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えっ「長野県」糸魚川市!?

2010年02月12日

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日本海に面する糸魚川市街地。5年後にはJR糸魚川駅に新幹線が乗り入れる=糸魚川市役所から

■ハードル高いがくすぶる移籍論

 新潟県のしっぽでいるより、海を土産に長野県に「婿入り」した方が大切にされるはず――。糸魚川市の一部市議や経営者などの間では、長野県への移籍論がくすぶっている。ハードルは高く具体的な動きにまではなっていないものの、市の置かれた状況や北陸新幹線開業などの将来を見据えると、そんな構想が話題になるのも無理はない。
(遠藤雄二)

   ◇

 「道州制が動き出したとき、糸魚川は新潟県としてついていかなくちゃいけないもんでしょうか。長野県と合併することで、姫川港や高規格道路(糸魚川―長野県松本市)の整備が促進されるのではありませんか」

 2008年6月、糸魚川市議会の一般質問で古畑浩一市議は、長野県に移るという思い切った案を米田徹市長にぶつけた。南側の県境で接し、生活や経済面で関係が深い長野県小谷(おたり)村と合併した上で、長野県に「婿入り」するという構想だ。

 小谷村は北アルプスのふもとにあり、スキー場や温泉のある観光の村。さらにそのお隣は長野五輪の会場になった白馬村だ。古くは上杉謙信が敵に塩を贈ったとされる「塩の道」で、今は国道148号とJR大糸線で結ばれている。

 古畑市議の一般質問の内容を市議会のホームページで見た小谷村議会の北村利幸議長が早速反応した。

 「よく言ってくれた。感激した」。同年秋、糸魚川市で開かれた両市村の議員交流会で、顔を合わせた古畑市議に声をかけたという。

 北村議長は、取材に対し「糸魚川は世界ジオパークになった。一つになれば、海から北アルプスにつながる一大観光地ができる。村は当面合併せず自立でいく方針だが、(長野に)来てもらえるならありがたい」と語った。

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■遠い新潟 県庁にも不満

 長野に移る構想について米田市長は「あり得ない」と明確に否定する。「自主自立を模索しており、長野に行けばよくしてくれるなどと、依存するべきではない」と言い切る。

 古畑市議の一般質問後、小谷村との合併や長野入りに表だった動きはない。だが、一部の市民が今もその思いを募らせるのには理由がある。

 地理的条件と衰退への危機感、そして県庁への不満だ。

 県庁のある新潟市まで約170キロ。陳情に行くのも車で走って一日がかりだ。

 上越地域(上越、糸魚川、妙高)の中心都市として県や国の施設が集まる上越市に対し、糸魚川市には県の医療、福祉施設がない。存在感が薄れ、自立した生活圏とはいえなくなるのではないか、といった危機感も強まっている。

 人口減少も顕著だ。昭和30年代まで7万人超の人口(旧能生、青海町含む)は現在約4万9千人。毎年500人前後減り続けている。

 5年後には北陸新幹線が金沢まで開業し、現在の糸魚川駅に新幹線が乗り入れる。県は上越駅(仮称)への全列車停車を求めているが、糸魚川駅には「可能な限り多く」にとどまり、停車本数の見通しも立たない。

 「県は元々、蒲原(新潟平野)偏重。上越地方では、上越市の拠点性を高めればいいという考えに見える」。古畑市議は不満を口にする。

   ◇

■海が「土産」■市民は両論

 「糸魚川が長野になれば長野に海ができ、大事にされる。松本と結ぶ高規格道路の整備も進むだろう」

 糸魚川で広告会社を経営する歌川多喜司さんは期待する。

 長い海岸や複数の港を持つ新潟より、長野の方が糸魚川を高く買ってくれるというわけだ。

 精密や電気など内陸型産業が多い長野に対し、糸魚川は化学やセメントなどが盛んだ。姫川港の09年の貨物取扱量は410万トンで上越市の直江津港を上回る。糸魚川商工会議所によると、長野県の松本市や諏訪市の企業からは「一番近い姫川港にコンテナヤードを整備してほしい」といった要望が寄せられているという。

 ただ長野側は、海や港を自ら持とうとまでは思っていないようだ。

 大糸線沿線の長野県大町市の元市長で、道路整備や防災事業などで糸魚川市と連携した経験を持つ腰原愛正・長野県副知事は「(糸魚川の長野編入は)興味深い構想だが、考えたことがない」とつれない。「つながりは深く、高規格道路の整備などを着実に進めていく」と、関係はこれまで同様との認識を示した。

 市民にも両論ある。市内の飲食店に勤める40代の女性は「新潟に愛着があるし、長野の人にはなりたくない」。その店の主人は「おれは面白いと思うね」。県の西端のまちでは、県との関係や道州制をめぐる議論が続く。

   ◇

■他県に移る二つの方法
〈他県の自治体と合併 法律制定し県境変更〉

 総務省によると、自治体が他県に移るには、他県の自治体と合併するのと、法律を制定して県境を変更する二つの方法がある。

 合併には「編入合併」と、新しい自治体をつくる「新設合併」がある。平成の合併で県をまたいだのは05年に岐阜県中津川市に編入した長野県山口村(当時)の一例だけ。制度上は人口の多い方が編入先とは限らず、糸魚川市が小谷村に入ることは可能。ただ糸魚川市の関係者が想定するのは、小谷村と合併した上で新しい糸魚川市として長野県になる形。その場合は両市村と両県議会の議決を経て総務大臣が決定する。

 合併を伴わず県境を変更して他県に移るには、そのための法律制定が必要。政府や国会議員が国会に法案を提出し、可決されなければならない。住民や自治体の意思では決められず、過去に例はないという。

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