そして、2008年12月18日。『FF』20周年記念作品となるPSP®大作、『ディシディア ファイナルファンタジー』がいよいよ発売に。別タイトルで、プランニングディレクターとしてさらなるキャリアを積んだ荒川さんは、各パートのディレクターを束ね、ゲーム全体をまとめあげるシニアディレクターとして開発に関わることになった。
「これは、歴代の『FF』キャラクターたちが1対1で戦う3Dアクションゲーム。クリエイティブプロデューサー&キャラクターデザインの野村(哲也)からのリクエストはとてもシンプルで、とにかく面白くしろと(笑)。そのひと言だけでした。開発がスタートしたのは、『KHII』の途中くらいで、2005年の秋頃に企画が決まり、実際にプロジェクトが動き始めたのは、2006年1月。開発期間は実質約2年になりますね。
具体的なゲームシステムの構想のキッカケとなったのは、『KH』の1作目ですからずいぶん前のことです。開発の終わり頃に、『KH』のシステムを使って対戦ゲームが作れたら面白いんじゃないかという話を、野村を含めた僕らスタッフ数人がちょいちょいしていたんです。でも、“まだ、出すには時期が早いぞ。何かいいタイミングがあるはずだ”と、そこは話だけで終わっていました。そうするうちに、『FF』20周年のアニバーサリーが近づき、何か記念碑的な作品を作ろうというタイミングと、『KH』で育った若いスタッフに大きなチャンスを与えようというタイミングが重なり、『ディシディア』のプロジェクトが本格始動したんです」
そこで実現されたのが、調和の神「コスモス」と混沌の神「カオス」が世界の調和を統べる世界で、戦士として『FF』歴代タイトルからそれぞれの陣営のキャラクターが呼び出され、戦いを繰り広げるという世界観。
「お祭りソフトにありがちな、ただのパラレルストーリーにはしたくなかったんです。せっかくの記念作品ですから、『FF』というコンテンツの根本的な世界観をわかってもらえる設定で、20年間の蓄積を味わってもらえる作品にしたかった。そこで出てきたのが、カオスとコスモスの戦いが繰り広げられている世界でした。これなら、『FF』らしさも存分に感じてもらえますし、これまで敵味方として出てきたキャラクターたちが戦う理由も理解できる。『FF』ファンの方にも十分に納得してもらえる話が語れると思いました」
それぞれのタイトルが大ヒット作だけに、プレイヤーキャラクターの選定にも苦労が多かったのではないだろうか?
「そうですね。人気キャラがたくさんいるので迷いましたね。でも人気ばかりを優先して選んでしまうと、それぞれのストーリーについて語るときに破綻が出てくる。なので、まずは主人公とライバルをメインにして、例えばある人物のように、とても人気はあるけど物語を語るにはバックボーンが弱いキャラは、プレイヤーキャラクター以外の出番を用意するようにしました。プレイヤーキャラクターに関しては、まだ発表されてない人物もいますので、お楽しみに」
最近の作品でこそハイクオリティの3Dキャラクターが活躍しているが、昔のタイトルでは、これまで2Dキャラ、もしくはデフォルメされた絵柄でしかゲームに登場しなかったキャラクターも多い。当然、ビジュアル作りにも苦労が多かったことだろう。
「そうなんですよ。そのために、今回は野村がキャラクターをリファインしたんですが、必ず原作から何か、ポイントとなるものをキーアイテムとして盛り込むようにしています。野村は、『FF』のガーランドがいちばん苦労したと言ってましたね。ガーランドの鎧姿は天野(喜孝)さんの絵もないし、唯一資料となったのがファミコン版のドット絵。それに忠実にデザインを起こしたら、今の絵になったらしいです。だから昔の作品で原作にいちばん近いのは、ガーランドかも知れないですね。
ストーリー面でいちばん苦労したのは、『III』の“暗闇の雲”ですね。原作では台詞が二つしかないので、設定が深く掘り下げられていないんです。あと苦労したのは、『VI』のティナです。パワーアップすると召喚獣に姿を変えるんですが、原作どおり変身させると何も身に付けていないように見えてしまう。そこで多少逡巡があったのですが、野村が原作通りにしなければ意味がないと判断して、ソフトの対象年齢が少し上がることになりました」
ゲーム中に登場する必殺技の数々も、原作の雰囲気をそのまま再現。ファンにとっては大きな見どころだ。
「僕が注目してほしいのは、クラウド(『VII』)の究極リミット技〈超究武神覇斬〉。『VII』はコンピレーション作品もたくさん登場してて、ユーザーの方それぞれのクラウドのイメージがあると思うんですよ。でも、『ディシディア』の〈超究武神覇斬〉を見ていただければ、“『VII』本編のクラウドはこうだった!”と思い出していただけると思います。あとは『III』のオニオンナイトですね。ファミコン時代のコマンドウィンドウの操作を再現して、効果音もファミコン版の音をそのまま入れてますので、かなり原作にこだわっていますね」
ビジュアルのリファインと共に、これまで喋っていなかったキャラクターにボイスを導入したのも新たな試みだ。大物声優、人気声優の起用も目を惹くが、ナレーションをあの菅原文太さんが担当しているのにも驚かさせる。
「『IV』や『VII』シリーズのように、リメイクやコンピレーション作品で既に声の入っている作品はそのままのキャストで、新しい声に関しては、誰もが納得する実力派の個性あふれる方々にお願いしました。キャスティングに関しては、野村のアイデアですね。菅原文太さんのナレーションも、重厚な語り口が『FF』の世界観にもピッタリで、非常に雰囲気を盛り上げていただいてます。そういうところでも、懐かしさと意外性の両方を感じていただける配役になっていると思います。
音の話でいえば、BGMにも期待していただきたいですね。人気の名曲もアクションに合う新アレンジで登場しますし、やり込んでいただけば、原作ファンの方に喜んでいただけるお楽しみも各作品で用意しています」
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