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アフリカ・モロッコ編

「国技」中距離に熱狂

エルゲルージ追う次世代

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インターバル練習を重ねる中距離選手たち=泉祥平撮影

 真っ青な空の下、ランニングシャツに短パンの選手たちがインターバル走を繰り返していた。約1800メートルの高地にあるモロッコ・ラバトの国立合宿所には、10代後半から20代前半の選手が泊まり込みで生活する。トレーニングを終えた青年が言った。「ヒシャム(エルゲルージ)のような選手になれれば最高だね」

 「走る格闘技」と言われる男子千五百メートルは、100メートル14秒前後のスピードで、トラックを3周と4分の3回るスタミナが要求される。突き飛ばしも珍しくない激しい位置取り争いに、観衆は熱狂する。欧州、特に英、仏の人気種目は、モロッコでは「国技」に等しい。

 1980年代を中心に活躍した千五百メートル元世界記録保持者、サイド・アウィータは国民的英雄だった。90年代後半からは千五百メートルの現世界記録保持者、エルゲルージが世界のトップに君臨。シドニー五輪は銀に泣いた悲劇の王者が、アテネ五輪で千五百、五千メートルの2冠に輝き、国中が興奮した。

 中距離種目への熱い視線を、エルゲルージを指導し「コーチ・カダ」で知られるカダ・アブデルカデル氏は明快に分析する。「アウィータで人気が高まった。そしてエルゲルージという後継者。だからみんな中距離をやりたがるんだよ」

 地理的、歴史的な背景も無関係ではないだろう。モロッコは、アルジェリア、チュニジアと合わせて「マグレブ3国」と呼ばれ、古くから地中海を挟んだスペイン、ポルトガルなど欧州との交流が深く、中距離で強い選手を輩出する。

 中でもモロッコは、ジブラルタル海峡を隔ててスペインとわずか十数キロ。仏の保護領に置かれた歴史を持ち、街にはフランス語の看板があふれ、欧州の薫りが極めて色濃い土地柄だ。

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買い物客や商売人で終日にぎわう古都カサブランカの市場=泉祥平撮影

 育成システムはモロッコならではの一面を持つ。ハッサン2世(99年逝去)と現国王のムハンマド6世はともに、中距離種目に強い関心を示してきた。国民が寄せる関心も高くなり、学校単位や、地方で開かれる競技会から有望な若手を発掘するシステムが網の目のように発達してきた。

 才能ある生徒は適性を見極められた後、レベルごとのグループで練習を積む。トップグループには金銭的援助もある。エルゲルージは言う。「モロッコの中距離は、長く培われてきた文化であり伝統だ。強くなるためのトレーニングを開発してきた。それらが実を結んで勝ってきたんだ」

 そのエルゲルージが昨年に引退。今は「端境期」にあるが、次世代のスター候補は少なくない。「今はヒシャムのような選手はいないが、ジュニア世代から育ってくるよ」。コーチ・カダの言葉が、今夏の大阪で現実になるかもしれない。

 (アフリカ編おわり。この連載は新宮広万が担当しました。次回は欧州編の予定です)

モロッコの世界選手権金メダル
 男子8個、女子2個の計10個。エルゲルージは97年大会から男子千五百メートルを4連覇。05年大会はエルゲルージが欠場したが、優勝はモロッコから国籍変更したラシド・ラムジ(バーレーン)だった。男子マラソンのジャウアド・ガリブは大阪大会で世界選手権3連覇を目指す。
2007年5月17日  読売新聞)
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