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特集 地球温暖化対策の取り組み

エコドライブの地球温暖化防止効果
〜アイドリングストップの意義〜

太田 勝敏
【東京大学大学院 工学系研究科 教授】

1.運輸部門の地球温暖化対策での
エコドライブの推進

 地球温暖化問題への対応のなかで、運輸部門は二酸化炭素(CO2)排出の20.7%(2000年度)を占めており、1990年と比べて20.6%増と大幅な増加傾向にある。COP3(2〜6ページ参照)において採択された京都議定書でのわが国の目標である2012年までに温室効果ガスの排出量を90年レベルの6%削減を達成するうえで、運輸部門は大きな障害となっている。
 今年の3月に策定された政府の新しい「地球温暖化対策推進大綱」(新大綱)では、運輸部門の2010年のCO2排出量を2億5,000万t-CO2(90年比で17%増)以下に抑えるとして、4,600万t-CO2を削減目標と設定している。これは、トレンドから予想される自動車交通量の増加等によるCO2排出量の57%増加に対して着実な道路整備の推進による約3,500万t-CO2の削減を前提にして推定される排出量2億9,600万t-CO2(40%増)をベースに設定された目標である(1)。
 削減のための需要面での対策は、低公害車等の開発普及、交通流対策を主体にした「自動車交通対策」と、モーダルシフト、物流の合理化、公共交通の利用促進等を主体とした「環境負荷の小さい交通体系の構築」の2つを柱として4,530万トンCO2を削減する内容となっている(表1)(注)。
 98年の大綱と比べると、この削減目標量は全体で7.3%引き下げられたなかで、産業部門が絶対量での増加と一層の削減が求められているのに対して、運輸部門は2.4%の減少と近年の交通量の増大傾向を配慮したものとなっている。
 運輸部門の具体的施策を見ると、現行対策に加えて低公害車開発・普及の加速、物流の効率化の強化、海運へのモーダルシフト等の追加的対策に新大綱の特徴が見られる。また、一定の効果が期待されるものの、その施策を実施する決め手を欠く面や、その効果を数量的には把握しにくいものも数多くあるが、それらの施策は記述してあるにとどめて、削減目標の数量には含めていない。
 環境にやさしい運転(いわゆるエコドライブ)に関連しては、「バス・トラック等のエコドライブの促進のため、既存の対策を見直し・推進」「営業用自動車等の走行形態の環境配慮化による環境負荷低減対策の推進」などが追加対策として記述されている。その具体的削減目標量としては、「アイドリングストップ装置搭載車両の普及」で約110万t-CO2(約40万キロリットル)、「大型車の走行速度の抑制」で約80万t-CO2(約30万キロリットル)を掲げている。後者には大型トラックについての速度抑制装置の義務づけによる効果が大きいとことから、これらの施策は車両そのものの改善を主眼としたものである。
 営業用車両以外の主に乗用車を対象としたエコドライブについては、「国民各界各層によるさらなる地球温暖化防止活動の推進」として、地球環境時代にふさわしいライフスタイルに向けた取り組みのなかで、冷暖房温度の適正化などと並んで掲げられている。現行対策の「自動車利用の自粛策」「駐停車時のアイドリングストップ等の推進(20〜40%)」で、14〜28万t-CO2の削減に加えて「エコドライブの実践等」が掲げられ一般国民と事業者の取り組み(20〜40%)で約81〜162万t-CO2の削減とされている。
 このようにエコドライブの推進による直接的効果はCO2削減量で見て運輸部門全体の2〜4%程度(バス・トラック等の車両装置関係は別途4%)と少ないが、国民のライフスタイルを変え、クルマの使い方の啓発が進むことから、クルマ利用の自粛など潜在的な効果は大きいと考えられる。

表1 「地球温暖化対策推進大綱」(新大綱)での運輸部門の削減目標−需要面での対策

表2 エコドライブ10のおすすめ
1.無用なアイドリングをやめる(アイドリングストップ)。
2.経済速度で走る。
3.点検・整備をきちんとし、タイヤの空気圧を適正にする。
4.無駄な荷物は積まない。
5.無駄な空ぶかしをやめる。
6.急発進、急加速、急ブレーキをやめ、適切な車間距離をとる。
7.マニュアル車は早めにシフトアップする。
8.渋滞などを招くことから、違法駐車をしない。
9.エアコンの使用を控えめにする。
10.マイカーの利用者は、相乗りに努める。また、公共交通機関が利用可能な場合には、できる限り公共交通機関を利用する。

2.エコドライブとアイドリングストップ
その効果と課題

 ところで、エコドライブは環境にやさしい運転を指す言葉として一般に使われているが、その内容には文脈に応じて多少違いがある。代表的な例が表2で、CO2の排出を抑えるものとしてクルマの運転と利用に直接関わる内容が10項目掲げられている。
 また、前述した新大綱のなかでは、エコドライブの実践として、(1)カーエアコン設定温度の1度アップ、(2)ガソリンを満タンにしない、(3)急発進・急加速をしない運転を心がける、(4)自動車に不要な荷物を載せない、(5)計画的なドライブをする、(6)タイヤ空気圧の適正な管理、が掲げられている。
 エコドライブの効果は、CO2削減と省エネルギーだけでなく、NOx、SPMなどの大気汚染物質の排出削減、さらに騒音や交通事故の削減にも役立つものと認識されている。
 アイドリングストップは、「自動車が走っていないときにエンジンをかけっぱなしにすること(アイドリング)はできるだけやめようということ」(アイドリングストップ運動推進会議のパンフレット)である。一般には、自動車の駐停車時にエンジンを止めることと理解されており、エコドライブの主要施策として認識され、その効果についても定量的数値が示されている。一般には表3に示す環境省によるCO2、燃料消費量が目安としてキャンペーンに使われている。
 アイドリングストップについては、その励行がどこまで徹底できるか、駐停車時は当然として信号待ちや渋滞時でのアイドリングストップはどうすべきか、効果の総量はどのくらいかといった基本的な点にある。現在わが国では、バスやトラックなど運輸事業者による取り組みをはじめ、民間、国、自治体、JAF等のさまざまな関連主体による自主的取り組み、運動、啓発が行われている。しかし、多くの取り組みは実効性を欠く精神運動にとどまっているのが現状である。全国の自治体で条例によりアイドリングストップを推進している例は28自治体(平成10年9月)にとどまっており、その対象は駐停車を対象としたもので、罰則等の実効性のある手段を伴う条例は兵庫県、東京都などごく少数である(2)。
 海外では、ドイツ、スイスなどヨーロッパ諸国ではアイドリングストップの法的義務づけが進んでいる。駐停車時の実施がほぼ徹底されており、さらに信号待ちでのアイドリングストップもある程度実施されているとのことである(2)。
 この信号待ち等でのアイドリングストップの実施については、(1)短時間でのエンジンの停止では再始動に伴う燃料消費量の増大や排出ガスの増加で効果がないのではないか、(2)再始動による発進遅れにより渋滞が悪化するのではないか、そして、(3)ドライバーにエンスト・故障発生の不安やあせりと遅れ、それに伴う後続車への迷惑や追突といった交通事故の危険性が増すのではないか、といった懸念が指摘されている。
 しかし、この問題について最近(財)省エネルギーセンターよりたいへん興味深い調査結果が公表されている(2)(3)。すなわち、乗用車の大半を占めるオートマチック車(AT車)について、適切な支援装置により「信号待ちアイドリングストップは、省エネルギー効果が期待でき、懸念される悪影響も回避可能」としている。
 前述(1)については、省エネルギー効果(CO2削減効果)は、特に市街地走行で大きく、10・15モードで約10%、より混雑を想定した走行モードでは約25〜40%の燃費向上効果が期待でき、また、大気汚染物質の排出についても、乗用車の排出ガス対策が進んだことから、発進時の排出ガス増加は小さくなっているとしている。(2)については、ドライバーは早めにエンジン始動の傾向にあり、発進遅れによる渋滞発生の懸念は少ない、としている。(3)については、明確な結論を出していないが、アイドリングストップの支援機能の開発の進展等から、事故増加を回避できる可能性を指摘している。同調査ではさらに、ドライバーの多くは、操作が簡便な支援装置があれば信号待ちアイドリングストップを実施すると回答していること、また自動車メーカーもアイドリングストップ車の開発と普及に前向きであること、を明らかにして、今後の課題としてその効果についての認知拡大と実走行での効果の確認を挙げている。

表3 アイドリングストップの効果(例)
  アイドリング10分間
当たりの燃料消費量
(単位:l)
アイドリング10分間
当たりの二酸化炭素
排出量(炭素換算、
単位:g)
備考:
アイドリング10分間
当たりのNOx排出量
(単位:g)
乗用車(ガソリン車)
0.14
90
0.05
小型トラック(2トン車)
0.08〜0.12
58〜87
3.2
中型トラック(4トン車)
0.13〜0.17
94〜120
4.8
大型トラック(10トン車) 0.22〜0.30 160〜220 5.1
注:各種データから環境省作成
出典:公健協会のパンフレット『アイドリングストップ運動』(2001年3月)、備考に東京都資料によるNOx排出量を追加した

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