国産検索エンジンの必要性を語るビデオ映像 (撮影者:吉本敏洋) ブースでは、ディスプレイとステージ上の巨大プロジェクタにおいて、国産検索エンジン技術の必要性を説明するビデオが、繰り返し流されていた。ビデオに登場するジャーナリストの田原総一朗氏は「Google(グーグル)に取り上げられない情報は、情報でなくなってしまう」と述べ、その後、タレントの眞鍋かをりさんが「グーグル八分」と呼ばれる現象があることを説明していた。 グーグル八分とは、以前「検閲、それともクレーム対応?検索結果における見慣れぬ表示」でも取り上げたが、グーグルが、特定のページへのアクセスを恣意的に遮断していることを指す。ビデオでは、03年に日本で「ある告発系サイトが、一方の当事者の申請で検索結果から削除された」、06年に中国で「『天安門』『法輪功』など中国政府が検閲対象とした情報は、検索が制限された」と具体的な事例を挙げ、「検索結果が海外の特定企業に決められることがどれだけ怖いか分かるだろうか」と訴えていた。 さて、ビデオの内容は大筋おいて理解・共感出来るものであったが、情報大航海プロジェクトに参加している各団体のブースを見て回ったところ、このプロジェクトに相応しくないと思われるテーマや、時代に全く追いついていないようなテーマが散見された。特に、早稲田大学の「Web上の著作権違反検知ツール」展示においては、先行調査としながらも、グーグル八分などの私的検閲や利用者の偏見を助長しかねない技術の開発が宣伝されていた。 著作権違反検知システムの概要 (撮影者:吉本敏洋) このツールの利用目的について、早稲田大学の担当者の方に対して「プロジェクト全体ではグーグル八分の危険性を述べているが、グーグル八分の理由の一つに『著作権違反』というものがある。このツールによって、グーグル八分が行いやすくなるのではないか?」と質問したところ、「あくまでも、違反者に対し直接連絡しやすくするためのツールである」と回答した。そこで「検索エンジンが、このツールを組み込んだとすれば、自動的に違反ページを削除することが出来るのではないか?権利者自身が膨大なWebページから探し出すのではなく、『検索エンジンの方で自動化してくれ』という要求もありえるのでは?」と重ねて質問したところ、「そういう利用のされ方も、ありえる」とのことであった。 また、「なぜ『類似文章検索ツール』ではなく『著作権違反検知ツール』なのか? 中立的な用語ではなく、価値判断を含むタイトルにした理由は? ソフトウェアが、特定のページを『著作権違反』と断罪してしまうことに対して、学内で議論は無かったのか?」などと聞いたところ、担当者は黙ってしまい何の回答も得られなかった。なお論文によると「著作権侵害ページとは、表面的に類似している文章を掲載したWebページと定義」されており、正当な引用やライセンスに沿った利用であるかどうかは、全く無視されていた。 このツールは、先導研究のためか「主に、学部4年生2人によって作られた」とのことである。また、担当者自身が説明するように「すでに日本音楽著作権協会が、同様のシステムを稼動させている」ことからも、先行性はない。この程度の認識で開発される「検索エンジン応用技術」が、来年度予算数十億円の国家的プロジェクトの一翼を担い、国策検索技術の一つとして利用が推進されるのだとしたら、どうしても不安を感じざるを得ない。「検索エンジンの安全・安心を目指す」とのことであるが、グーグル八分批判とは大いに矛盾があるし、結局のところは一部の「権利者」のための技術であって、万人を幸せにするような技術ではない。論文では、「替え歌」「パロディ」や「歌詞に対するコメントをしているページ」も違反ページとして抽出される「頑丈な」システムであると評価しているが、そういったものを本当に「違反」と呼べるのであろうか?
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