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ロボ・ステーション


俺の起業!ロボットベンチャー奮戦記
「プラスαの価値づくりに腐心しています」コストパフォーマンスの向上で清掃単価の下落に挑む−【フィグラ】

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川越 宣和開発技術部長

川越 宣和 Kawagoe Nobukazu

開発部 開発技術部長
1955年生まれ。1974年、東京大学 理科I類に入学。1976年、同大学 工学部 計数工学科計測工学コースへ進学。1978年、同大学卒業後、ミノルタカメラ(後にミノルタ、さらにコニカミノルタへと社名変更)に入社。計測機器事業部開発部にて分光センサ、分光蒸着モニタ、分光測色計などの開発に従事する。1991年より次世代ロボットの応用分野の探索、物体認識用ロボットビジョンの研究など、ロボット開発に携わるようになり、自律移動ロボット「ロボサニタン」の開発に至る。1998年に同社退社後、フィグラへ移籍し、清掃ロボット「フィグラ・アイ」の開発を立ち上げる。

2007年3月。フィグラは大阪市のユニバーサル・シティ・ウォークで多目的清掃ロボット「フィグラ・アイ」の実証実験*1を行った。

フィグラ・アイは、人と協調して清掃作業をすることを目指して開発したロボットである。サイズは757mm(幅)×664mm(奥行き)×508mm(高さ)、重量は約30kg。自律走行ユニットと作業ユニットから成り、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて、作業ユニットを変更できる。

*1:2007年3月19日〜20日にユニバーサル・シティ・ウォーク大阪にて、人込みでの障害物認識回避能力と移動する人への挨拶機能の実用性を検証した。屋外でフィグラ・アイを稼動した初めての実験。

また、超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃することができる。人と共存し、かつ隅々まで清掃できる点に、大きな特徴がある。

これに加え、つい優しく接したくなるようなつくり込みもなされている。
 清掃中のフィグラ・アイの前に人が立つと必ず停止し、『お掃除したいので、道をあけてもらえませんか?』と行儀よく話しかける。道を譲ってくれると『ありがとうございます!』と、丁寧にお礼を言って清掃を続ける。そんな姿に、実証実験では撫でていく人がいたほどだという。そうしたこともあり、開発技術部長の川越宣和さんは、フィグラ・アイを「健気なロボット」と表現する。

人と協調して清掃作業をすることを目指して開発した清掃ロボット「フィグラ・アイ」。自律走行ユニットと作業ユニットから成り、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて、作業ユニットを変更できる。 赤外線センサや超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。

人と協調して清掃作業をすることを目指して開発した清掃ロボット「フィグラ・アイ」。自律走行ユニットと作業ユニットから成り、ワックスの塗布やゴミの集塵など用途に合わせて、作業ユニットを変更できる。(左)

赤外線センサや超音波センサなど数種類のセンサを搭載し、これらで壁や障害物までの距離や方向を測定して、人や障害物を回避するとともに壁の凹凸や角度を認識する。周囲の環境情報に基づいて部屋の隅々まで移動し、左右にスライドする吸引ノズルを使って壁際までを清掃できる。(右)

同社が、フィグラ・アイの開発を開始したのは1998年からである。わずか10年足らずでこのレベルに到達したのかと思いきや、実は、川越さんがミノルタに在籍していたときから開発が始められている。そこで培った自律走行ロボット技術を継承、発展して開発したものなのである。

開発が中止になっても決して諦めない

フィグラは、1973年に化粧品および化粧品容器のOEM生産を軸に創業した。その後、化粧品ガラス容器の加工技術が大手ガラスメーカーに評価されたことをきっかけに、建築用ガラスの製造にも進出することになる。ガラスを素材としたエッチングガラスや合わせガラス、複層ガラスを応用した特殊建築ガラスなどを数多く開発した。

ところが、バブル経済の崩壊以降、建築用ガラスの需要が低下し、新たな事業への挑戦が求められるようになった。折しも、温室効果ガスなど地球環境問題が取り上げられるようになり、また、創業者で現社長の加藤升三郎氏の「社会のためになる仕事をしよう!」という強い思いもあって、環境テクノロジー事業部*2 を立ち上げることになった。やがて、川越さんを迎えてロボット事業に取り組むことになるのである。

*2:現在は、「Figla Technology」を略して、F.T.事業部という。省エネを実現する発熱ガラス入りサッシや、多機能ガラススクリーン、センサ機能内蔵防犯検知ガラスなど高付加価値多機能ガラスを開発している。

一方、川越さんは在籍していたミノルタで、1991年よりパーソナルロボットの実用化を目指して、自律移動技術の研究に取り組んでいた。同社が保有する光学技術や画像処理技術、センシング技術を生かせると判断したからである。そして、完成させたのが病院内での床消毒作業やワックス掛けを行う「ロボサニタン *3」だった。

*3:床消毒作業は、院内感染を防止するための無菌病室や手術室、新生児室などでなされる。作業員による菌の持ち込みを防止するために厳しい管理が求められ、作業の外注化が難しい。看護師や看護助手によって作業が行われている。こうした作業負荷の軽減を狙って開発した。しかしながら当時、無菌病室は日本に 150床しかなく、市場としては狭かった。そこで、ワックス掛け作業の機能を追加した。

1997年3月4日の新聞記事によると、その仕様は、サイズが321(幅)×320mm(奥行き)×170mm(高さ)、重さ9.7kgで、フィグラ・アイより2回りほど小さい。500mlの専用タンクに消毒液を入れて、病室内をベッドの下まで自律的に移動して消毒を行う。自律走行ユニットと作業ユニットから構成される構造や、消毒液を塗布する消毒用作業ユニットが左右にスライドする機構、超音波センサで壁を認識して壁倣い走行をする技術など、フィグラ・アイのベースとなる機能を有していた。

川越さんがミノルタ在籍時に開発した自律移動ロボット「ロボサニタン」。フィグラ・アイは、ロボサニタンの基本機能を継承して開発されている。

川越さんがミノルタ在籍時に開発した自律移動ロボット「ロボサニタン」。フィグラ・アイは、ロボサニタンの基本機能を継承して開発されている。


その頃には昨年、「今年のロボット大賞」を受賞した富士重工業など、すでに複数の企業が掃除ロボットを開発していたが、それが発表される機会はほとんどなかった。しかも、当時はロボットそのものの実現性を疑問視する声も多くあった。それゆえ、ロボサニタンの発表は反響が大きく、複数の清掃業者から問い合わせがあったという。

「発表以来、多くの引き合いや異業種の方たちとの巡り会いがあり、新たなアイデアが生まれるのを実感していました」
 そう川越さんは、期待が膨らみつつあったことを振り返る。

しかしながら、ロボサニタンは日の目を見ずに開発を終了してしまう。
 平成不況のあおりを受けて清掃単価が急速に低下し、よりいっそうのコストダウンの要請により事業化へのストーリーづくりは難航した。また、ミノルタ自身も本業である複写機やプリンターなどの視覚情報産業に集中することを決め、ロボット開発は中止となってしまった。

このような厳しい状況に押しつぶされそうになりながらも、川越さんは諦め切れなかった。
 「清掃業界からの反響もいいし、ワックス掛け機能を拡張する新しいアイデアもありました。たとえ自分一人でも開発を続けたいと思っていました」

そして、知人が加藤社長を紹介したことをきっかけにフィグラへと移籍し、引き続き、ロボット開発に取り組むことになる。

同社では、化粧品容器の組立装置などを内製しており、保有するメカトロ技術のとの親和性のよさも、ロボット開発に取り組む理由となっていた。

機械化を進めるほど清掃単価は下がってしまう

フィグラ・アイは、冒頭で紹介した実証実験に加え、2005年の「愛・地球博」や羽田空港、特別養護老人ホームなどでも導入実験を実施した。特別養護老人ホームでは約4カ月間という長期にわたって、清掃作業に従事した。

川越さんは、そのときのエピソードをこう話す。
 「老人ホームでは、年輩の作業者と清掃作業に当たっていました。フィグラ・アイがやって来るまでは、1人での作業がたいへんだったので、『仕事を辞めたいなあ〜』と、こぼしていたそうです。でも、『コイツが黙々と掃除するなら、俺もがんばるか!』と気持ちを切り替えて、明るく楽しく意欲をもってロボット操作を覚え作業をされました。そして、試験導入期間が終了しフィグラ・アイを引き上げたときは、とても寂しそうにされていました」

このように、好意的な印象があるものの、「事業化への道筋は容易ではありません」と、川越さん語る。
 最大の壁は、清掃単価の低下である。
 すでに清掃業界では数多くの清掃機械を導入してコストダウンを図っており、よりいっそう機械化を進めれば、さらに単価が下がってしまうというのである。この負のスパイラルから、いかに脱却するかが難問のようだ。

同じ清掃ロボットでは、富士重工業は費用対効果を最大化するフィールドとして、5000m2(例えば、廊下と共用部が1フロア250m2×20 階以上のビル)以上の床面積を導入対象に絞り込むという戦略を立てて臨んでいる。このような条件下であれば、ロボット導入前の人件費を、作業員6名、週5日、1日6時間、時給1,200円と仮定した場合、年間1,144.8万円、5年間で5,724万円となるのに対し、ロボットを3台導入し、その運用とメンテナンスなどにかかる5年間の費用は4,154万円となる。5年間で約27%の経費を削減できるという試算を示すことで、事業化に漕ぎ着けた。
 しかし、仕様の違いから、この計算式をそのまま使うわけにはいかないようだ。

そこで、同社なりにコストダウンを図る方法を模索している。
 1つは、用途に応じたラインナップの拡充である。これまでは、試作品としてすべての機能を搭載してきたが、清掃機能に案内機能を付加したタイプや、夜間に作業員と一緒にワックス掛けのみを行うような機能を絞り込んだ廉価版など、ニーズに応じたタイプを用意することも考えている。

川越 宣和開発技術部長

「機能などの“絞り込みの戦略”や『ロボット・アドバタイジング』など、コストパフォーマンスの向上を目指して策を練っています」と話す川越さん。清掃ロボットへの実用化に向けた情熱はミノルタ在籍時から変わらない。


もう1つは、ロボットラボラトリーが提案する「ロボット・アドバタイジング」である。これは、街空間をメディアとして捉え、屋外広告や交通広告など多くの方が行き来する場でロボット、もしくはセンサなどのRT(Robot Technology)を生かそうという取り組みである。これが実現すれば、広告収入によりコストパフォーマンスの向上が可能になる。

「ユニバーサル・シティ・ウォークの実証実験でも、多くの通行人の方がフィグラ・アイに歩み寄って来られました。ある程度の宣伝媒体としての価値をもたせることができるでしょうし、費用対効果を高めるためには、そうした取り組みも重要になるはずです」
 川越さんは、そう期待を寄せるとともに、プラスαの価値をもたせることの重要性を強調した。

川越さんが、ロボット開発に取り組み始めて、はや16年が経つ。一貫して、自律走行の清掃ロボットの開発に携わってきたが、今も変わらず清掃単価という壁に悩まされている。同社が、それをいかに乗り越えて事業化に漕ぎ着けるのか注目される。きっと、新たなロボットビジネスの成功モデルが提示されるはずだろうから。

(取材&テキスト作成:三月兎)

企業データ

フィグラ(株)

〒102-0075 東京都千代田区三番町6番地2
 TEL03-5226-1800/FAX03-5226-1806


掲載日:2007年10月09日

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