山岸凉子『アラベスク』、有吉京子『SWAN』といえば、1970年代にバレエ漫画を変えた歴史的名作。この両作家が、それぞれ約30年ぶりに本格バレエ漫画に復帰、小、中学生読者にとどまらず、その母親世代や大人のバレエ・ファンからも注目を集めている。(西田朋子)
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有吉さんは、今月創刊の「SWAN MAGAZINE」(平凡社、季刊)で、パリ・オペラ座バレエ学校が舞台の『Maia まいあ―SWAN act2』をスタートさせた。現役ダンサーへのインタビューや世界のバレエ団ルポなどの記事も3分の2を占め、ダンス専門誌風のユニークな試みだ。
主人公は、『SWAN』(76〜81年、「週刊マーガレット」連載)で日本から世界のプリマへと羽ばたいたヒロイン真澄の娘で、14歳のまいあ。完結後も有吉さんはバレエものを手がけているが、20年以上たってもなお「続編を」という手紙が絶えず、海外での充電期間を経て「自分を表現するにはバレエ漫画しかない、という熱い気持ちが戻ってきた」と語る。「洋書しか資料がなかった当時と比べ、今は国内で、世界のバレエ公演にふれられる。隔世の感がありますね」
ファン待望の〈次世代編〉では「魂と身体の両方によって表現したい、踊りたいという根元的な欲求、本当の自分を探そうとする主人公の気づきと感動を読者に共有してもらえたら」。
一方の山岸さんは書評誌「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)で5年前から『舞姫 テレプシコーラ』(既刊7巻)を連載中だ。埼玉でバレエ教室をひらく母のもと、けがに苦しみながら世界を目指す天才肌の姉・千花(ちか)と、気弱だが振り付けにも才能を示す妹・六花(ゆき)の篠原姉妹を軸に、バレエに魅せられた少女たちの成長をじっくり描く。コンクールの舞台裏やバレエ団の内情、受験や留学事情までリアルに描きこまれ、大人にも読み応えがある。
『アラベスク』(71〜75年、「りぼん」「花とゆめ」連載)の舞台は当時、世界最高峰だった旧ソ連のバレエ学校。この連載の後、ソビエト崩壊で門外不出だったバレエ理論が知られるようになり、数多くの日本人ダンサーが世界のひのき舞台で活躍するようになった。こうした激動期を経て、今回は「最新の教授法を取り入れ、実際に踊る人に参考にしてもらえる実用的なバレエ漫画を描こうと思いました」と山岸さん。
「自分でも、少女時代に習っていたバレエを40代で再開したのですが、ダンサーが作り出す究極の美の、いかに過酷な鍛錬のたまものであることか」。試練にさらされ、それでも夢を追う少女たちの心情に迫るほどに、物語はドラマチックになる。
青年誌にも異色作
日本が世界有数のバレエ大国になったのは、バレエ漫画がブームの火付け役となったところが大きい。国内外で活躍する現役バレリーナの中にも、「影響を受けた」と話す人は少なくない。
最近では、青年誌に掲載された曽田正人『昴 スバル』(小学館、既刊11巻)、一度は挫折したヒロインが20代半ばで再びダンサーを志す槇村さとる『Do Da Dancin’!』(集英社、既刊9巻)など、異色のバレエ漫画も。
バレエ漫画とは、人間の肉体が作る極限のフォルム、その瞬間の美を画面に定着させ、同時にダンサーの内面と、人生のドラマをも描きうる希有(けう)なジャンルではないか。「トウシューズに画びょう」の時代はとっくに過ぎたが、やはりバレエは少女漫画の“華”と言えそうだ。
(2005年9月28日 読売新聞)
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