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木本 大志
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スポーツナビ
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イチローと松井、メジャーリーガーと認められた2人 (1/2)
『ICHIRO 4年目の日々』 VOL.3
2004年05月10日
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松井秀との直接対決初戦に2安打を放ったイチロー【 (C)Getty Images/AFLO 】 |
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米メディアにとって注目度の低かった「イチローvs.松井」
「あのねぇ、もう、だれも来ないんですよ」 そう言って苦笑するのは、松井秀喜の通訳を務めるロジャー・カーロン。 「だから、こっちから行こうと思ってます。『松井は、イチローについてこう言ってますよ』って(笑)」
7日、午後4時30分。 マリナーズとの試合を控えた、ヤンキースのクラブハウス内は、日米のメディアでごった返していたが、松井を囲むアメリカ人メディアはいない。昨年までなら、イチローとの比較、イチローをどう思うか――、そんな質問が繰り返されたのに、ピンストライプに身を包んだ「55番」は、試合前のルーティーン(いつもの行動)をだれにも邪魔されることなく、静かにこなしていた。
「2年目っていうのもありますけど、もう、そういうとらえ方(イチローvs.松井)を、メディアはしてないんじゃないですかね」 カーロンの見方は正しい。
マリナーズのクラブハウスもそうだった。試合前、イチローを囲むアメリカ人メディアの姿はなし。背中の痛みで欠場が決まった、ブレット・ブーンの周りからは人の輪が絶えなかったが、イチローはマイペースで着替えを済ませると、いつもと同じようにグラウンドに飛び出していった。
思えば昨年、わざわざ時間を設定してまで、松井に関する会見を開き、「松井君には、活躍してほしいと思わない」というコメントに尾ひれが付いて、「お互い、嫌いなんじゃないか?」との憶測が飛ぶ始末だったのに……。
試合後も同様。2人はそろって活躍(松井は2打数1安打2四球。イチローは4打数2安打)したが、アメリカ人メディアから、囲み取材を受けることは無かった。 カーロンはさすがにまゆをひそめた。 「これだけ活躍したし、来てもおかしくないんですけどね……」
イチローも認める松井の成長とは
イチローが常々、こんな話をしていたのを思い出す。 「日本人対決、日本人対決って騒がれない、そんな日が来るといいですね」 それを聞いたとき、まだまだ先の話だと感じていたが、いまや現実。彼らは、もはや完全なメジャーリーガー。日本からの、「お客さん」ではない。
イチローの言う、「そんな日」が、もうやってきたのかもしれない。
試合後、イチローは饒舌(じょうぜつ)だった。比較論から開放され、純粋にヤンキースとの対戦、勝ったことへの喜びを聞かれれば、その思いは、素直に口をついて出た。 「球場の雰囲気とか全然違ったし、やっぱりヤンキースっていうのは、すごいチームだね。相手の気持ちとか、雰囲気まで変えてしまう。モチベーションが高まるチームですよ」
そして、ヤンキースをステップとして上昇気流に乗れそうな、そんな予感さえ口にした。 「これまでにはないリズムで、試合を運べましたから、何かを思い出すには、いいゲームだったと思う。明日も続くかどうか、それはまったく違うものですけど、でも、もうこういうゲームができないんじゃないか――30試合近くを戦って、そういう不安が出てきますから、一番強いチームに対して、そういうゲームができたということは、小さくはないと思います」
松井秀に関しては、 「愛きょうのある雰囲気というか、プレーそれぞれに憎めなさがある」 そんな風に触れたが、同じ海を渡ったライバルを、こうもたたえている。 「あそこで(8回2死一塁)で、(マイク・)マイヤーズ使わせるなんてね、すごいじゃないですか。昨年の今頃だったらあり得ない。(松井は)安全パイでしたから」 その口元が、ほころんだ。
昨年、松井の話題を積極的に口にすることは無かったが、お互いをメジャーリーガーと認め、周囲もそうとらえている状況が、イチローの口を滑らかにするのか。
<続く>
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