 ところが一日で再生数は四万を超え、その後七十万を突破した。一方で、アイマスファンに喜んでもらおうと作ったのに、原曲を知らない人に感動してもらったり、「ピアノをまた弾きたくなった」と言われたりと、真面目に「音楽」として受け止められたことは、予想外のうれしい出来事だったという。

 〇八年に投稿した「ショパンのソナタ第3番フィナーレと『巨人の星』主題歌による交響的融合」は、「ショパンの音楽で巨人の星が歌えるのでは」という冗談音楽。東大の学生(当時)が作り、ネット上で有名だった曲に、少し変更を加えて発表した。バカバカしいことでも真剣にやれば感動を生む。公爵はそこに芸術の本質を見る。

 「芸術なんて、みんな真面目に議論しているけど、やってることはニコ動とそう変わらない。そんなことに熱入れてどうするの、というのが面白い。新しいものを切り開くのは一人の人間の思い込みと思い入れ。ニコ動には思い込みと思い入れがあふれてるんですよね」

 CDには「ショパンの〜」をはじめ、ニコ動に発表した曲やアニメ曲、オリジナル曲を収録。最後にはベートーベンを入れた。クラシック畑の人にも「胸を張れるものになった」との自負はある。ゲーム、アニメ曲でも、ポピュラーピアノ的な弾き方はしていないという。長く触れてきたクラシックの深さ、魅力への畏敬の念がそこにはある。

 ニコ動と、そこでの出会いを、彼は「この時代の奇跡」と呼ぶ。同時に「音楽があるべき姿に戻った」とも感じている。

 誰かが作ったものを、別の誰かが見つけて応援する。引用、今でいう“二次創作”を楽しむ人もいる。大劇場でしか演奏できないオペラでも、誰でも弾けるように編曲して、楽譜が出回る。

 「狭い世界でやっていた昔の西洋のクラシックでは、そういうことが、よく行われていたと思うんです。誰でも発信できるようになったことで、今また自由な活動が、昔より広い世界でやれるようになってきた」

 

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