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いい発想に上下関係はない。今が旬の発想を大切に、変化する時代に対応した作品を作りたい。荒川 健

専門学校から就職へ〜ゲーム会社を渡り歩いてアルバイト

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 ゲームクリエイターになるという目標をハッキリ持って上京した荒川さんは、世界初のゲームクリエイター養成専門学校として名を馳せたヒューマンクリエイティブスクール(現在は閉校)のお膝元、東京・吉祥寺で一人暮らしを始めた。

「学校の近くの安い木造アパートを借りて、近所のコンビニで深夜のアルバイトをしながら。ただ、なんせ一人で住むのが初めてなので、一切、家事の勝手がわからないんですよ。そうしたら、上京1週間後に生ゴミに小バエがわきまして(苦笑)。その話をしたら、あわてた母親がすぐに東京にやってきて、1週間、みっちり家事の仕方を教えてくれたというお恥ずかしい話が……。いやー、家に帰って部屋中が虫だらけだった時は、どうなることかと思いましたよ(笑)」

 もちろん、専門学校に通い出してからも、自宅でパソコンをいじる毎日が続いた。

「今度は、親から借りた軍資金とアルバイト代をもとにして、Macを買いました。例の高校の担任がMac好きで、“Macはいいぞ〜”と吹き込まれていたので(笑)。買ったのは、Macintosh LC630(アップル)。専門学校のグラフィックコースを専攻していたので、Macのほうが便利だったというのもあります。
 ただ、専門学校の授業そのものには、僕が既に知っていることも多かったので、それほど熱心にはなれませんでした。学校だけに初心者向けのところから話が始まるので、逆に先生からスクリプトの意味を聞かれたりしたこともあります(苦笑)。そんな状況でしたから、これは実践のほうが将来に役立つだろうと思い、コンビニのバイトも早々に辞めて、在学中からゲーム開発会社でアルバイトをすることにしたんです。大手メーカーの関連会社から小さな開発スタジオまで、いろいろな会社で実地体験させてもらいました。実際に働いてみると内部事情もよくわかるので、あの経験は、非常に就職の役に立ちましたね」

 その中で、最後のアルバイト先となったのがヒューマンだ。もともと、荒川さんが通っていた専門学校もヒューマンが運営していたこともあり、会社の雰囲気も性にあっていた。そこで荒川さんはデザイナーとして、途中から正社員として働くことになった。

「ヒューマンでいちばん最初に関わったタイトルは、『ファイアープロレスリング』シリーズでした。実は、僕はそれまでプロレスには全く馴染みがなかったんですが、上司に連れられて全日(全日本プロレス)の生の試合なども観に行くようになって、すっかり詳しくなりましたね。ちょうど三沢(光晴)が三冠統一ヘビー級王座を獲得した時代。それまではプロレスはもちろん、野球やサッカーなどのメジャースポーツには全然興味がなかったんですよ。でも、その後『スーパーフォーメーションサッカー』の開発なども手がけるようになり、『ファイプロ』をキッカケに、すっかりスポーツ観戦が趣味になりました」

 ヒューマンに在籍した約2年間で、荒川さんはグラフィックをメインに、企画、アーケードマシンの開発などさまざまな仕事に携わるうち、もっと他の場所でも自分の力を試してみたくなった。そんな時に目に入ったのが、スクウェアの人材募集広告。スクウェアに興味を持ったのは、荒川さんが一人のユーザーとしてゲームを遊んでいた時の、こんな思い出からだった。

「スクウェアとの最初の出会いは中学生時代。『ファイナルファンタジー』の1作目ですね。当時は周囲の友達がみんな『ドラクエ』派だったんですが、僕はちょっとひねくれていたので、「だったら俺は『FF』をやるよ」と、発売日に買ってクリアしました。でも、基本的にはアクションゲームが好きな子供でしたから、『FF』も『II』をちょっとプレイして、しばらくRPGから離れていたんです。
 スクウェアのRPGに再び目がいったのは、スーパーファミコンで『FFV』が発売になった時ですね。同時期に発売されたRPGと比べても、『FFV』はとても面白かった。おなじみのアクティブタイムバトルは『IV』から導入されていましたが、『IV』のシステムは僕も頑張れば作れる感じがありました。でも、『V』のシステムは自分が作れる気がしないほど、ハイレベルになっていました。そこから『FF』の新作は、必ずプレイするようになったんです」

 といっても荒川さんは、『FF』開発チームを目指してスクウェア入社を希望したわけではなかったという。

「そうなんですよ(笑)。『FF』ほどの大作になってしまうと開発チームも大所帯でしょうから、なんとなく馴染めなさそうな気がしてたんですよね。でも、スクウェアの開発環境は魅力でしたし、チャンスも大きいだろうと思い、とりあえず応募してみたら予想以上に早く合格を知らされて。これもいい縁だと思い、入社を決めました」

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スクウェア入社〜『FF』と『KH』でスキルアップ

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 スクウェアにデザイナーとして途中入社した荒川さん。面白いことに、もとより『FF』開発志望ではなかったという彼が配属されたのは、その『FF』チームだった。

「テクスチャデザイナーとして、PS『FF VIII』の開発チームに。ちょうど、その数週間前に『FF VIII』の体験版が発表されて、そう経たないうちにスクウェアの入社面接があって、“へぇ、もうできてるんだ。面白そうだなぁ”なんてのんびり構えてたら……そこに配属。“あ、これをやんなきゃいけないんだ”と、佳境に入った開発現場で、けっこうしんどい思いをしましたね(笑)」

 荒川さんが担当したのは、ポリゴンモデルの表面に貼り付けるデータをデザインするテクスチャデザイン。

「初仕事は、バラムガーデンの中に出てくるウツボカズラのモンスターに色を塗ることでした。そこからは、『VIII』に引き続いて『FF』シリーズを『X』まで、テクスチャデザインを中心に担当させてもらいました。なにせ、あのシリーズは物量がものすごいので、1作終えても次から次へと仕事がやってきましたね」

 『FF』シリーズでテクスチャデザインのエキスパートとして活躍していた荒川さん。その彼の転機となったのが、テクスチャデザインパートの取りまとめを行なうテクスチャディレクターのポストに就いたPS2『キングダムハーツ』だ。荒川さんにとっても印象深いタイトルだという。

「『KH』は、ディズニーさんとの共同作業になるので、そこでの苦労はありましたね。内部制作のタイトルだとキャラクターデザインも細部まで決まっているので、テクスチャ班はそれをコピーすればある程度、作業の方向性もしっかりわかるんです。が、『KH』の場合はディズニーキャラクターのデザインが外部からやってきますから、設定としてあるのは色指定の指示くらいで、それをどうやってゲームグラフィックに転換するかは、すべてこちらの作業になります。
 しかも、当時は『FF』を含めてほとんどのタイトルが、ビジュアルをリアル路線で進めていたので、『KH』のアニメ風のテイストを実現する作業内容は、時代にも逆行していました。下手に普通にリアルなライティングをすると、デジタル感が強くなりすぎて、せっかくのディズニーらしさが消えてしまうんです。ですから、肌色の部分に関してはオレンジ色の影を入れるとか、あるキャラの毛並みにはアンビエントライトとして水色を入れ込むとか、シーン全体にライティングを施して画をリアルに見せるPS2の手法ではなく、PS時代のノウハウを使ってテクスチャを作ろうということになったんです」

 こだわったのは、いかにテクスチャでディズニーの世界観を再現するか。

「少しでもデジタル感が出てしまうと、ディズニーさんの世界観が崩れてしまうし、プレイヤーも物語に没頭できなくなりますからね。そこで重要なのが、テクスチャの色配分や描きこみなんです。通常はテクスチャをどんどん描き込み、描き足していくんですが、『KH』は逆です。いかに少ない描きこみで、ディズニーらしい描き味を出すかが勝負。だから、ちょっとでも失敗したら、すべて最初から描き直しをしなければなりません。あれは大変でしたね」

 その『KH』は、ゲームファンはもとより、ディズニーファンにも好意的に迎え入れられ、大ヒット作品となる。そして荒川さんは、続編となるPS2『KHII』チームではテクスチャ班を離れ、メニューディレクターとして活躍した。

「『KHII』は、『FFX』でテクスチャディレクターをされた方がチームに合流したので、テクスチャはその方に任せて、僕はメニューデザインのディレクターにまわりました。ちょうど前任者がチームを離れるタイミングで、僕にも試してみたいことがあり、いいチャンスだと思いましたね」

 画面に出てくる文字すべてのデザイン、タイトル画面・メニュー画面のデザインなど、ゲームプレイ画面以外のほぼすべてのビジュアルを手がけるメニューデザインの仕事は、華やかなキャラクター作りに比べて、プレイヤーの目には止まりにくい。だが、ゲームを成立させるにはなくてはならないパートであるとともに、プログラマーやグラフィッカーなどすべてのスタッフと関わりを持たねばならない重要な職種だ。

「今でこそ、インターネットまわりで似たような仕事の人が増えて来ましたけど、当時はゲームくらいしか需要がなかったデザイナー仕事。誰でもできそうな作業に見えますが、けっしてそんなことはありません。ゲーム中の文字は、プレイヤーがいちばん多く接するビジュアルですから、作品の雰囲気もそこで決まってきます。メニュー画面は、ユーザーインターフェイスの善し悪しと密接に関わりますし、そこでいいかげんなことをやってしまうとプレイヤーのストレスにもなりますからね。そして何より苦労するのが、多くのスタッフとのコミュニケーション。プレイする人には気にならないパートですが、逆にそこがゲームから浮いて気にされてしまうのは、よくないメニューデザインといえるでしょうね。 ただ最近のハードはスペックも描画能力もアップしたので、1画面内の文字数を16文字に収めるといった制限もなくなり、文字の大きさも自由に決められるようになったので、昔に比べて自由度は高く、デザイン寄りになってきました。ただ、人とのやり取りのコストは減りませんね。企画は相変わらずムチャな仕様を出してくるし、プログラマーは“それはできない”と言うし。そこでメニューデザイナーを挟んで、戦いが繰り広げられるんですよ(苦笑)。メニューディレクターという仕事は、みんなの苦情を聞いて、よりよい折衷案を実現する係かも知れませんね(笑)」

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『ディシディア ファイナルファンタジー』開発秘話

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 そして、2008年12月18日。『FF』20周年記念作品となるPSP®大作、『ディシディア ファイナルファンタジー』がいよいよ発売に。別タイトルで、プランニングディレクターとしてさらなるキャリアを積んだ荒川さんは、各パートのディレクターを束ね、ゲーム全体をまとめあげるシニアディレクターとして開発に関わることになった。

「これは、歴代の『FF』キャラクターたちが1対1で戦う3Dアクションゲーム。クリエイティブプロデューサー&キャラクターデザインの野村(哲也)からのリクエストはとてもシンプルで、とにかく面白くしろと(笑)。そのひと言だけでした。開発がスタートしたのは、『KHII』の途中くらいで、2005年の秋頃に企画が決まり、実際にプロジェクトが動き始めたのは、2006年1月。開発期間は実質約2年になりますね。
 具体的なゲームシステムの構想のキッカケとなったのは、『KH』の1作目ですからずいぶん前のことです。開発の終わり頃に、『KH』のシステムを使って対戦ゲームが作れたら面白いんじゃないかという話を、野村を含めた僕らスタッフ数人がちょいちょいしていたんです。でも、“まだ、出すには時期が早いぞ。何かいいタイミングがあるはずだ”と、そこは話だけで終わっていました。そうするうちに、『FF』20周年のアニバーサリーが近づき、何か記念碑的な作品を作ろうというタイミングと、『KH』で育った若いスタッフに大きなチャンスを与えようというタイミングが重なり、『ディシディア』のプロジェクトが本格始動したんです」

 そこで実現されたのが、調和の神「コスモス」と混沌の神「カオス」が世界の調和を統べる世界で、戦士として『FF』歴代タイトルからそれぞれの陣営のキャラクターが呼び出され、戦いを繰り広げるという世界観。

「お祭りソフトにありがちな、ただのパラレルストーリーにはしたくなかったんです。せっかくの記念作品ですから、『FF』というコンテンツの根本的な世界観をわかってもらえる設定で、20年間の蓄積を味わってもらえる作品にしたかった。そこで出てきたのが、カオスとコスモスの戦いが繰り広げられている世界でした。これなら、『FF』らしさも存分に感じてもらえますし、これまで敵味方として出てきたキャラクターたちが戦う理由も理解できる。『FF』ファンの方にも十分に納得してもらえる話が語れると思いました」

 それぞれのタイトルが大ヒット作だけに、プレイヤーキャラクターの選定にも苦労が多かったのではないだろうか?

「そうですね。人気キャラがたくさんいるので迷いましたね。でも人気ばかりを優先して選んでしまうと、それぞれのストーリーについて語るときに破綻が出てくる。なので、まずは主人公とライバルをメインにして、例えばある人物のように、とても人気はあるけど物語を語るにはバックボーンが弱いキャラは、プレイヤーキャラクター以外の出番を用意するようにしました。プレイヤーキャラクターに関しては、まだ発表されてない人物もいますので、お楽しみに」

 最近の作品でこそハイクオリティの3Dキャラクターが活躍しているが、昔のタイトルでは、これまで2Dキャラ、もしくはデフォルメされた絵柄でしかゲームに登場しなかったキャラクターも多い。当然、ビジュアル作りにも苦労が多かったことだろう。

「そうなんですよ。そのために、今回は野村がキャラクターをリファインしたんですが、必ず原作から何か、ポイントとなるものをキーアイテムとして盛り込むようにしています。野村は、『FF』のガーランドがいちばん苦労したと言ってましたね。ガーランドの鎧姿は天野(喜孝)さんの絵もないし、唯一資料となったのがファミコン版のドット絵。それに忠実にデザインを起こしたら、今の絵になったらしいです。だから昔の作品で原作にいちばん近いのは、ガーランドかも知れないですね。 ストーリー面でいちばん苦労したのは、『III』の“暗闇の雲”ですね。原作では台詞が二つしかないので、設定が深く掘り下げられていないんです。あと苦労したのは、『VI』のティナです。パワーアップすると召喚獣に姿を変えるんですが、原作どおり変身させると何も身に付けていないように見えてしまう。そこで多少逡巡があったのですが、野村が原作通りにしなければ意味がないと判断して、ソフトの対象年齢が少し上がることになりました」

 ゲーム中に登場する必殺技の数々も、原作の雰囲気をそのまま再現。ファンにとっては大きな見どころだ。

「僕が注目してほしいのは、クラウド(『VII』)の究極リミット技〈超究武神覇斬〉。『VII』はコンピレーション作品もたくさん登場してて、ユーザーの方それぞれのクラウドのイメージがあると思うんですよ。でも、『ディシディア』の〈超究武神覇斬〉を見ていただければ、“『VII』本編のクラウドはこうだった!”と思い出していただけると思います。あとは『III』のオニオンナイトですね。ファミコン時代のコマンドウィンドウの操作を再現して、効果音もファミコン版の音をそのまま入れてますので、かなり原作にこだわっていますね」

 ビジュアルのリファインと共に、これまで喋っていなかったキャラクターにボイスを導入したのも新たな試みだ。大物声優、人気声優の起用も目を惹くが、ナレーションをあの菅原文太さんが担当しているのにも驚かさせる。

「『IV』や『VII』シリーズのように、リメイクやコンピレーション作品で既に声の入っている作品はそのままのキャストで、新しい声に関しては、誰もが納得する実力派の個性あふれる方々にお願いしました。キャスティングに関しては、野村のアイデアですね。菅原文太さんのナレーションも、重厚な語り口が『FF』の世界観にもピッタリで、非常に雰囲気を盛り上げていただいてます。そういうところでも、懐かしさと意外性の両方を感じていただける配役になっていると思います。
 音の話でいえば、BGMにも期待していただきたいですね。人気の名曲もアクションに合う新アレンジで登場しますし、やり込んでいただけば、原作ファンの方に喜んでいただけるお楽しみも各作品で用意しています」

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