2005/04/01(金)放送

「時流」 TVゲームと少年犯罪の関係
増え続ける少年犯罪。そして、ゲームに熱中する子どもたち。私たち大人が理解できないこの2つの現象は、どこかで結びついているのでしょうか?きょうの時流は、『ゲーム脳』を考えます。


■『ゲーム脳』に縛られる大人たち




保坂「寝屋川の教職員殺傷事件から1ヵ月半。加害者の少年について我々が得ていた情報は、『長年TVゲームに熱中していた』ということです。きょうの時流は、TVゲームと子どもについて考えてみます。統括デスクの枝記者に聞きます。まず、ゲームと子どもの犯罪との因果関係は、どの程度まで解っているのですか?」

枝「まず、TVゲームが家庭に入ってきたのは、ファミコンがデビューした1983年。その一方で、日本の脳医学は世界でもトップレベルです。ファミコンデビュー以来、脳医学者や精神科医は、TVゲームが子どもの脳の発育にどのような影響を及ぼすかということを研究してきました。今まで色々な説がありましたが、これといった決定打がなく、私たち大人は『ゲームと子ども』という不可解な2つのものの関係≠ノストレスを感じていました」




枝「そこに、2002年に衝撃が走りました。それが『ゲーム脳』という言葉。日本大学の森教授が書いた『ゲーム脳の恐怖』の中に出てくる新造語です。『ゲームに熱中すると、子どもの脳が破壊される』。衝撃的な言葉でした」

枝「森教授が本の中で紹介したデータを見てみましょう。人間の脳にはアルファ波とベータ波があります。アルファ波はリラックスした時などに見られる脳波、ベータ波は緊張時や覚醒時などに見られる脳波です。この本のデータによると、普通はアルファ波よりもベータ波が多く出ているのですが、ゲームをするとベータ波が下がってしまう。つまり、ぼーっとしてしまう。この状態が、脳の破壊に繋がるという考えです」




枝「しかし、この本の出版後、『アルファ波とベータ波は通常でも寝たり起きたりするだけで入れ替わる』とか、『このデータのサンプリングに根拠がなく信頼性がない』など、たくさんの反論がインターネット上では出ました。しかし、『ゲーム脳の恐怖』は論文ではなく、本であるということから、学者たちはあまり表に出て反論しませんでした」

枝「従って、我々マスコミも森説のみに集中してしまって、『ゲーム脳』という考え方が定着してしまった。森説が全て間違いだとは言えませんが、我々マスコミも反省しなければいけません」

枝「私は、世の中がここまで『ゲーム脳』に飛びついたのは魔女狩り≠フ要素があるんじゃないかと思います。『TVゲームと子ども、2つのわからないことをひとつにして、因果関係を証明したい』、『少年犯罪が増えた原因を無理やり特定したい』というのが魔女狩り的発想≠セと」




枝「きょうは、もう少し脳医学とゲームについて考えてみます。人間の脳には前頭葉と呼ばれる部分があります。この前頭葉について、脳医学の権威の人に聞いてきました」

【日本福祉大学 久保田競教授】
「目からの情報は、脳の後ろに入って『見たものが何か?』ということを理解して覚える。そして、その情報が前頭前野に送られて、『それをどうするか?』ということを決める。人間にとって一番大事な部分です」

(Q.前頭葉が未発達だと?)
「何かを抑えるということができなくなってくる。適切に行動できない、うまく問題解決ができない」



保坂「まとめると、どうなりますか?」
枝「前頭葉とは、物事を考える場所。していいことと、悪いことをコントロールする。ここが発達しないと、社会的判断能力が欠如してしまう。これに関しては学説として成立しています」

枝「前頭葉が未成熟だと社会的判断能力が低下することはわかる。では、どうしたら前頭葉が未成熟になるのかということですが、先ほどの『ゲーム脳』という言葉がこれを結びつけてしまった。つまり、ゲームに熱中すると前頭葉が破壊され、その結果、暴力的行為が増えるという三段論法です」


保坂「これが『ゲーム脳』の考え方ですね」
枝「これは非常に危険な断定です」



枝「色々な説がありますが、先ほどの久保田教授の話によると、初めてのゲームに接する時というのは『非常に前頭葉が働いて、発達に繋がる』。ところが、ゲームに熟練してくるとあまり考えなくなるので、前頭葉を使わなくなる。これをもう少し詳しくすると、東北大学の川島隆太教授は『熟練してくると視覚と運動神経だけでゲームをしてしまうので、前頭葉は刺激されない』と」

枝「私が一番注目しているのは、ゲーム云々以前の両教授に共通する考えです。『前頭葉の発達に一番必要なものはコミュニケーション』だということ。会話であるとか、ケンカでもいいです。相手のことを理解する・欺くなど、対人関係が前頭葉の活性に繋がって、物事を判断する脳ができあがると」



枝「ところが、今はTVゲームの暴力シーンだけが問題になっています。総合的に見なくては、問題が浮き彫りになりません。例えば、ずっと熟練したゲームに集中して、誰ともコミュニケーションを取らず、そこに暴力シーンを植えつけられるとさすがにどうなるかはわかりますが、今は、この暴力シーンだけを規制しようとしている。今後、多くの地方行政が販売制限などの条例を作っていくと思います」


枝「しかし、元々子どものコミュニケーションの問題は非常に重要視されてきました。ここをきちっとしないで、TVゲームの暴力シーンだけを規制していく、『ゲームのせいにしないと気がすまない』という考え方が魔女狩り≠ノ繋がる。理解できないTVゲーム≠ニ今の子どもの行動≠フ因果関係を、『ゲームが悪い』と決めつけるのは危険だと思います」
保坂「冷静な議論というのが、もっと必要ですね」