小説 [パチプロ風雲録 -青春篇-]
作・椎名銀次

第14話 勝負師(二)
三月二十二日・晴れのち曇り

三連荘目に入ると、周囲の男達も「あのガキ、乾(いぬい)が買うだけのことはあるな」「あの椎名っていう小僧、やるじゃないか?」とささやき始めた。
この俺が、見ず知らずの大人から一目置かれている…。その時、生まれて初めての優越感と気持ちの高ぶりを感じた。これが人の期待に応えるということだろうか。女手ひとつで育ててくれた母や、自分の進学を諦めてまで俺を高校に行かせてくれた兄の期待に応えることができなかった俺にとって、それはとても心地良いものだった。しかし、母や兄がこうしてパチンコ勝負をしている自分を見たら、はたしてどう思うだろうか。就職も進学もできていないことには変りはない…。
ふと盤面を見直すと、玉があらぬ方向に打ち出されていた。俺は頭を振って、勝負に集中しようとした。一つ離れた台の神谷をうかがうと、銀髪痩身の男は勝負を始めた時と変わらない姿勢で打ち続けていた。その背後に立つリリーも苦戦しているとは思えない余裕をもった表情で神谷の台を見ていた。

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