中国新聞社

ゲートは開くか 検証・芦田川河口堰


よどむ水 減る魚・鳥 アオコも発生
湖沼化進む生態系
満々と水をたたえた芦田川河口堰。一定間隔に並ぶ10の構造物は、ゲートの巻き上げローラーを格納した「堰柱」=下半分は水中 満々と水をたたえた芦田川河口堰。一定間隔に並ぶ10の構造物は、ゲートの巻き上げローラーを格納した「堰柱」=下半分は水中
(中)
(下)
index
home
  川面を渡る風が心地よい。芝生にベンチ、遊歩道もある。水際で 一羽のサギが細い首を伸ばし、散歩する人たちを見やっていた。

  茶緑色に濁る

 のどかな昼下がり気分は、川をのぞき込んで消えた。茶緑色に濁 る。ちぎれた水草や木っ端が浮いたまま、流れようとしない。浸し た指をなめてみた。かすかに甘く、土のにおい。

 広島県賀茂郡大和町に発し、世羅台地から福山平野を縦断する芦 田川。ここ福山市で瀬戸内海に注ぎ込む直前、鉄のゲートが、流れ をせき止める。
 そんな芦田川河口堰(ぜき)ができて、来年で四半世紀になる。
 「どぶ川じゃ」。福山市草戸町、芦田川漁協前組合長の三谷治郎 さん(81)は唇をかんだ。堰は、川と海の水が交ざり合う汽水域とと もに、名物だったヤマトシジミやアサリ漁を消した。ウナギ漁も今 は、堰の魚道をさかのぼる稚魚を取り、近くの池で養殖して川に返 す。いいウナギがとれる、と上流では喜ばれるが、川から陸に上 げ、県や市から養殖の補助金を受けなければ守れない自然の恵み。 「堰を撤去してほしい気持ちは今も消えん」  流れる川は本来、ヨシ(アシ)などの植物に洗われ、自浄作用を 持つ。「よどんだ水は、その能力に欠ける」と福山市新涯町二丁 目、淡水魚保護活動を続ける山陽フィッシュクラブ事務局長の渋谷 清之さん(51)。仲間たちと五年前、堰の魚類を調べた。水に触れた 数人が、原因不明のかゆみを訴えた。小魚やカエルを食べる外来種 のカムルチーなど、本来は湖や沼にすむ魚がいた。
 少雨高温だった今夏、堰近くでアオコが大量発生し、すえたよう な悪臭が漂ったのも、生態系の湖沼化を物語る。

  「巣 作れない」

 鳥たちの格好のすみかだった中州も減った。福山市水呑町、日本 鳥類保護連盟専門委員の梶野真正さん(75)は昨年、川近くの土管で 生まれ、溝で泥まみれになったカルガモの子を助けた。「河川敷を きれいにするほど、鳥は人や犬に追われる。中州がなければ巣を作 れない」。堰ができる前に比べ、カモ類は十分の一に減った、とみ ている。

BODの過去1年間の推移 汚濁を示す指標の一つ、BOD(生物化学的酸素要求量)。最近 一年間で見ても、上流の山手橋地点ですでに環境基準を超え、堰に 近い小水呑橋で、さらに高まる。汚れに弱い魚は生き残れないとさ れ、清流とはほど遠いレベルだ。

  ワースト1位

 しかも、中国地方の一級河川で芦田川の水質は二十七年間、ワー スト一位を続ける。流れをせき止めた時期とほぼ符合するが、「よ どませることが環境にいいとは言わない。ただ、汚れの主因は上流 から流れ込む生活廃水」と堰を管理する建設省福山工事事務所。堰 の水は工業用水に使う。塩水の混入を防ぐため、十門のゲートはふ だん、閉じてある。

 よどんだ水は、流れを取り戻せないのだろうか。

河口堰

≪芦田川河口堰≫
河口から1キロ上流にあり、全長450メート ル。貯水容量は496万トン。鉄製のゲート10門は可動式で、水位が 高まると中央の4門を底から約20センチ上げて放流するが、平常時は別 の小型の流量調整ゲートを使う。左岸に魚道があり、右岸にも新た な魚道を建設中。

(中) | (下) | index | home