[PR]
ニュース:地方 RSS feed
【名作の舞台・吉見百穴】ヒーロー撮影の名所は戦争の傷跡
吉見町にある「吉見百穴(ひゃくあな)」。がけを200カ所以上も窓のようにくり抜いてつくった古墳時代末期(6世紀末〜7世紀末)の墓で、国の史跡に指定されている景勝地だが、特撮ヒーロー番組のロケの名所でもある。
ロケに使われるのは史跡部分ではなく、第2次世界大戦末期にこの墓を壊して掘られた軍需工場跡の洞窟(どうくつ)=写真。吉見町教育委員会の弓明義さん(44)は「洞窟はある意味で戦争の傷跡だ」と話している。
洞窟はがけをくり抜くように約8本掘られており、最大のもので高さ約3メートル、幅約4メートル、奥行き約95メートル。各洞窟を結ぶ横穴もあり、碁盤の目のような形状になっている。
薄暗い洞窟の中はひんやりとした空気が流れており、悪の秘密組織のアジトの雰囲気は十分。古くは昭和40年代の「仮面ライダー」から、最近では平成21年2月まで放送されていた「炎神戦隊ゴーオンジャー」まで、多くのヒーローがここで悪と戦ってきた。
この洞窟が掘られたのは昭和20年初頭から。飛行機製造の「中島飛行機」のエンジン工場をつくるためだった。物資不足のなかツルハシとダイナマイトを使って掘り進め、半年ほどで完成したが、ほとんど使われることなく終戦を迎えた。
掘りやすく崩れにくい地盤や交通の便が良いことなどからこのがけが選ばれたとみられる。史跡であることは顧みられなかったようで、洞窟掘削のための残土で埋まってしまった墓もあるという。
弓さんは、「戦争で文化財が二の次になってしまった」と説明し、「戦争を知らない世代に見てもらい、史跡が壊される背景、戦争の傷跡の深さを理解してもらいたい」と話している。(高橋裕子)