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日めくりプロ野球１１月

【11月16日】1993年（平５）　“特殊潜航艇”根本、久々の大型トレードで秋山ゲット

その行動が水面下に潜り把握できないことから“特殊潜航艇”とも呼ばれた根本（右）。巨人とのオープン戦で西武から獲得した秋山（中央）を伴い、長嶋茂雄監督にあいさつ

　旗艦「田淵」獲得から１５年。福岡ダイエーホークス３代目の監督を務めていた根本陸夫は、今度は旗艦を古巣と交換した。

　この日、ダイエーの佐々木誠外野手、村田勝喜投手、橋本武広投手と西武の秋山幸二外野手、渡辺智男投手、内山智之投手との３対３の大型トレード成立が両球団から電撃発表された。

　少なくともダイエー側は根本監督以外、このトレードに全く関わっていなかった。トレードでもドラフトでも、水面下での動きを察知されずに一気に攻撃して、アッと言わせるのが根本流。海深く潜り敵艦を奇襲攻撃する“特殊潜行艇”とも呼ばれたが、このトレードはその異名の通り根本が独りで計画し、独りで実行に移した話だった。

　「大型トレードは噂になった時点で潰れるのが球界の常。だから独りでやった」と根本。１５年連続Ｂクラスとはいえ、９２年に３割２分２厘で首位打者となった主軸打者の佐々木と、９３年唯一の１０勝投手村田の放出というお家の一大事。殿様である中内功オーナーにでさえ事後報告だった。

　根本がチームの戦力の根幹にかかわる血の入れ替えができたのは、その権限拡大にあった。２カ月前、根本は監督だけでなく、球団の代表取締役専務、球団本部長を兼務することになった。現場の指揮を執る監督＝フィールドマネジャー（ＦＭ）だけでなく、チーム編成をするフロントの責任者＝ゼネラルマネジャー（ＧＭ）の重責まで担うことになった。実際の試合で選手というコマを動かすのも根本なら、コマを用意し整えるのも根本の役目。中内オーナーが西武からヘッドハンティングしてきた時から、オーナーは根本にすべての権限を与える構想を持っており、この大型トレードも「君がいいと思うなら、やりなさい」のひと言で済ませた。

　９３年、田淵幸一監督から引き継いだチームを根本は全くと言っていいほどいじらなかった。前年４位のダイエーは借金３５、勝率３割６分、優勝した西武と２８ゲーム差をつけられ、ダントツの最下位に転落した。その間にやったことといえば、チーム内をよく観察することだけだった。１年目から結果を出そうとせず、１シーズンを犠牲にしてでも常勝軍団を作り上げるための、下準備に充てた。

　得た結論がこうだった。「このチームは同好会と変わらない。楽しくやって、それで勝てればいいという体質のチームだ。プロは旗（チャンピオンフラッグ）を取りにいってこそプロだ。チームを変えていくには、人を変えていくしかない。それもチームを背負ってきた主力を変えなければ、全体は変わらない」。

　ダイエー投打の主力は村田と佐々木。まずホークスの代表選手の放出を前提に、西武の森監督に電話でトレードを申し込んだ。１年前、西武から佐々木のトレードを打診された経緯があったことと、常勝軍団となった西武の勝つ野球を知っている選手を、同好会野球に慣れきったチームに注入したいという気持ちがあったからだった。秋山は森監督との確執も伝えられ、根本はそこにトレード成功の見通しがあると踏んでいた。

　球界関係者の大多数が「西武に有利なトレード」という評価を下した。確かに西武は９３年に続き、９４年もパ・リーグを制覇。村田は４勝と期待外れだったが、佐々木はホークス時代以上に活躍。３７盗塁で初の盗塁王、ベストナインにも輝き、優勝に貢献した。橋本も後に連続リリーフ登板日本記録の５２６試合を樹立するなど、地味ながらチームに欠けがえのない存在となった。

　一方のダイエーは、答えが出るまでに６年の歳月がかかった。全盛期の過ぎた秋山は９２年まで９年連続３０本塁打以上を打っていたが、広い福岡ドームが本拠地になると２４本にダウン。しかし、根本が一番望んだチームリーダーとして役割は十分に果たした。渡辺、内山は力を発揮できずに終わったが、このトレード以降、ダイエーは新戦力を中心に血の入れ替えに成功した。

　９３年のドラフトでは２位で小久保裕紀内野手（青学大）を獲得した後、同９４年１位城島健司捕手（大分・別府大付高）、９５年１位斉藤和巳投手（京都・南京都高）、９６年１位井口忠仁内野手（青学大）、２位松中信彦内野手（新日鉄君津）、と中心選手となるプレーヤーが次々入団。秋山が兄貴分となり、ダイエー、それを継いだソフトバンクは、根本の狙い通り常に優勝を争える球団となった。

　【00年８月18日　秋山、２千試合で２千本安打達成　 99年９月25日　ダイエー、悲願の初優勝】