編集をがらっと変えたいと思っていて、オールラッシュをMAの前に持って来ちゃえば、音楽は入ってないですけれど、画はこれで納品しますよと言うものができちゃう。

『相棒』テレビ朝日:
進化し続ける『相棒』
連続ドラマ初の完全ファイルベース化

Final Cutになって本編集の時間が半分になった

撮影監督という立場から、会田さんはオンラインの編集所に行かなくても、オフラインの段階で、Final Cut StudioのColorでカラコレができるようになった事を高く評価している。

「ドラマってカラコレの時間がないけれど、でもこのシーンはちょっとカラコレしたいなと言うことがあるんですよ。VTRだと再生機がないとカラコレできないんですけれど、ファイルだといろいろとできるから、撮影部がカラコレの指示をできたらすごい合理的だなぁとずっと思っていて。Avidでも試してみたんですけれど、ノートではさすがにきつかったですね。編集所が入れているような何億もかけたシステムとは、そもそも入ってるソフトが違う。でもFinal Cutだったら、オフラインでも本編でも同じソフトが動いているので、一貫して作業ができる」(会田氏)

撮影部としては、これまで色の指示を出したくても、口頭で説明するのには限界があるし、そもそもスケジュールの余裕がないからカラコレの指示を出せなかったという。だが今回、オンラインとオフラインで同じ素材を同じソフトで取り扱えることで、カラコレの指示を具体的に行うことができるようになり、映画のように撮影監督の意図を作品に忠実に反映させることができるようになった。全点を動画でやらなくても、必要なところだけをスクリーンショットで取り出し、メールで指示を送るということもできるので、大変効率的だという。

「カラコレをFinal Cutでやっちゃったっていう衝撃は相当なものだと思いますよ。いまや日本中の企業がコストダウンを迫られていますが、Final Cutを使うことで、単にソフトの値段がコストダウンになるだけじゃなくて、カラコレ分のオンライン編集室代を削減できる。只野さんの編集作業が完了したら、カラリストがここにきてカラコレすれば、あとはそのままの映像で後の作業をやれるわけで、極論、編集室に入らなくてもいいとも言えちゃうわけですよね。今、文字入れもオフラインでやっているから、あとは編集室に行って、CM分の尺を整えたりチェックするだけになってる。実際、Final Cut Studioになって本編集の時間が半分になりましたね」(会田氏)

「カラコレはあまりテレビではやっていないようですが、すてきな映像になって、なおかつそれが予算とスケジュールの範囲内でできるならば何でもやって下さいと。今、局にもコストダウンが押し寄せていますが、コストは下げても、クオリティは落とせない。お客さんは時代が進むにつれ良くなっていくのがあたりまえと思って見ているものなので、それが悪くなったら、みんな離れて行ってしまいますよね」(松本氏)

オフラインでカラコレができるようになると言うことは、スポンサーに向けたオールラッシュの段階で、ほぼ完成品の映像を見せることができるということでもある。

「それは皆さんそれぞれ意見があるので、どうなるかはわからないけれど、編集のシステムをがらっと変えたいと思っていて。オールラッシュがあって、それが終わった後にポスプロに入って本編集をしてMAに回すことになっているんですけど、オールラッシュをMAの前に持って来ちゃえば、お客さんは完成品を見られるわけですよね。音楽は入ってないですけれど、画はこれで納品しますよと言うものができちゃう。直しがあっても、ノンリニアだとテープと違って頭からやらなくても、そこの部分だけぽっとやればいいわけですから、たいした問題じゃない。こうするほうが効率が良いわけですよ。みんなが時間をフルに使える」(只野氏)

それはまさにオフラインとオンラインの垣根を取り払うと言うことに等しいだろう。会田氏が言う通り、『相棒』のワークフローはこれまでの業界の編集フローを更新する可能性を秘めたインパクトがある。

場所を移動しなくても撮影所の中で納品物が完成してしまう

そしていまや、このプロジェクトは単なる一番組のワークフローという枠組みを超えて、東映全体に対しても大きな意義を持つプロジェクトとなろうとしている。東映は来年完成予定のデジタルセンターという撮影所とポストプロダクションを融合した施設を準備中だが、一足早く実現した完全ファイルベース環境は、来るべきテープレス時代のシミュレーションとして、デジタルセンターの方向性にも影響を与えることだろう。

「デジタルセンターができたら、場所を移動しなくても、只野さんの作業が終わった後に、その席に行けば、次のカラコレ作業ができる。その後、たとえば文字入れが必要だったら、プロデューサーが入って文字入れすれば、撮影所の中で完成しちゃうと思います。編集ってそれなりのオンライン編集室を押さえないと作業ができなくって、それがスケジュール的にもきつかったんですけれど、デジタルセンターでサーバによる一括運用が軌道に乗れば、同じ素材がサーバに入っているので、同時作業ということもできますし」(会田氏)

そして、チーム相棒は現状に安住することなく、さらなる進化を目指している。

「今回、AJAのKi PROが間に合えば、Ki PRO収録したもののアーカイブをProResにしようと思ってたんです。ProRes収録の元素材として納品してしまえば、ProResが成長してきたときに苦労がないし、非圧縮からProRes422 HQに変換したものは、見破れないんで。ぜひProRESにしたいんですが、それはまた次のステップで」(会田氏)

新しい「相棒」を得た制作スタッフたちが作り上げた映像はどれほどのものだろうか。待望の放送は、2009年10月14日(水)の20:00からスタートだ。