「松阪牛」など地域名と商品名を合わせた商標登録を積極的に認める「地域団体商標制度」が今月始まり、300件を超える申請が出る中で、問題も起きている。愛知県では「八丁味噌(みそ)」の商標を2団体が奪い合う。有名な香川県の「さぬきうどん」は申請しても登録されない公算が大きい。地域ブランドを巡る地元の思いは複雑だ。
特許庁が13日発表した地域ブランドの申請リストには「八丁味噌」と「愛知八丁味噌」の二つが競い合うように並ぶ。
八丁みそは大豆から造られる豆みその一種で、愛知県岡崎市八帖(はっちょう)町が発祥。同町の「まるや八丁味噌」と「合資会社八丁味噌」の2社が江戸時代から造っている。
昨年4月、2社とそれぞれの子会社の計4社が「八丁味噌協同組合」を立ち上げ、「八丁味噌」の申請準備を進めてきた。「まるや」の浅井信太郎社長は「八丁みそのブランド力は我々2社が築いた岡崎の財産。市外の業者が名称を使うのは知名度を利用した『ただ乗り』だ」という。
一方、県全域の業界団体「愛知県味噌溜醤油(たまりしょうゆ)工業協同組合」(名古屋市)は「岡崎市以外で30年間八丁みそを売ってきた業者もいる。2社だけ独占使用するのはおかしい」と主張。2社に県内のみそ業者の名称使用を認めるよう求めてきた。
だが協議は物別れに終わり、結局は両組合が「八丁味噌」を含む名称を申請。工業協組の中村陽一理事長は「『八丁味噌』が商標登録されたら、県内のみそ業界は大打撃を受ける。審査では影響の大きさを考えてほしい」と注文を付ける。
香川県内のうどん店や製麺(せいめん)所などで作る「さぬきうどん協同組合」(高松市)などは、月内にも「さぬきうどん」を地域ブランド申請する。ただ特許庁幹部は「登録は難しいだろう」とみる。
新制度では、「地名+商品名」でも、一般的に使われるイセエビやサツマイモなどは申請できない。全国各地で作られている讃岐うどんもこれにあたる可能性が高いという。
だが、讃岐うどんを名乗る類似品に頭を痛める組合の大峯茂樹理事長は「全国的な知名度は我々の努力の成果。それを利用して粗悪品を作る者がいるから登録できないなんておかしい」と怒る。
「深谷ねぎ」の登録を目指した埼玉県深谷市は、協同組合以外は申請できない規定に泣いた。
農産物の地域ブランドは、農協が申請する例が多い。だが同市では直接市場にネギを出荷する農家が多く、農協を通じた出荷は25%程度。高田正也産業振興部長は「PRや販路拡大は市が中心で、農協だけではすべての農家の利益を代表できない。農協と市が共同で申請したかった」。
市は地域ブランド申請をあきらめ、苦肉の策として「深谷ねぎ」の文字の一部をネギの絵に変えたロゴを3月下旬に通常の商標として申請した。
特許庁は「改正の要望が多いようなら検討が必要かもしれないが、現時点では考えていない」としている。